117 訃報に震える
メールの件名に驚愕する
今年、2024年はなんだか、冒頭からいろいろ衝撃を受けて気の休まることがないままに正月が過ぎ、七草も終わり、小正月も過ぎてしまった。きっと明るい話題もいっぱいあったのだろうけど、心が縮こまって容易に受け付けなくなっている。
もちろん、地震被害を受けた地域の人たちや、ガザ地区の人たちや、ウクライナの人たちほか紛争や天災によって日常を破壊されてしまった人たちに比べれば、私はいまのところ恵まれている。こんなことを書いていられるぐらいには恵まれている。
そこにふいに、「妻が亡くなりました」と件名に記されたメールが届いた。かつて、一緒に本を作った人の名がそこにあった。私よりずっと若いはずだと確認すると、5歳年下だから同世代だった。もっと彼は若々しい人のイメージしかない。いわゆるコンサルタントでありさまざまな講演、講師を務めていた人物である。確か、阪神淡路大震災で被災した経験があり、拠点を東北へ移したところ東日本大震災で被災している。そこは、亡くなった奥さんの実家に近い場所だったはずだ。
二度の災難を乗り越えた。それだけではない。大手企業に勤めていたのだがうつ病を発症し長く苦しんでもいた。そこからコンサルタントとして独立したのである。私が知り合ったのはその頃である。
10年以上、会っていないその彼から、久しぶりに来た便りが「妻が亡くなりました」で、私は驚愕するしかなかった。
正直、この数年、驚愕することなんてあまりなかったのだが。
メールの内容は昨年、奥さんが突然死したこと、私も知っている人物の連絡先を知りたいとのことだった。たまたま、その人物はかつて彼の上司だった。私がその人の本を作っていることを彼が知り、おもしろがっていたことを思い出す。
寿命はわからない
奥さんを亡くしてすでに数か月経過しているからだろうが、彼のメールは淡々としていた。驚愕しつつ、最初は冷静に読めなかったのだが、何度も読み返して事態を把握しなければならなかった。
彼は自分の会社を立ち上げてコンサルをし、奥さんは確か資格を持っていわゆる士業の事務所を営んでいた。いわば両輪のような、深い絆で結ばれたご夫婦だとの印象がある。メンタルに弱い夫を励まし、的確なアドバイスをしながら2人でビジネスを大きくしていた。
阪神淡路大震災、東日本大震災ともに多少の被害はあったものの、切り抜けてきた2人である。その奥さんが突然亡くなってしまった。2人の間に子はいなかったと記憶している。
夫はコンサルで出張も多く、その時も出張していた。だから、自宅で倒れている妻を発見した時、死後3日経っていた。いわゆる突然死なのだろう。
彼は、メールに今年の春には、お互いの事務所を統合して新たなビジネスを進めるはずだったと記していた。それは、いわば高齢になろうとする自分たちにとって、仕事を継続しつつ、負担を減らすための改革のはずだった。
彼女の死によって、その計画も破綻してしまった。
つくづく、人の寿命はわからない。
わかるようにしておいて
私は妻にこの話をしたら、「あんただってどうなるかわからないんだから、自分の死んだあとに、なにがどこにあって、どうすればいいのか、わかるようにしておいて」と言われた。
わかるようにして、と言われたところで、自分にはそれほど複雑な要素はないので、極めてシンプルである。単に、いくつか自分の扱っている仕事の口座があって、そこにはわずかながらだが、チャリンチャリンと小銭が入ってくる。そうだ、源泉徴収の通知があれば、私の死後もわかるに決まっている。
いやまて。アマゾンは源泉されていないぞ。あそことあそこは、電子化されているので、そもそもメールアドレスと暗証番号が揃わないとログインできないから……。
レンタルサーバーはこの春に解約する予定なので、そっちは少し簡単になるけれど、インターネットの契約だとか、スマホの契約についてもひょっとして面倒なことになるかもしれない。
そもそもこのPCに入るには暗証番号が必要だ。古い機種なので指紋認証ではない。
うーん。もし、そうしたものをエンディングノートのように記載するとなると、なんだかとっても面倒だな。
いや、とりあえずエンディングノートにはPCのログインの方法だけ書いておけばいいのではないか? あとは、PCとクラウドにあたってもらって……。
お互いにさらに高齢となったとき、果たしてそんなことがいまのようにやれるだろうか。やれないかもしれない。
難しい問題に突き当たった気がした。
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