東海道新幹線 各駅停車で紅葉狩りの旅へ
[熱海駅]熱海梅園(静岡県)
温暖な気候で知られる静岡県熱海市。「日本で最も遅いと言われる熱海の紅葉」の名所とされている歴史ある梅園です。熱海梅園の梅は「日本で最も早咲きの梅」として知られていますが、梅は11月中旬あたりから開花が始まります。秋から翌年の春にかけて、紅葉から梅、そして桜へと、季節の移り変わりのように自然を楽しめるのがこちらの特徴。時季によっては早咲の梅と紅葉を同時に見られるかもしれません。
初川清流は5~6月には蛍が舞うことでも知られる、静かで美しい川。熱海の梅園に紅葉のコントラストと、澄んだ川のせせらぎの音が流れる様子に、清々しさを覚えることでしょう。
現在、カエデ類は約380本、梅は60品種469本が植えられています。12月8日までは、もみじまつりが開催中。イベント期間中は、梅園内の「和風庭園」にて「足湯」が開設され、散策で疲れた体を癒してくれます。温泉地・熱海の雰囲気を、気軽に味わうのもよいでしょう。ライトアップで夜でも紅葉を楽しめるため、のんびりと一日中自然を堪能するにはぴったりのスポットです。
[浜松駅]浜松城公園(静岡県)
浜松駅から徒歩で20分と気軽に行ける、浜松市の中心の紅葉スポットが浜松城公園。中心地にもかかわらず、豊かな緑で愛されている公園です。浜松城といえば、徳川家康が天下を盗るために築城したお城。「出世城」とも言われています。徳川幕府300年の歴史は、まさにここから始まったといえるでしょう。枝垂れ桜や山桜などの桜の名所としても知られ、一年を通してイベントが数多く行われています。家康が全盛期の17年を過ごしたこの場所も、現在では市民が集う憩いの公園に。秋はそんな家康のお城を囲むようにして、種類豊富な木々が公園内を彩ります。
1950(昭和25)年に開園した浜松城公園は、1958(昭和33)年には天守が復元され、令和3年には天守閣がフルリニューアルしました(写真はリニューアル前の様子。実際には異なる箇所があります)。展望台からは、紅葉に染まった浜松市街を一望できます。晴れた日は浜名湖や富士山も見渡せる絶景スポット。家康も、もしかしたら城下の紅葉を眺めながら、野望を語ったかもしれません。
園内の見どころは、公園の中ほどにある日本庭園。滝や四阿(東屋)、池などを巡る深山式回遊型の日本庭園で、浜松城公園内の紅葉スポットの中心でもあります。四阿からの眺めもまた風情があり、ひと休みするにも最適です。
浜松城天守閣は22時までライトアップを行っています。夜桜ならぬ「夜もみじ」もまた幻想的で、昼間とはひと味違う見ごたえがあります。贅沢な時間が過ごせそうですね。
[豊橋駅]吉田城 ※豊橋公園内(愛知県)
いまも路面電車が走る少しレトロな雰囲気を感じる豊橋。ちくわ、カレーうどんなどのご当地グルメを堪能しつつ、腹ごなしで30分ほどてくてく歩いて吉田城の紅葉狩りへ行ってみましょう。東海道新幹線沿線は、さすが徳川ゆかりのお城が多くあり、秋は自然と歴史のコラボレーションを感じられます。
1496(明応5)年頃に築かれた今橋城が吉田城の前身。今橋の地名が吉田となり、吉田城と改められたのちは、松平(徳川)家康の家臣であった酒井忠次が城代に、家康が関東に移ったのちは池田照政(輝政)が城主を務めました。
1954(昭和29)年に模擬復興された鉄櫓が、吉田城の象徴として鎮座。最盛期は全国屈指の規模を誇っていました。その権威から、歌川広重の浮世絵木版画『東海道五十三次』にも描かれているほど、時代の象徴であり、東海道の名物でもあったのです。豊川のほとりにある鉄櫓の周りのダイナミックな紅葉は、まるで殿を支える家臣のよう。華を添えて、現在の吉田城をより偉大に見せています。
かつて吉田城があった場所には、いまは豊橋公園、市役所などが建ち、豊橋の人々で賑わうスポット。豊橋公園には、豊橋市美術博物館などの文化施設や、テニスコート、武道会館などのスポーツ施設も多数。文化の発信地にもなっています。緑にあふれた公園内は市民のおさんぽコース。赤や黄色だけではなく、濃い緑や冬支度をした木々も混ざり、日常に寄り添う紅葉が楽しめます。
遊歩道などを歩くだけでも、表情のちがう紅葉との出合いを楽しめるでしょう。やさしい光と空気も相まって、穏やかな秋の景色が広がっています。
豊橋公園の一角にある豊橋市三の丸会館の「千切庵」には、手入れの行き届いた庭園があります。そちらの庭園から見える景色もまた一興。静かな和の空間で立礼茶席(机といすのある茶席)が開かれていますので、一服しながら紅葉を眺めるのも、粋な楽しみ方です。ぜひ障子を開けて、豊川の流れと紅葉が織りなす景色を楽しんでください。
[米原駅]曹洞宗 吸湖山 青岸寺(滋賀県)
名古屋(愛知)・岐阜を越えて滋賀県の米原駅へ。一足飛びで越えた岐阜県は関東・関西の食文化の境目。名古屋の次の停車駅・岐阜羽島駅と、隣の米原駅ではうどんのつゆの色が違う、なんてこともあるほど、東西の食文化の分岐点です。
江戸時代には、中山道と北国街道の分岐点で、交通の要所だったという米原駅。紅葉の穴場として知られているのが、曹洞宗 吸湖山 青岸寺。御本尊は木造聖観音菩薩坐像。永和元年(1375年)に佐々木六角氏頼により金剛仏師讃岐法眼尭尊に刻ませたものです。また平安時代末期の彫刻とされている十一面観世音菩薩も祀られています。
参道にできる紅葉のトンネルがみどころのひとつ。見上げた紅葉の木々たちが旅人を境内に誘います。12月あたりからは、地面に散った色とりどりの落ち葉も見事。特に、落ち葉が夕日に染まった様子もまたおすすめ。紅葉のトンネルと落ち葉のカーペットに導かれながら、山門をくぐると名物の庭園が登場します。
青岸寺の庭園は、江戸時代に作られた国指定の名勝庭園。普段は枯山水庭園ですが、四季折々や天候でも違った景色が楽しめます。雨が降れば伏流水が染み出し、池泉庭園に姿を変えます。秋は赤や黄色などの鮮やかな色が加わり、よりいっそう庭園の美しさを際立たせます。また「雪吊り(雪囲い)」がされた松の様子は、ほどなくやってくるであろう滋賀の雪深い情景を思わせるのです。
参拝後は、境内にある茶寮「喫茶 去(kissa-ko)」からも、庭園の紅葉に浸れます。日々の喧騒から離れ、紅葉を愛でながらほっと安らぐひとときになることでしょう。
東海道新幹線の各駅停車駅には、紅葉スポットが点在しています。また新幹線の車窓から見える色づいた木々もまた、癒しを与えてくれます。本格的な冬が始まる前の短いこの時季、新幹線に乗ってぜひ各駅停車の旅に出てみてはいかがでしょうか。心に残る風景に出合えるかもしれません。
文=濱口真由美