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フィレンツェと京都をつなぐエンジュの木|花の道しるべ from 京都
花にまつわる文化・伝統芸能などを未生流笹岡・華道家元の笹岡隆甫さんがひもとく連載コラム『花の道しるべ from 京都』。第23回は美しき都、フィレンツェと京都市の意外な共通点についてです。笹岡さんは左京区御蔭通の街路樹、エンジュを見ると、かつて京都フィレンツェ姉妹都市50周年にヴェッキオ宮殿でいけばなを披露した時のことを思い出すと言います。
家元のすぐ近くに、東西に伸びる御蔭通という道がある。東へ向かうと滋賀県に抜ける山中越え、西には下鴨神社。葵祭にさきがけて5月12日に催行される御蔭祭がその名の由来と言われる。この御蔭通、両側にエンジュの並木があり、緑のトンネルができる。新緑のころは、ひときわ瑞々しく美しい。
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エンジュを見ると、フィレンツェでの文化交流を思い出す。2015年6月のことだから、もう8年も前のことだ。京都フィレンツェ姉妹都市提携50周年にあたり、フィレンツェでいけばなを披露した。
海外で花をいける際に、最も重要なのが花材の手配だ。いけばなの主役は、花ではなく枝ものだが、海外の花屋ではほとんど扱っていない。そこで、山野や街路樹、庭園で切らせていただくことになる。フィレンツェは京都と同じく、周囲を丘に囲まれた盆地。旧市街地から南方の丘にあるバルベリーニ氏の邸宅で、庭木を切らせていただけることになった。ローマ法王を輩出した名家だ。山に向かって伸びる広大な庭で、夜には美しい丘蛍(陸生のホタル)も見られるという。
まずは、玄関前のレッドウッドの枝ぶりに目をひかれるが、一番下の横枝でも、高さ5m以上。脚立に上っても届かず、諦めざるをえない。最初に切らせていただいたのは、邸宅の正面にそびえる庭のシンボルツリー、シナノキ。4月にいただいたメールの添付写真ではまだ芽吹いていなかった枝に、美しい丸い葉をつけていた。こちらも10mを超える大木で、脚立で切れる場所は限られてくる。そして、隣のシダレエンジュ。動きのある魅力的な枝ぶりに目を引かれ、当初の約束にはなかったが、思わず「これもよいですか?」と許可をいただく。京都とフィレンツェの縁を、エンジュが結んでくれたようで、なんだか嬉しくなった。
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花器は、京都に留学経験のあるフィレンツェのインテリアデザイナー、Niccolo Poggi氏によるもの。ガラスの天板を外したテーブルの“脚”を花器に転用した。フォルムが美しく、花器としても魅力的だ。
まずは、右手前に力強い枝ぶりのシナノキを立ち上げ、その後ろにシダレエンジュの流れる枝ぶりを添える。左手には、シダレエンジュの枯れ枝を入れ、大輪のユリを合わせた。ちなみに、フィレンツェの紋章は“ユリの紋章”と呼ばれている(実際にはアイリスを図案化したものだそうだ)。
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記念式典は、ヴェッキオ宮殿で行われた。14世紀初頭、フィレンツェ共和国の政庁舎として建設され、一時、メディチ家もここを住居とした。現在でも、フィレンツェ市庁舎として使われている。会場となる「500人大広間」は、ダ・ヴィンチとミケランジェロが競作をしたと伝えられている歴史的な場所。ヴァザーリの壁画の裏側には、ダ・ヴィンチの壁画が隠されているとされる。
我々の出番は、冒頭。京都市交響楽団による弦楽四重奏に合わせ、流派代表10名がステージに上がり、次々と花枝を挿していく。完成したいけばな作品の前で、舞を披露してくれたのは、宮川町のとし夏菜*さん。京都らしい演出に、現地の皆さんも喜んでくださった。私たちにとっても、フィレンツェの象徴ともいうべきヴェッキオ宮殿でいけばなパフォーマンスを披露できたのは、得難い経験だった。
*京都の花街、宮川町のとし夏菜さん
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以前は、毎年のように海外で花をいける機会があったが、ここしばらく実現していない。世の中も落ち着きを取り戻し、海外との往来も戻ってきた。近いうちに、また海外で花をいけてみたい。御蔭通のエンジュ並木を眺めながら、そう思った。
文・写真=笹岡隆甫
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笹岡隆甫(ささおか・りゅうほ)
華道「未生流笹岡」家元。京都ノートルダム女子大学客員教授。大正大学 客員教授。1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒、同大学院修士課程修了。2011年11月、「未生流笹岡」三代家元継承。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、2016年にはG7伊勢志摩サミットの会場装花を担当。近著に『いけばな』(新潮新書)。
●未生流笹岡HP:http://www.kadou.net/
Instagram:ryuho.sasaoka
Twitter:@ryuho_sasaoka
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