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奄美の味! もとじの鶏飯|柳家喬太郎の旅メシ道中記

当代一の落語家・柳家喬太郎師匠。お声がかかれば全国あちこち、笑いを届けに出かけます。旅の合間の楽しみは、こころに沁みる土地の味。大好きなあのメシ、もう一度食べたいあのメシ、今日もどこかで旅のメシ──。この連載「旅メシ道中記」では、喬太郎師匠の旅メシをご紹介します。

 若い頃は地方公演の打ち上げでしこたま呑んでも、ホテルの朝食バイキングには必ず行ったもんです。定番は米と加工肉。カリカリに焼かれたベーコンをですね、ご飯にのっけたら、ちょいと醤油をつけた海苔で巻いて食べるわけです。こりゃね、うまいなんてもんじゃありません。米+加工肉は正義です。だけど年々、朝食がっつりがキツくなってきた。そんな時、鹿児島のビジネスホテルで出合ったのが鶏飯けいはん*でした。お茶漬けみたいにさらっと食べられて、疲れた胃袋にやさしく染み渡る……若い時分にはわからなかったうまさ。市内のビジホの朝食には大概並んでるので、僕のような中年が多いのでしょう(笑)。

 一度でいいから奄美大島で本格的な鶏飯が食べたいけど、いかんせん鹿児島市から船で約11時間かかる。そこで編集部から「本場の味が食べられるらしい」と薦められて訪ねたのが、市内にある「鶏飯もとじ」。ご主人のもとみつさんと奥様の節子さん、奄美出身の夫婦が作る鶏飯が自慢の店です。

 鶏飯セット、さっそくいただきました。何といっても具材の種類が豊富! 蒸し鶏、錦糸卵、しいたけの甘辛煮、海苔、ねぎ、紅生姜、柑橘の皮、たくあん漬け。何をどれだけのせるか考えるだけで楽しいです。ご飯に好きな具材をのせたら、たっぷりの鶏ガラでとった黄金色のスープをかける。ビジホの鶏飯もおいしいですけどね、このスープには敵いません。味付けは塩と薄口しょうゆだけであっさりしているけどコクがあって、鶏のうま味が詰まってる。何ならご飯にスープだけでもいける!

んでもって秀逸なのが副菜よ。奄美産のパパイヤの漬物とにがうり味噌、沖縄産のもずく酢、きんぴら、ぜんぶおいしい。とくに、島味噌(粒味噌)で作るにがうり味噌は、奄美のざらめ糖がゴーヤの苦味を和らげていてクセになるうまさ。これだけでご飯一杯食べられます!

 たくさんの具材に雑味のないスープ。本格的な鶏飯って、とても手間のかかる料理だとわかりました。でも味の要は、スープの取り方もにがうり味噌の作り方もあけすけに教えてくれる元治さんご夫妻のお人柄のような気がします。おおらかな心で作る、細やかな仕事の鶏飯。また食べに来たいな。あ、ちなみに夜は「奄美の油ソーメン」や「塩豚スライス」といった魅力的な島料理が並びます。合わせるのはもちろん黒糖焼酎……翌朝はやっぱり、鶏飯だな。(談)

談=柳家喬太郎 イラストレーション=大崎𠮷之

*奄美大島の郷土料理。江戸時代、薩摩藩の役人をもてなすために作ったのが始まりといわれる

鶏飯もとじ 
☎090-8666-2707
[所]鹿児島市谷山中央6-13-16
[時]11時~LO14時、18時~LO21時 
*月・木曜は昼営業のみで鶏飯セットを提供 
[休]火・水曜(祝日は営業の場合もあり) 
[料]鶏飯セット1,300円

【師匠プロフィール】
柳家喬太郎
(やなぎや・きょうたろう)
やなぎや きょうたろう/落語家。1963年、東京都世田谷区生まれ。大学卒業後、書店勤務を経て89年に柳家さん喬に入門。2000年真打昇進。「ビジホの朝食にカレーと稲庭うどんがあったら、僕は間違いなく“稲庭カレーうどん”を作ります」

出典:ひととき2024年11月号

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