【水だんご】名水の里・黒部「生地」で育まれたおやつ(富山県黒部市)
北アルプスから富山湾へと流れ込む黒部川左岸の扇状地帯に「生地」という小さな港町がある。この町では古来、「清水」と呼ばれる湧き水が至る所に点在し、人々の暮らしに潤いを与えてきた。今も清水スポットが20カ所あり生活に利用されているほか、個人宅の湧き水を含めると600カ所にもなるという。
生地には、地元の人々が愛してやまない名物がある。「水だんご」「水だご」と呼ばれて親しまれてきた。米粉に片栗粉を混ぜて蒸し、滑らかになるまで突いたら棒状にし、あめ玉ほどの大きさにする。食べる前に清水で洗うことで、冷ややかで、つるんとした食感になるのがおいしさの秘密。食べる直前に振りかける青きな粉も富山県産の青大豆や大豆を使う。
生地の食文化だった水だんごが、黒部市だけでなく隣の魚津市、さらには県外へと広がっている。きっかけを作ったのは、魚津市で「水だんご専門店 藤吉」を運営する大野慎太郎さん。「1957(昭和32)年から生地で水だんごを製造販売していた河田屋さんが閉店するのを知り、伝統の味を絶やしてはいけないと、お願いにお願いを重ねて製法から機械、ロゴなど全てを引き継がせていただきました」と話す。
藤吉の本社は食品の卸問屋を営んでおり、富山県産コシヒカリを昔ながらの臼挽き製法で細かくした米粉を河田屋に卸していた。その縁もあり大野さんは以前から河田屋で水だんご作りを手伝ってきた。それでも「河田屋さんの水だんごに親しんでいたお客様に納得していただけるものにするのに3年以上かかりました。基本を大切に、食べることでふるさとを思い出すような存在であり続けたいですね」と微笑む大野さんらの努力で消費期限が1日から4日間に延び、現在では富山県のスーパーや物産館でも売られ、通年食べられるようになった。
生地では、七夕やお盆、夏祭りなどにお供えや家族用に家庭で水だんごが作られていたという。「清水のある生地の夏の風物詩でした。懐かしい味を大切に伝えていきたいですね」と話す、黒部市の地域団体・生地あいの会のお母さんたちは心のこもった体験会を開いている。
水だんごを購入したら、生地の清水で洗い、そのつるつるした喉越しを体験してはいかがだろうか。
文=金丸裕子 写真=中庭愉生
出典:ひととき2024年7月号
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