81 Wi-Fiの消えた日
突然の電波なし
11月の終わり頃のことだ。
いつものように、ポケットWi-Fi(WiMAX)を持って仕事場に出掛けた。午前中はとくに問題なかったのだが、午後になって突然、電波がなくなった。無制限のはずなのだけど。こんなことは今までなかった。
機械をよく見ると、バッテリーが膨らんでカバーを持ち上げていた。バッテリーが火を噴く衝撃映像が頭をよぎった。
電源を切って、バッテリーを外しておく。
しばらく見ていても、とくに爆発はしないようだ。ただ冷えていく。
GMOで契約しているので、ネットから問い合わせてみると、手数料なしで機種変更ができますよ、という案内になった。
なるほど、これまでも何度もそうしてきた。いつから使っているのか忘れてしまうほど、実は長期間利用している。2010年の暮れにiPod touchを使いはじめたのだが、そのときBIGLOBEでWiMAXを使うようになった。その後GMOで使うようになって十三年も使っていることになる。十三年の間に機種はどんどん変わってきているし、いまでは5G対応となっている。それでも、こういうタイプのトラブルはなかった。少なくともバッテリーが膨らむことはなかった。
機種変更を申し込むと到着まで2週間ぐらいかかりそうだった。
Wi-Fiがないと仕事が捗る
スマホのテザリングという手もあるのだが、あえてそれはしないことにした。「なければないで、なんとかする」と言っても、さすがにWi-Fiを自分でなんとかすることは難しいので、要するに「ネットなしでがんばる」である。
自宅にはJCOMの無線LANが完備されているので、ネットがなければできないことは、自宅にいる間にやってしまう。そして仕事場にはWi-Fiがないので、オフライン状態でやれることに専念する。
すると、だ。
これまでやろうとしても手をつけられないまま3年も経ってしまっているさまざまなことに、手をつけはじめたのであった。
不要になった本を処分する。これが、どれだけ面倒くさくて大変なことか、やったことのある人にはわかるはずだ。
これが亡くなった人の蔵書を処分するのなら、むしろ簡単だろう。片っ端から捨てていき、売れそうなものは売り、欲しいものは残す。こちらの主観の及ぶ範囲はとても小さいので、「エイヤー」とやってしまえる。
それが、自分の本だと、たちまち滞る。一冊手にしては「うーん、これはやっぱり手元に置いておきたいな」とか「これはいらないけど、書き込みもあるから売れないね」などと、勝手にこっちでいろいろ考えてしまい、すぐに「あ、もう時間切れだ」と諦めてしまう。
ネットはとても便利な存在だが、同時に、いかにも重要そうで大したことはないタスクも増えがちである。そこにアクセスできないことによって、どれだけの時間が生み出されるのか、今回、身に染みた。
オフライン、あなどれない。そもそもこちらの覚悟が違う。やるしかない感が強くなる。そして、「エイヤー」が発動される。たちまち二百冊を処分し、さらに百冊を処分候補として、ほかの本と分離することに成功した。
やればできるのである。
ネットにつながっていないPCは、いまの時代、大したことはできそうにない。私自身、データの多くはクラウドにあり、アプリケーションもクラウドに依存しているものが多いから、オフラインでやれることは少ない。
だが、オフラインでやれることに専念すれば、ネットがない方が圧倒的に捗るのである。
次に向かったのはデータの整理、画像の整理だ。これはPC内にある画像と、昔から溜まりに溜まったネガとポジの整理である。
これも、思った以上に捗って、段ボール2箱が消え、PC内のストレージもすっきりした。
Wi-Fiの復活
そして2週間まではかからず1週間ほどで、新しいWi-Fiが到着した。すると、たちまち仕事場はオンラインになった。
そもそも、Wi-Fiを持ち歩くようになったのは、バックアップのためである。私はバックアップが好きだ。念には念を入れる。PCのデータはクラウドと外付けHDに保存している。定期的に見直しているけれど。以前はDVDに焼いて保存していたこともあるのだが、これはあまりにも面倒すぎた。
スマホでもネットに入ることはできる。Wi-Fiがないときも、スマホでネットに入っていたのでまったくオフラインではなかった。タブレットも使う。だから移動中もWi-Fiが欲しい。さらに、喫茶店や仕事先でも安定してネットに接続していたい。自宅のWi-Fiが万が一、壊れたときにも対応したい。そんな欲求で、毎月、バカにならない金額を投じている。
それはやがて、オフラインになるのが怖い、といった強迫観念にまで高じたこともあったのだが、いまはさすがにそこまでではない。とはいえ、ネットにつながっていることが「当たり前」になり過ぎていた。
仕事場のWi-Fiが復活した日。さっそくNHKプラスに入って「ミワさんなりすます」の録画できなかった回を見たのだった。そしてSpotifyで新しいプレイリストを作った。
もちろん、仕事の能率はガクッと落ちるのであった。