【古都の革靴 KOTOKA】不規則なシボやシワ 靴それぞれの革の個性を楽しむ(奈良県大和郡山市)
2019年、奈良県大和郡山市の7社の靴メーカーが共同で立ち上げたブランド、それがKOTOKAだ。じつは奈良県は日本有数の紳士革靴の産地。大和郡山市では1960年代に革靴産業が発展し、1984(昭和59)年には奈良県靴工場団地(現小泉工業団地)がつくられるほど地場産業として栄えた。
しかし日本の他の製造業と同じく、近年は外国製品との低価格競争に疲弊し、往時の勢いは消えつつあった。半世紀以上の経験に裏打ちされた確かな技術があるのに、産地としての認知度も不十分なままだ。再興をかけて、7社の若手が集まり、議論を重ねた。そのうちのひとり、オリエンタルシューズの松本英智さんがいう。
「やはり奈良らしい革靴を目指そう。それが結論でした」
奈良は日本の国づくりが始まった地でもある。奈良らしいとは日本らしいということと同義であろう。そこで、松本さんたちが導き出した答えは3つ。日本料理のように素材(国産革)のよさを最大限に生かし、シンプルな美しさを引き出すことに長けた日本人の美意識を基に、古社寺にも似た、時を経て深まる味わいを目指すこと。
そうしてできたKOTOKAの靴を最初に見て感じたのは、威張っていないというのか、まるいというのか、とてもやわらかな印象。履いてみると、その印象通りの、足全体がやさしく包み込まれるうれしさがあった。これこそが、日本のタンナー(製革業者)による選りすぐりの、厚手だけれどしなやかな1枚の革を使い、裏貼りや縫い合わせを最小限にとどめてつくった成果なのだろう。
現在、KOTOKAではメンズ10型、レディース7型の定番品のほか、限定品を展開。今年4月には奈良墨で染めた革靴が登場し好評だという。販売はウェブサイトからのみ。膝下の奈良と、東京、大阪には試し履きのできる施設が設置されている。
文=黒原康一郎 写真=新山貴一
出典:ひととき2022年9月号
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