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天地衾枕|心に響く101の言葉(8)

奈良の古刹・興福寺の前貫首が、仏の教えと深い学識をもとに、古今の名言を選び、自らの書とエッセイでつづった本書愛蔵版 心に響く101の言葉(多川俊映 著)よりお届けします。

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天と地との間に在る自分

 年が改まると、毎年のことだが、新しい一年、こんなこともやりたいし、あんなこともしてみたい。あんなふうにもなりたい。と、思う。私たちの願いごとは尽きない。

 しかし、思ってもみなかったことが、次々に起る世の中だ。とにもかくにも、穏やかな一年であれかし。それが、誰しもの切なる祈りにちがいない。

 これは、李白の漢詩「友人会宿」の一句──。親しい友とひなびた湯宿にでも出かけ、一夜グビグビれば、溜りに溜った愁いも、コッパミジン。

 いい月影の今宵は、生計たつきの身ごしらえなんぞサラリと脱ぎ捨て、思う存分、語り合おうではないか。夜は長い。清談、ときに人の噂話もよかろう。でも──。

酔い来って空山くうざんせば
天地すなわち衾枕きんちんなり

 酔っ払って、人気ひとけのない山の宿に一たび臥し眠れば、天と地とがそのまま布団と枕だ……。

 もとより、私たちは天地の間にある。が、そんな自然の中という感覚も意識も、はっきりいって乏しい。ただただ人の世にあくせくして、視野狭窄に陥り、つい天と地との間にあることを忘れるのだ。

 そんなかたくなな心をほぐし、天はふすま、地は枕とおもえば、気宇も壮大だ。

老院99の言葉2

多川俊映(たがわ・しゅんえい)
1947年、奈良県生まれ。立命館大学文学部心理学専攻卒。2019年までの6期30年、法相宗大本山興福寺の貫首を務めた。現在は寺務老院(責任役員)、帝塚山大学特別客員教授。貫首在任中は世界遺産でもある興福寺の史跡整備を進め、江戸時代に焼失した中金堂の再建に尽力した。また「唯識」の普及に努め、著書に『唯識入門』『俳句で学ぶ唯識 超入門―わが心の構造』(ともに春秋社)や『唯識とはなにか』(角川ソフィア文庫)、『仏像 みる・みられる』(KADOKAWA)などがある。

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