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星空のスペシャリストが明かす!「天の川」を見るとっておきのコツ

七夕の夜の「おりひめ」と「ひこぼし」は空のどこにいるのでしょう。各地で撮影された美しい星空の写真とともに星を見ることの達人、コスモプラネタリウム渋谷で解説を行う村松修さんの案内で夏の夜空の星々をめぐります。(ひととき2020年7月号の特集「2020年星空の旅」より、一部を抜粋してお届けいたします)

ひととき7月号表紙画像

「夏の空は、天の川が見ごろです」

 夏、白く煙る天の川は、頭上を南北に横切って地平線に流れこむように落ちていく。さそり座の赤く燃えるアンタレスは赤星、西にオレンジ色に光るうしかい座のアルクトゥールスは麦星。星を見て、種蒔きや収穫の時期を知り、海が荒れるのを予見していた私たちの祖先は、大事な星に自分たちで名前をつけていた。なかでもいちばん知られ、親しまれているのが織女(おりひめ)と牽牛(ひこぼし)だろう。こと座の1等星で真っ白に輝くベガと、わし座の1等星の白いアルタイル。

 天の川をはさんで向かい合うこの2つの星が、年に1度、7月7日の七夕の夜にだけ会うことができるという伝説は、中国から日本には奈良時代に伝わった。万葉集には、七夕を詠んだ歌が132首もあるという。

 ただ、今の日本では、おりひめとひこぼしがどれかを指し示すことのできるひとは少ないのではないだろうか。そもそも都会では人間の作った明かりがまぶしくて、天の川どころか夜空の星もほとんど見えない。

 だからこそプラネタリウムで事前学習してほしい、と村松さんはいう。そうすれば本当の空でも見つけやすくなるから、と。

「今年7月7日、午後9時の星空を見てください。あっ、時間は大事です。太陽が沈んでまた昇ってくるまでの間も地球は自転していますから、星の見える方向と高さがどんどん変わってくる。何時の空かによって、見える星空が違うんですね」

 さあ、村松さんの実況中継の始まりだ。

「頭の真上からちょっと東寄り、はくちょう座の1等星デネブといっしょに、天の川のなかで大きな三角形を作っているのがベガとアルタイル。おりひめとひこぼしです。だいたい例年7月7日は梅雨の真っ只中なので、曇ることが多いんですけれども、もし晴れたらこんなふうな空を楽しんでいただきたい」

 しかも今年はたまたま満月に近く、月が明るくて、天の川と星が見られるような条件ではないそうなのだが……。それはそうと、今年の見どころは?

「ちょうど七夕の2つの星の下、南の空に、木星と土星が明るく並んでいます。もちろん肉眼でよく見えます。七夕の星も晴れていたら、都会でも肉眼で見えますよ。そして木星と土星のお隣には月も並んでいる。東の空、低いところです。これらの星と月がひと晩かけて、南の空から西の空へとゆっくり動いていく……それを眺めてほしいですね」

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ソフトな語り口で来場者を日々星の世界へ誘う村松さん
写真提供=コスモプラネタリウム渋谷

 明治に入って新暦が採用されるまでは、七夕の星祭とは旧暦7月7日のことだった。現在でもおよそひと月遅れのこの日を、旧七夕、または伝統的七夕と呼んで祝うこともある。なぜなら――、

「旧七夕こそ、みなさんに見ていただきたい星空なんです」

 村松さんが力を込める。

「今年は8月25日がそうです。午後9時の空には、ちょうど頭の真上に、おりひめとひこぼし、ベガとアルタイルが見えています。南には木星と土星が明るく、黄色く光っていて、東の空からは赤い火星が昇り始めている。そして大事なのが、月」

 旧暦のひと月は、必ず新月から始まる。だから毎月7日は、七日目の月。半月に近い月だ。

「西の空に月明かりがあるから、天の川は見えにくい。ところがありがたいことに、七日月というのは真夜中になると沈むんです。宵のうちは月といっしょに、七夕の星が輝いている。そして真夜中になると、おりひめとひこぼしの間に天の川が見えてくるんですよ。それが本当の、七夕の星の見え方なんです」

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山梨県鳴沢〈なるさわ〉村 富士ヶ嶺
写真=飯島裕

 地上から眺める天の川の輝きは繊細だ。きれいに見たければ、新月の夜を選ぶのがいい。

「今年の7月なら21日です。月がいないから、頭上の天の川と七夕の星をひと晩じゅう楽しめますよ」

案内=村松 修 文=瀬戸内みなみ

村松 修(むらまつ おさむ):1949年、東京都生まれ。天文博物館五島プラネタリウムに27年間勤務後、現在はコスモプラネタリウム渋谷で解説を行う。アマチュア天文家として多数の小惑星を見つけ、1993年には、自身の名が付いた「串田・村松彗星」を発見する。
瀬戸内みなみ(せとうち みなみ):広島県生まれ。上智大学文学部卒業後、会社勤務などを経て作家に。小説、ノンフィクションなどを手がけている。テーマは猫と旅と日本酒。著書に『にっぽん猫島紀行』(イースト新書)。

――この夏、遠くに出かけることは叶わなくとも、近所の公園や河原、海岸など見晴らしのよいところから、夜空を楽しんでみてはいかがでしょうか。ひととき本誌(2020年7月号)の特集では、まもなくミッションを終える「はやぶさ2」の課題について、JAXAの吉川真ミッションマネージャに語っていただきました。また、可愛らしいイラストを添えて星の思い出を綴った大宮エリーさんの素敵なエッセイも収録されております。星空のスペシャリストである村松さんの解説の続きが気になる方も、ぜひチェックしてみてください!(ほんのひととき編集チーム)

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ひととき7月号特集扉画像

特集「2020年星空の旅」
◉「はやぶさ2」地球へ JAXA吉川 真ミッションマネージャに聞く(文=荒舩良孝)
◉星を想う① 星を見上げる意味(文・絵=大宮エリー)
◉星を想う② いるか(森 雅之)
◉夜空を見上げて星を語ろう(案内=村松 修 文=瀬戸内みなみ)


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