[新連載]古代ギリシア神殿を想わせる築90年の荘厳な名建築「明治生命館」|甲斐みのりの新幹線で建築さんぽ(東京駅)
東京駅前のビル群を建築的視点で見渡すと、低層部の軒高が統一されているのに気付く。これは明治時代以降におこなわれた丸の内の都市計画の名残。皇居・日比谷濠に面して立ち、壮麗な姿でひときわ目をひく1934(昭和9)年竣工の「明治生命館」も、当時の百尺(31メートル)規制に合わせて建てられている。
設計は様式建築の名手と称された岡田信一郎。古代ギリシア神殿のような巨大な列柱が並ぶ外観や、各所に大理石を用いた2階まで吹き抜けの大空間は、古典主義様式の最高傑作と讃えられる。戦時下の金属回収や東京大空襲、戦後はアメリカ極東空軍司令部として接収されるなど、激動の時代を乗り越えた歴史的建造物。周囲のビルが姿を変える中、所有者の明治生命保険(現明治安田生命保険)は価値ある建物の全館保存を英断し、1997(平成9)年には昭和の建造物として、また近代の大規模オフィスビルとして初めて、国の重要文化財に指定された。
一般公開エリアである2階の回廊には、竣工時の荘厳な雰囲気を今に伝える会議室・食堂・執務室・応接室・健康相談室、館の歴史や建築を詳しく紹介する展示室が並び、誰でも無料で見学できる。
初めて訪れたとき、漆喰の天井を丸い花型飾り(ロゼット)が彩る、1階吹き抜けの優麗な空間内が、「明治安田」の店頭営業室・ほけんショップ丸の内として現役で使用されているのに驚いた。天窓から注ぐ優しい光の下で、私も相談してみたい。
同じく1階には、三菱2代目社長の岩﨑彌之助と、4代目社長の小彌太親子が収集したコレクションを収蔵する「静嘉堂文庫美術館」が移転してきた。活用しながら保存される、生きた名建築。東京駅から徒歩5分。道中のビルも愛でながら訪れてみてほしい。
文=甲斐みのり
写真=鍵岡龍門
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