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96 オルタナティブ、天の邪鬼、へそ曲がり

人の行く裏に道あり花の山

 昔、金融関係の業界誌、編プロの仕事を請けて投資関係雑誌の記事の制作などもしていたが、投資の格言をその頃に知った。いろいろある中で、自分で一番気に入っていたのは「人の行く裏に道あり花の山」である。詳しくは、リンク先の日本証券業協会の解説を読んでいただくとして。
 新NISAが話題になっている。日銀による大規模な金融緩和策もそろそろ終わりが見えていると言われている。ある政治家は「国民にカネを配っても預貯金に消えてしまうからダメだ」とずいぶんとバカにした発言を以前は繰り返していた。その言葉は、要するに「少しでも余剰資金があれば投資しろ」と言うことなのだ。銀行の役割は大きく変わってきている。高度成長期には資金不足が問題で、市中から高い金利を払ってでも資金を調達しなければならなかった。しかし、その後は、「投資」こそが重要な課題になった。それなのに、多くの国民は預貯金に走っていると言うわけだ。
 いろいろな制度を作り、自由化もし、税金の優遇措置も設けていても、まだ投資は足りていない。
 まあ、そういう事情はどうあれ、私の座右の銘にしたいぐらいの「人の行く裏に道あり花の山」。これも、金融用語から来たもので「エキゾチック」
「オルタナティブ」に対する憧れも強い。
 これは、「赤信号みんなで渡れば怖くない」の逆と考えていいだろう。みんなが渡るなら、私は渡らない。
 自分では正論を吐くことが多いクセに、異論が好きである。へそ曲がりなのである。天の邪鬼なのである。だから、結局は組織に馴染まず、フリーランスになったのだ。

マイナーがメジャーになる

 最初は、あまりメジャーではない、マイナーな存在を推していたら、それがメジャーになってしまうと、とたんに方向転換したくなる、といった心境もある。
 王道ど真ん中に憧れているくせに、そっちはあまりにも人が多いから、行きたくないのだ。
 横浜に住んでいた頃は、初詣に川崎大師へよく行った。トントンと飴を切る音も賑やかで、駅から降りたとたん通行規制にあって、そのままどこへ寄ることもできず寺の中へ連れていかれ、お参りが済んだら「ここはどこ?」といった感じで追い出されてしまう。
 そういうのが嫌いなのである。だから、正月三が日にわざわざ混雑している神社仏閣へ行くことはしない。東京へ越してからは、浅草寺、浅草神社がそれなりに近いのだけど、混雑しているときは近づかない。いまやインバウンドもあって、平日でも混雑しているから、滅多に行かなくなった。行くとしても午前中。10時過ぎてくるとだんだん人が増えてしまうので、退散する。
 東京へ越してきて20年以上になるのだが、その頃の浅草は情緒はあるものの「このまま行ったら廃墟になるんじゃないか」と心配するぐらい閑散としていた。煮込みストリート、あるいはホッピー通りと呼ばれるところも、競馬のある日以外は、ガラガラで、昼間から飲んでいる人はクセの強い人ばかりだった。だから、好きだった、とも言えるけど。
 それがいまでは大変な混雑ぶりだ。コロナ禍の数年は久しぶりに閑散としていて、懐かしい気もしたが、あっという間に取り戻してしまった。
 「人の行く裏」がメインストリートになってしまったら、すごすごと退散するしかないのである。

裏も表もなくなって

 王道を行くのも、もちろんいいものだ。みんなが行くところへ行ってみるのも、悪くはない。だいたい、世の中に存在しているもので「マイナー」と呼ばれているとしても、かなりたくさんの人が参加しているものである。それは、ネットによる拡散もあって、もはやマイナーな存在なんて滅多になく、もしあるとしても、「取材お断り」のようなあえてメジャー化を避けている場合ぐらいのものだろう。
 世界中が、メジャー化しつつある、と言えなくもない。『1968年にウォーホルは「未来には、誰でも15分間は世界的な有名人になれるだろう」』と述べたとWikiにある。
 その当時よりも遥かにローコストに、誰でも、瞬間的にメジャーになれる時代になった。いやもう、ドライブレコーダーになにか写っていたら、それだけで有名になれてしまう。
「そんなのメジャーとは言わないよ」と言われるだろうが、瞬間的にマイナーから脱してしまうと、それは、いわば大気圏外に一瞬でも出たようなもので、恐らく心理的には大きな影響があるに違いない。メジャーであり続けることは別問題であるが。
 これを裏返せば、「もはや王道はない」とも言えてしまう。裏道もなければ王道もない。もやもやとしたカオス状態の中で、スポットを浴びたり、誹謗中傷されたり、炎上したり、落ち込んだり、逃避することを繰り返すことになっていく。
 ああ、裏道が懐かしいな、と思ったりするのである。
 こうなると、裏道を探すのではなく、自分で作るしかない。道のないところを行く。あるいは地中深く、穴を掘るべきかもしれない。
 

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