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368 映画、そこからのなにか

ビム・ベンダース監督『PERFECT DAYS』

 有名な映画だから。ようやく見たわけだけど(WOWOWで)。
 ビム・ベンダース監督『PERFECT DAYS』。この監督は有名。主演の役所広司も有名。ちゃんとBOSSの缶コーヒーを毎朝飲むんだ。カセットテープで音楽を聴く。その音楽がまたいい。

 いわば「小品」(大作に比べて、だが)と呼ばれる作品なのだろうけど、見ている間もおもしろく、いろいろ考えさせられる。すばらしい照明技術とカメラワークで、ありふれた光景を見事に「絵」にしている。見た後もずっと心に残っている。モノクロの写真を撮っている。「木漏れ日」を撮る。だけど仕上がった写真にはあまり執着していない。
 同じことを繰り返す日々を、丁寧に、いちいちカメラの位置を変えて描く。ただし主人公の動きや表情は変わらない。
 墨田区、台東区といった私にとって馴染みのある界隈が登場してくるのも気に入っている。ロケ地についてはめちゃくちゃ詳しいサイトがいくつかあるので、それを参考にされるとよいかも。

 浅草駅地下の店は、ほぼあのまんまだ。あそこで何度か焼きそばやカレーを食べた。いまでは観光客も多くなって賑わっているだろうけど、私が行っていた頃は浅草とは思えないほど怪しい地下街だった。
 京島あたりにある銭湯も素敵だった。実際はあの銭湯のあと、桜橋を渡って浅草で一杯飲む、というコースはけっこうハードな気もする。古書店は、浅草寺の西側にある伝法院通りに面した地球堂。ここは古いです。私の知る限りずっとそこにある。はじめて入ったときは、浅草に関する本をはじめ江戸関係などの本でぎっちりだったけど、徐々に本は減っていき、お土産屋さんぽくなっていった。それでもあの界隈でずっとやっている店は貴重。
 ラストの役所広司の表情の長回し。あー、やられたなあ、と完全に降参である。

組織については語らない

 私がこの映画『PERFECT DAYS』を気に入っているのは、小津安二郎のオマージュというか、現代の東京で小津の世界は描けるか、という挑戦かもしれないけれど、そういうことではない。それもいいとは思うけど、一番気に入っているのは一切、組織を語らず描かなかったことだ。
 主人公は自分のクルマで現場へ行き、そこで同僚と会い、清掃作業をする。上司も部下も出て来ない。いったい、この勤務ってどうなってるのと思う。直行直帰の許される仕事はそうそうないはずだし。
 ありきたりなドラマとしたら、清掃会社をバーンと出す。そこの人間模様を描く。上司がいて部下がいて取引先がいる。仲の良い人と悪い人がいる。入ってくる人と出て行く人がいる。そんな感じ。
 これをぜんぶ、すっ飛ばした。バーン、ざまーみろ、組織なんてさ。個人の人生にとっては組織なんて……。
 あ、いやまあ、それほど私だって組織に恨みもなにもないけれど(むしろお世話になりっぱなしだ)。組織はいかにも「日本的」だと日本に住む私は思ってしまう。だから日本的なことを描くにはまず組織。実際、テレビドラマのほとんどは組織の紹介で成り立っている。タイトルが部署名だったりする。うんざりなんだよ!と、誰かが叫んでいたとしても不思議ではない。
 組織から描く日本人ではなく、組織を剥ぎ取った残りとしての日本人。それだけでありふれた光景は大きく変化していく。この視点は見事だ。
 そして翌日になってもまだ、私は映画の余韻に囚われている。ほかのことはあまり考えられない。というわけでこのnoteになったわけ。

抽象画として、このままでいい気もするが、もちろん違う。


 
 
 

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