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演じることは生きること(俳優・八嶋智人)|わたしの20代|ひととき創刊20周年特別企画

旅の月刊誌「ひととき」の創刊20周年を記念した本企画わたしの20代。各界の第一線で活躍されている方に今日に至る人生の礎をかたち作った「20代」のことを伺いました。(ひととき2021年12月号より)

 人前に出るのが好きで、小学生のときから学年集会や運動会の司会をしていました。祖母の詩吟をまねて、周りの大人に褒められた体験が元になっていますね。実は幼少期、「人は誰もが死ぬんだ」と気がついてすごくショックを受けたことがありました。それで考えたのは、「僕がいたことを覚えていてもらいたい」という死に対する生へのこだわり。手段はなんでもよかったんです。思春期にはモテたくてバンドでサックスも吹きましたが、管楽器だと歌が歌えないし(笑)、残ったのが芝居だった、という感じです。

 東京の大学に進学して演劇サークルに入ったものの、新人公演の脚本を書くはずの先輩が、書けずに逃げちゃった。仕方なく、中学・高校の同級生だった松村武と自分たちの劇団「カムカムミニキーナ」を旗揚げ。バブル期の最後で、企業も文化にお金を出す時代だったので、バンバン公演を打とうと前のめりになっていました。他の劇団の人と飲みに行っても、作品は面白いけどあの役者より自分がやったほうがいいと平気で言う。今、生意気な20歳の自分に会ったら、すごく嫌いだと思います(笑)。

 学生時代は、茗荷谷みょうがたに駅近くの奈良県人寮で暮らしました。変な人、面白い先輩がたくさんいて、いろんな話ができた。先輩の部屋に呼ばれて「一発芸をやれ!」と言われ、即興でアニメの唄を歌う。褒められると出てくる酒のグレードが上がるんです。きっと芝居に役だっていますね。

 卒業後は、劇団を続けながら、知り合いの紹介で、アニメ「るろうに剣心」で「うーっ」と斬られる役や、「こち亀(*1)」で「おーい、両さん!」と一声だけのガヤ(小さな役)をしました。他劇団にも客演をして、劇団「泪目銀座なみだめぎんざ」の芝居を見た三谷幸喜みたにこうきさんからドラマ「古畑任三郎」にセリフが1個だけの役で声をかけていただいた。僕は出会い運とつながり運がすごくいいんです。

*1 原作は秋本治による漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」

 演劇もドラマもバラエティーも僕にとって区別はありません。高橋克実さんと「トリビアの泉(*2)」の司会をしたときも、司会者を演じている感覚でした。例えるなら、毎回よくわからない「お祭」に参加して、やってるうちに楽しくなってくる。僕の仕事は、ずっと変わっていないですね。

*2 2002年から2006年まで放送されていたフジテレビの雑学バラエティー番組

談話構成=ペリー荻野

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カムカムミニキーナの公演「越前牛乳〜飲んでリヴィエラ」(1996年、シアターサンモール)にて

八嶋智人(やしま・のりと)
俳優。1970年、奈良県生まれ。90年、松村武らとともに、劇団「カムカムミニキーナ」を旗揚げ。以降、舞台やドラマ、バラエティー、CM、映画などで幅広く活躍中。2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、甲斐源氏の武田信義役に。また、1/7~31まで舞台「ミネオラ・ツインズ」に出演。

出典:ひととき2021年12月号


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