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【宇部の野外彫刻】風景となって街の記憶に刻まれてゆくアート(山口県宇部市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2023年5月号より)

 快晴の空の色そのままの青い湖を抱く、広大なときわ公園。その一角、UBEうべビエンナーレ彫刻の丘に、ひときわ目を引く彫刻「はじまりのはじまり」があった。3メートルを超す巨大な卵の、鈍く光る金属の殻の隙間から植物が顔を覗かせている。「毎日定刻に卵の頭から水が噴き出します。夏には植物が伸びて緑も濃くなり、全く違う印象になりますよ」と宇部市文化振興課の山本結菜ゆなさんが説明してくれた。

ステンレスパーツの隙間を植物が覆い、日々変化する彫刻作品「はじまりのはじまり」(三宅之功〈しこう〉、2019年 ときわ公園UBEビエンナーレ彫刻の丘)

 湖の青を透かして立つアクリルのプレートは、昨年開催された第29回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)の大賞受賞作「ディスタンス」。「コロナ禍で外界や人との距離を意識せざるをえなくなった時代を象徴するような作品です」(山本さん)

透明なアクリル板で微妙な距離感を表現した「ディスタンス」(西澤利高、2022年)

 宇部市の野外彫刻展は60年余の長い歴史をもつ。「きっかけは1958年に旧宇部駅前の泉水に設置された『ゆあみする女』(ファルコネ作)のレプリカ像でした。当時、市民からの反響がとても大きかったと聞いています」と山本さん。戦争で荒れた街の復興をめざし、心の豊かさを取り戻そうという市民運動とともに、彫刻による街づくりがスタート。61年には第1回宇部市野外彫刻展が開催された。以来、2年に1度開かれてきた展覧会はUBEビエンナーレと名称を変え、海外にも知られる公募展となっている。「入賞作は彫刻の丘に展示した後、公園内や街中に設置されます。市内には200点以上の彫刻があるんですよ」。

「ゆあみする女」の置かれた駅前(旧宇部駅)(写真上)と「そりのあるかたち」(澄川喜一、1981年)が設置された現在の宇部新川駅前(写真下)

 風雨にさらされる野外彫刻はメンテナンスが欠かせない。年に2回、春分の日と秋分の日には、市民による彫刻清掃が実施されているという。清掃活動を呼びかける「うべ彫刻ファン倶楽部」会長の作村良一さんは「自分がきれいにした彫刻には愛着が湧き、その後も気にかけるようになります。子供も大人も、楽しみながら清掃に参加することで、彫刻がより身近な存在になっていると思います」と語る。

宇部の空の色を映したような「そらいろのテーブルあるいは風の色のパズル」(志賀政夫、2022年)
循環する自然に着想を得た「月と山、水脈」(岡田健太郎、2022年)
UBEビエンナーレのシンボル的作品「蟻の城」(向井良吉、1962年)には、宇部の工場から出た廃材が使われている
船の帆のように風で緩やかに動く「時のシルエット」(新宮晋、2003年)

 実際に街を歩いてみた。中心部を走るシンボルロード、公園、川沿いの遊歩道、学校……具象的な彫刻からオブジェのような現代彫刻まで、人々が出会い集う場所に、ふと足を止めたくなる彫刻がある。それぞれが大切に手入れされ、街になじみ、風景の一部となって。これからも、たくさんの彫刻とともに、この街の未来図が描かれてゆくのだろう。

シンボルロードに立つ「メッセージ」(二口金一、1991年)
山口大学工学部内の「時空の支点/飛び立つ時」(生形貴春、2001年)
巨大な砂時計のような形の「SEED 増殖」(伊藤憲太郎、1999年)。交差点の景色や人が映り込んで常に見え方が変わる
市民による彫刻清掃。作品は「Transfiguration“LINK” Ⅶ」(竹内三雄、1991年)

◎ときわ公園内・ときわ湖水ホール アートギャラリーにて6月18日(日)まで企画展「Why彫刻?-UBEビエンナーレ再発見Ⅰ-」が開催中

文=宮下由美 写真=阿部吉泰

ご当地INFORMATION
●宇部市のプロフィール
瀬戸内海の周防灘に面した山口県南西部に位置する。温暖で雨の少ない瀬戸内海式気候で、北部には豊かな自然が広がり、南部は商業地域としてにぎわう。明治期以降、石炭産業により発展し、現在は瀬戸内工業地域の中心をなす近代的工業都市として知られている。
●問い合わせ先
宇部市文化振興課
UBEビエンナーレ推進係
☎0836-34-8562
ときわ公園
☎0836-54-0551

出典:ひととき2023年5月号

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