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京都――タイルと建築100年の物語【紀行1:先斗町歌舞練場、京都市京セラ美術館】

レトロなビルのファサードや銭湯の浴場を飾る「タイル」。どこかノスタルジックな趣のあるこの言葉が使われはじめたのは、ちょうど100年前のことでした。近代建築の宝庫である京都で、建築史家の倉方俊輔さんと美術家の中村裕太さんがタイル建築を求めてそぞろ歩きます。(ひととき2022年4月号特集マガジン「京都――タイルと建築、100年の物語」
文=橋本裕子 写真=荒井孝治

先斗町歌舞練場

京都が生んだ美術タイル「泰山タイル」の宝庫

 明治から昭和時代にかけて活躍した小説家・谷崎潤一郎は随筆『陰翳いんえい礼讃らいさん』のなかで、タイルを痛烈にくさしている。曰く「ケバケバしい」「『風雅』や『花鳥風月』とは全く縁が切れてしまう」などと、散々な言いようである。文豪に楯つく気はないが、京都・鴨川右岸にある先斗町ぽんとちょう歌舞練場の建物を前にすると、谷崎先生に文句のひとつも言いたくなる。なにしろ目の前の建物は、タイルを外壁全面に使っているのに、格式さえ感じさせる落ち着いた佇まいだからだ。

「鴨川をどり」の看板が目を引く先斗町歌舞練場の正面玄関
なまこ壁を思わせる腰壁部分には、赤茶色の花文レリーフと布目のタイルが交互に貼られている
建物全体を覆うのは横長のスクラッチタイル

「まぁまぁ(笑)。谷崎が『ケバケバしい』と断じたのは、屋内の水回りに使われた白い内装タイルのこと。先斗町歌舞練場の外装に使われている泰山タイルとは、目的も用途も違いますから」

 そう教えてくれたのは、美術家の中村裕太さん。陶磁器やタイルなどの学術研究とともに、広く創作活動に取り組んでいる。

「外壁のスクラッチタイルがいい味を出していますね。スクラッチタイルとは、くしのように釘を1列に並べた道具で引っ掻いて模様をつけたもの。アメリカの建築家フランク・ロイド・ライトが設計した東京の旧帝国ホテル(1923=大正12年竣工)で使われ、注目を浴びました。石や煉瓦に似た重厚さを醸し出しながら、どこかやわらかい。さすが泰山タイル(25頁)ですよ」

 こう評するのは、日本の近現代建築を専門とする建築史家の倉方俊輔さんだ。

「タイルは石や木、煉瓦に“擬態”する建材だということがよくわかります」と中村さんが言葉をつないだ。この日「はじめまして」の挨拶を交わしたばかりの中村さんと倉方さん。すでに息はぴったりである。

先斗町歌舞練場へ向かう道すがら、小さな店が軒を並べる路地で建物ウォッチング中の倉方さんと中村さん。タイルが至るところに見られる京都の街はどこを歩いても楽しい

花街らしさいっぱいの近代建築

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レトロなビルのファサードや銭湯の浴場を飾る「タイル」。どこかノスタルジックな趣のあるこの言葉が使われはじめたのは、ちょうど100年前のこと…

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