[本のおはなしvol.12 ] 「つきよのキャベツくん」
"本のおはなし”12回目!2月のスタートから早3ヶ月。
12回目の"本のおはなし”開催の5月13日は少し肌寒い霧雨。
最近はどうも季節が2週間くらい例年より早いような気がしています。
九州はもう梅雨入り?という情報も。
今回は私、扇谷一穂が選んだ長新太作『つきよのキャベツくん』
しっとりひやりとする外の梅雨の気配とは反対に、長新太作品への愛を熱く語る"本のおはなしvol.12”となりました。
キャベツくんシリーズは全部で5巻。そのどれもに奇想天外な長新太さんの世界が広がっています。
「??!」の連続の展開がやみつきに
「ナンセンスの王様」という異名をもって語られることも多い長新太さん。その作風は、手がけた作品に漏れなくにじみ出ている様な気がします。
教訓はないし、捉えどころもない。
「え、ここで終わり?」「こんな終わり方ってあり?」などなど、
目が点になる様な、読んでいる間は「??!」の連続。
今まで培ってきた物の見方や捉え方など、様々な角度から既成概念を壊してくる。それはまさに「度胆を抜かれる」体験で、私の脳の可動領域を広げてくれる様な気がします。
今回はどんな方法でびっくりさせてくれるのか。長新太さんの作品に新しく出会う度に、子どもと楽しみにする様になりました。
その世界は、そうそう他で味わえる様なものではなく、一度その魅力に捕らえられたらどんどん深みにはまって行く人も多いのではないでしょうか。
どこか丁寧なナンセンスワールド
そんな長新太さんの世界は、ただ破天荒なだけでなくどこか丁寧で、礼儀正しい。そこも私が大好きなところです。
好き勝手している様に見える登場人物が、突然敬語になったりする、その感じもなんとも味わい深い。
キャベツくんシリーズは、きちんとしたキャベツくんと、やんちゃをするブタヤマさんという二人の登場人物の関係性がこれまた素敵なのです。
ブタヤマさんは、常にキャベツくんのことを「おいしそうだな」と思っている。そして、そのことをキャベツくんにも伝えている。でも食べない。
『つきよのキャベツくん』には唐突に、チョビひげまで生やしている大きな「トンカツ」が美味しそうな匂いをさせながら歩いてくるのですが、
ブタヤマさんは、そのトンカツをも「美味しそう、食べたいな。」と思っている。でも、食べない。結局、トンカツは意外なものにパクリと食べられてしまうのですが、そこでは容赦なく食べられる。その辺りのさじ加減も絶妙です。
こうやって、あらすじを書いてみても「?」は増すばかり。
長新太さんの絵本の魅力は、何と言ってもあの独特な絵とともにあるものだなとも思います。(下記のサイトで全ページ読めるとのこと。よかったら!)
「考えるな、感じろ。」
長新太さんの圧倒的な世界観に接すると、そんな言葉が浮かんできます。
ナンセンスはもう古い?
"本のおはなし”の中では、ナンセンスという概念についても広がって行きました。以前どこかで目にした記事で、「東日本大震災以降ナンセンス的な要素のあるお笑いが流行らなくなった。」というものがありました。
日常を一変させる大規模な自然災害や、今までの生活感覚を大きく超えた圧倒的に不条理な出来事に接した時、人は筋道の通った、いわゆる「わかりやすい」事象を好む様になる。という様な趣旨だったと記憶しています。
2021年現在、今までの常識や習慣を覆す様な出来事が世界同時に起こっているという状況で、現実がSFの様に感じる時も少なからずあります。
そんな中にあっては、長新太さんワールドが少し現実に近くなった様な。
そんな気配も感じながら、改めてキャベツくんを読んでみると今までとはまた違った感じ方で読むことが出来るかもしれません。
長新太作品におけるキャベツとは
最後に、お話しは「長新太さんにとってのキャベツとは。」と言う方向に。
長新太さんの著作の中で、キャベツが出てくるお話がこのキャベツくんシリーズの他にもありました。
『キャベツくんのおしゃべり』
キャベツくんシリーズのキャベツくんとは違うキャベツくんの様ですが、ここで描かれているキャベツくんも、自分のことが好きな、でも全然キャベツのことをわかっていない猫のモモヨちゃんに投げられたりと散々な扱いを受けながらも、モモヨちゃんにきちんと向き合って、その良いところを認めている。なかなか素敵な存在なのです。
長新太さんにとって、キャベツは慎み深く、礼儀正しく物事の本質にきちんと向き合うというイメージの存在だったのかなと想像します。
そういえば、フランス語の愛称の中に、私のキャベツちゃんという意味のMon chou chou (私の愛しい人)という表現があるというのを学生時代、
教科書で見たことがあったのを思い出しました。
キャベツについて、私はまだまだ知らないことが多そうです。
キャベツくんとブタヤマさんの向かう先には
「どこかでおいしいものを食べましょう」
「むこうにおいしいレストランがあるから、なにかごちそうしてあげるよ」
キャベツくんシリーズのほとんどの本のエンディングに、キャベツくんのこのセリフがあります。奇想天外な出来事の後で、キャベツくんも、キャベツくんを食べないブタヤマさんも、物語の終わる頃にはいつもお腹が空いているのです。
二人の向かうレストランは、きっとちょっと気の利いたお洒落なレストランに違いない。カウンターに座ってぽそぽそとお話ししながら食べている二人の背中をそっと垣間見つつ、私も何かおいしいものを食べに行きたいなあ。と妄想する昨今です。
最後に、こんなサイトを見つけたので下記に。
長新太さんのゆかりの方へのインタビュー集です。
ワールドにさらに浸りたいたい方へ。
さて、今回の子守唄は、『つきよのキャベツくん』に因んでキャベツ?
いえいえ、キャベツではなくて「つきよ」にフォーカスして選びました。
大好きな『つきよのキャベツくん』に合わせるのはこれまた大好きな「Moon River」です。
まんまるな月に照らされて、広い広い場所を歩いているキャベツくんの姿を思い浮かべながら。
Moon River
Lyric: Johnny Mercer
Music :Henry Mancini
Moon River,
Wider than a mile:
I’m crossin’ you in style
Some day.
Old dream maker,
You heart breaker,
Wherever your goin’,
I’m goin’ your way:
Two drifters,
Off to see the world,
There’s such a lot of world
To see.
We’re after the same
Rainbow’s end
Waitin’ round the bend,
My huckleberry friend,
Moon River
and me.
さて次回は松尾由佳の選書で「でんしゃはうたう」
わずか1駅間の様子を、うたうような擬音語を使って描いた個性的な絵本をご紹介。その他、同作者(三宮麻由子さん)の絵本も合わせて紹介できたらと思います。お楽しみに。
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