ザ・リッツ・カールトンと格安ホテルで比較! 「ミッション・ビジョン・バリュー」の役割とは?
本気ファクトリー公式note編集部です。
会社を運営していく上で重要な「ミッション・ビジョン・バリュー」。外部環境の変化が激しい現代において、その重要度はますます増していると言われています。しかも、会社経営だけでなく、新規事業を行う上でもその構築は不可欠です。それぞれがどのような役割を果たすものなのか、しっかり理解しておきたいところです。
今回は、大企業の新規事業開発にコンサルタントとして携わってきた弊社代表の畠山に、「ミッション・ビジョン・バリュー」について詳しく話を聞きました。
ミッション・ビジョン・バリューとは?
ーー「ミッション・ビジョン・バリュー」は、誰もが会社として最適な意思決定をできるようになるためのもの
書籍や企業のホームページなどで、「ミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVV)」をよく見かけます。それぞれどういった意味なのでしょうか。
畠山:「ミッション」は、会社や事業が社会において果たすべき役割のことです。使命と訳されることもあり、「なぜ、なんのためにこの会社(事業)は存在するのか」を示しています。
次に、「ビジョン」は目指すべき状態のこと。会社や事業が存在するには何らかの目的があり、「その目的が果たされた状態はどのようなものか」を表しています。
そして、「バリュー」は価値観のことです。「ビジョンを実現するために、どのような考えで行動するのか」といった行動指針になります。
ー会社や事業を行っていく上で、なぜMVVが必要なのですか?
畠山:事業は、意思決定の連続だからです。事業は、会社にいる多くの人がさまざまな意思決定を行うことで回っています。その際に、それぞれが自分の視点から見て「最適だ」と思う判断をしてしまうと、必ずしも会社にとって最適な意思決定(全体最適)になるとは限りません。むしろ、その部分に対してのみ最適な意思決定(部分最適)をしてしまい、全体としては機能しない、といったケースになることが多いのです。
ーなるほど。指針がないと、会社の方向性がずれていってしまうのですね。
畠山:そうなんです。そうならないために、意思決定の際には常にMVVを思い出して「自分たちの会社が存在する目的」と照らし合わせ、「自分たちが目指す社会のためにより相応しい選択肢」を考え、「我々の価値観だったらどういった行動をするべきか」を決めるわけです。
ミッション・ビジョン・バリューは意思決定の指針になる
MVVはお題目的に捉えられることが多いのですが、単に言葉として存在しているだけではまったく意味がありません。日々の行動や意思決定の指針となるところに価値があります。特に、バリューの中には考え方だけを規定するものもよく見られますが、行動指針として機能するように作らなければ意味がありません。
―それはなぜでしょうか?
畠山:多くの社員が高い精度で全体最適な意思決定を下すには、より具体的な場面に沿った「行動指針としてのバリュー」が必要になってくるからです。
MVVは、ミッションの抽象度が一番高く、ビジョン・バリューの順で具体性が高まります。
ミッションには経営者の想いが詰まっていますが、それだけでは抽象度が高すぎます。そのため、経営者と日々接する人や自社に対する理解が深い人以外は、ミッションだけで最適な意思決定をするのは難しいでしょう。ビジョンも、ミッションよりは具体的な状態を記述していますが、はるか先の未来のことを示しているので現実感がないかもしれません。
その点、バリューは意思決定における価値観を示したものですから、具体的な業務のシチュエーションに沿った意思決定の指針となります。ですから、「バリュー=行動指針」でなければならないのです。
高級ホテルと格安ホテル。同業種でもMVVによって顧客対応が変わる理由とは
―MVVによって行動が変わる事例があれば教えてください。
畠山:では、高級ホテルであるザ・リッツ・カールトン(以下、リッツ・カールトン)と格安ホテルとで比較してご説明します。
まず、リッツ・カールトンには企業理念である「ゴールドスタンダード」があり、その中にクレドやモットー、サービスバリューズなどが書かれています。リッツ・カールトンのクレドは、「お客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することを最も大切な使命と心得ています」といったもの。これがリッツ・カールトンのミッションに当たります。
続けて書かれている「私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだ、そして洗練された雰囲気を常にお楽しみいただくために最高のパーソナル・サービスと施設を提供することをお約束します」がビジョンに当たるものです。
そして、「サービスバリューズ」として12の行動指針が書かれています。
2つほど抜粋してみると、「2.私は、お客様の願望やニーズには、言葉にされるものも、されないものも、常におこたえします」と「12.私には、妥協のない清潔さを保ち、安全で事故のない環境を築く責任があります」などがあります。
―どちらも、リッツ・カールトンホテルと言われて連想するイメージに沿ったものですね。
畠山:はい。実際、リッツ・カールトンではこれを実現するために、各従業員に1日約20万円の決裁権が与えられているそうです。
次に格安ホテルについて考えてみたいと思います。格安ホテルのミッションは、「多くの人が気軽に泊まれる」といったもの、ビジョンも「多くの人が泊まって、それぞれの用を足せるようにする」などの内容になるでしょう。そして、バリューも「多くの人に格安でホテルを提供するために最適な行動」が規定されているはずです。
そして、格安ホテルのバリューにも、おそらくリッツ・カールトンのように「清潔さと安全を保つ」といった表記はあるでしょうが、おそらく「言葉にされるものも、されないものも、常におこたえします」といったことは、掲げられていないでしょう。「どのような顧客の課題を解決しようとしているか」によって、同じシチュエーションだったとしても社員の取るべき行動は変わってくるからです。
畠山:例えば、ベッドメイクが終わってリネンを運んでいる途中で、何かを探している顧客の横を通ったとします。その際、リッツ・カールトンのホテルマンであれば、それに気が付いて適切な対処ができることは必須でしょう。一方、格安ホテルでは、それよりも効率的にベッドメイクをし、多くのお客様を迎え入れる環境を作ることが優先されるといったような具合です。
もちろん、ベッドメイクとお客様の手助けの両方ができる状況であれば、お客様の手助けをすることが望ましいです。しかし、意思決定とは「どちらかを選ばなければならないシチュエーションにおいて、片方を選び、片方を捨てる」こと。であれば、リッツ・カールトンは手助けを選べるように余裕のあるリソースを確保しているでしょうし、行動指針としても困っているお客様に気付き、支援することが求められます。しかし、格安ホテルは多くのお客様を低価格で迎えるために最適なリソース配分になっているでしょう。
新規事業開発においてもミッション・ビジョン・バリューが必要
ーなるほど。MVVによって行動が変わってくるのですね。
畠山:はい。高級ホテルも格安ホテルも、どちらも顧客の課題を解決する素晴らしい事業です。いずれも顧客にとって最高のサービスを提供するために存在しています。しかし、事業内容によって、「最高のサービス」が何なのかが変わってくる。それを多くの社員が理解して意思決定できるように、MVVを定め浸透させる必要があるのです。
このように、MVVは社員の意思決定に影響を与え、事業全体の意思決定最適化を図るために存在しています。ここまでは、会社におけるMVVの必要性について説明しましたが、新規事業を開発する際にも、MVVを考えてみると良いでしょう。新規事業においても、MVVを考えることで、意思決定が素早くなったり、事業の方向性がブレなくなっていきます。
畠山Facebook :https://www.facebook.com/kazuya.hatakeyama