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【水だんご】名水の里・黒部「生地」で育まれたおやつ(富山県黒部市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2024年7月号より)

 北アルプスから富山湾へと流れ込む黒部川左岸の扇状地帯に「生地いくじ」という小さな港町がある。この町では古来、「清水しょうず」と呼ばれる湧き水が至る所に点在し、人々の暮らしに潤いを与えてきた。今も清水スポットが20カ所あり生活に利用されているほか、個人宅の湧き水を含めると600カ所にもなるという。

名水百選選定を記念して作られた、黒部漁港近くの「名水公園の清水」。生地名水巡りの出発点であり、近所の人たちが水をくみに訪れる姿も見かける
地中に打ち込んだ1.5メートルの管から湧き出す「前名寺の清水」。寺の裏庭の池で湧き出す清水は、生地で最も古い清水の一つ

 生地には、地元の人々が愛してやまない名物がある。「水だんご」「水だご」と呼ばれて親しまれてきた。米粉に片栗粉を混ぜて蒸し、滑らかになるまで突いたら棒状にし、あめ玉ほどの大きさにする。食べる前に清水で洗うことで、冷ややかで、つるんとした食感になるのがおいしさの秘密。食べる直前に振りかける青きな粉も富山県産の青大豆や大豆を使う。

魚津市にある「藤吉」の水だんごは、富山県産青大豆から作られる青きな粉をまぶしていただく

 生地の食文化だった水だんごが、黒部市だけでなく隣の魚津市、さらには県外へと広がっている。きっかけを作ったのは、魚津市で「水だんご専門店 藤吉」を運営する大野慎太郎さん。「1957(昭和32)年から生地で水だんごを製造販売していた河田屋さんが閉店するのを知り、伝統の味を絶やしてはいけないと、お願いにお願いを重ねて製法から機械、ロゴなど全てを引き継がせていただきました」と話す。

「藤吉」のカフェで人気の「水だんごパフェ」と「コーヒーゼリー水だんごパフェ」(9月まで)(上)みたらしたれをかけた水だんごも販売している(下)
黒部市生地で生まれた富山の伝統の味、水だんごの製法を受け継ぎ、魚津市で復活させた「藤吉」代表の大野慎太郎さんと、カフェ店長の大野あかりさん

 藤吉の本社は食品の卸問屋を営んでおり、富山県産コシヒカリを昔ながらの臼き製法で細かくした米粉を河田屋に卸していた。その縁もあり大野さんは以前から河田屋で水だんご作りを手伝ってきた。それでも「河田屋さんの水だんごに親しんでいたお客様に納得していただけるものにするのに3年以上かかりました。基本を大切に、食べることでふるさとを思い出すような存在であり続けたいですね」と微笑ほほえむ大野さんらの努力で消費期限が1日から4日間に延び、現在では富山県のスーパーや物産館でも売られ、通年食べられるようになった。

水だんごはスーパーでも販売されている(右上)。ピンバッチ「水だんごちゃん」(右下)も扱う

 生地では、七夕やお盆、夏祭りなどにお供えや家族用に家庭で水だんごが作られていたという。「清水のある生地の夏の風物詩でした。懐かしい味を大切に伝えていきたいですね」と話す、黒部市の地域団体・生地あいの会のお母さんたちは心のこもった体験会を開いている。

水だんごの作り方を伝承するためイベントを開催している生地あいの会の皆さん
蒸してツルンツルンになっただんごの生地〈きじ〉は、直径2センチの太さに伸ばす

水だんごを購入したら、生地の清水で洗い、そのつるつるした喉越しを体験してはいかがだろうか。

だんご生地〈きじ〉は、約2センチの長さに切り、とり粉をつければ出来上がり。清水の冷たい水で洗えば、瑞々しくなる
生地では、色づけしたあざやかな緑色のきな粉が好まれている

文=金丸裕子 写真=中庭愉生

ご当地INFORMATION
●黒部市のプロフィール

標高3000メートル級の峰々が連なる立山連峰から流れ出す水は、一気に水深1000メートルの富山湾へ流れ込む。その高低差4000メートルの地形により、黒部市では車で30分ほどの圏内に黒部渓谷や宇奈月温泉、黒部川扇状地の湧き水、富山湾など多彩な大自然を間近に感じられる。富山湾に面した町では、白エビ、ホタルイカ、寒ブリ、ベニズワイガニなど四季折々の海の幸が揃う。天気の良い日は対岸の能登半島が眺められる
●問い合わせ先
水だんご専門店 藤吉
☎0765-55-2219
https://mizudango.uozu-tokichi.jp/

出典:ひととき2024年7月号

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