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復刻版「よせあつめ瓦版・ランダム」その5(94.81~8.31)

1994年8月1日(月)
 山田洋次監督の新作落語集「真二つ」が新潮文庫として出版された。
 柳家小さん師との対談は、本書が初収録とのことだが、昭和54年8月に発行された「落語」の創刊号からの転載でした。今、読み直してみると、映画の作り方について、「ぼくの知ってるアメリカのシナリオライターにいわせると、『何十億という投資をするには、やまかんでやるわけじゃない、それに見合うだけの技術が作り手に積まれているんだ』と。彼はわりに日本の映画界を知ってる人だけど、『日本の若い作家達は、基本的な技術を身につけるつけかたが非常に弱い』といってましたですね。」
 今でも、同じような状況なんだろうと思う。

1994年8月3日(水)
 浜松市民会館で、遠文連主催の江口洋介コンサート。
 コンサート自体の観客は少なかったものの、゛ゲッパチUNアワーありがとやんした」の収録で、うっちゃんなんちゃんが潜入。そのおかげか、ほぼ満席状態。わずか二曲一緒に歌っただけなのに、それまでの2時間弱のコンサートを変えてしまったのは、やはり、生のお客さんを相手にしてきた強みだと思う。

1994年8月6日(土)
 浜松東映劇場で、ムーンライトシアター「我が人生最悪の時」を観る。
 私立探偵という、日本では興信所程度の仕事しかないような状況なのに、横浜黄金町をオープンセットに使うことで、刺激的なドラマになっていた。台湾マフィアと日本に潜伏するアジア黒社会との闘争という一般紙では取り上げないであろうサスペンスをうまく取り入れて、かっこ良さを出していた。私立探偵・濱マイク役の永瀬正敏は、もちろん、はまり役だったが、佐野史郎・宍戸錠・磨赤児・鰐淵晴子・塚本晋也といった存在感のある役者を揃えたプロデューサーの力に拍手を送りたい。第二・第三弾に期待したい。

1994年8月7日(日)
 8月3日から9日まで、浜松松菱百貨店で「遠州・駿河・三河・南信濃の大職人展」が開かれる。蒲郡市在住の寄席文字の橘右太治師が出品。実演されていたので覗いてみた。浜松周辺では珍しい実演なのでギャラリーは多かったが、即売は今ひとつの売れ行きであった。
 右太治師は、昭和45年から「蒲郡落語を聴く会」を主催、私も50年頃から会員となって通っている。平成2年6月には、春風亭鯉昇の真打ち昇進披露を開催していただいている。とにかく、地域寄席を継続させている、たいへんな人物である。
 ちなみに「本果寺寄席」で、寄席文字をお願いしている湖西市鷲津の青山秀樹君は、門下生の一人です。

1994年8月16日(火)
 浜松中央2劇場で「釣りバカ日誌スペシャル」を観る。
 人気漫画の映画化では、成功したといえる作品でキャスティングもはまっていて、おそらくは今後もシリーズ化していく作品であると思う。
 しかし、今回は監督が変わったことと、夏休みロードショーに間に合わせたこともあり、無理に笑いをとろうとしていたり、ドラマを作り過ぎたきらいがあったと思う。例えば、スーさんとみち子ちゃんの浮気騒動とか、必要以上に、みち子ちゃんを色っぽくさせてしまったり、今後の展開においては反省すべきだと思う。
 ところで、「寅さん」について、ある映画雑誌に書かれていたものを思い出した。筆者を忘れてしまったのだが、今後も「寅さんシリーズ」を続けていくとしたら、どういう展開にしたらよいかというテーマであった。落語の世界によく登場する町内のご隠居にして、日常生活の小さな出来事をドラマ化していけば、まだまだおもしろい映画がつくれるという意見であった。ここしばらく、アジアの映画を貪欲に観ているが、確かに、政治的なメッセージを含んだ映画も多いが、小さな出来事を扱った、さわやかな映画の何と多いことか。

1994年8月18日(金)
立川談四楼師のエッセイ集「どうせ曲がった人生さ」(毎日新聞社)を読む。
 平成2年に出版された処女小説「シャレのち曇り」では、真打ち昇進試験に端を発した落語協会脱退、立川流創立、小朝に抜かれた愚痴・憾みつらみなどがドキュメントで描かれていて、読ませてくれた。今回はエッセイ集ということで、とりあげる範囲が広がっていてくれて楽しませてくれた。
 例えば、田中角栄の物真似を最初に行った芸人、松井錦声師は「松井鏡店」の社長でアマチュアの雄としてプロ以上の実力を持っていたが、プロになったのは、40過ぎであったという。おしくも62歳という若さで亡くなられたが、晩年、落語芸術協会会員の頃、御徒町の吉池土曜落語会で、若手の噺家の間をうまくつないでいたことを思い出した。
 ご祝儀の渡され方で、こんなエピソードが書かれていた。
 初めての客に接待されて、その人の家まで送り、タクシーを呼んでもらって帰ろうとした時、その人が追いかけてきて、窓を叩いた。その人は大あわてでポケットをまさぐり、小さな祝儀袋を取り出すと、こう言ったのだ。「ゴメン、うっかりしてた。これ、いただいてもらうのを忘れちゃって‥」。
 こんな律儀な人は、そうそうおりまへんやろな。

1994年8月21日(日)
浜松シネマウエストで、「フリントストーン」を観る。
 子供の頃、テレビ・アニメで観ていた「原始家族」の実写版。見事なセット、見事な恐竜。とにかく理屈抜きで楽しめた。こうしたSFX技術力と空想の世界を実写化する映画の世界は大好きなので、続編に期待している。
 ところで、書店の絵本コーナーを覗いてみたら、やはりありました。「フリントストーン」の絵本が。アメリカでは、テレビ・アニメ放映後にかなりの作品が出版されていたんでしょうね。

1994年8月22日(月)
浜松東映劇場で、ムーンライトシアター「川の流れに草は青々」を観る。
 台湾ニューシネマ監督‥ホウ・シャオシェンの82年の作品である。台湾からきた臨時の教員が田舎の小学校で先生になる。検便のシーンがあったり、わんぱくトリオとの山や川での遊びがあったり、同僚との恋愛があったり、普通の学校生活が描かれていく。映画のタイトルは、河川と魚の保護運動を提起して、子供たちの将来のために魚を保護し、汚染をなくすことの大切さをアピールする意味も含まれている。
 12年前とはいえ、子供たちが、本当に子供らしく快活に描かれていて好感がもてた。ホウの映画では、親と子の関係を親密に描いている。例えば、学校の授業で「将来、何になりたいか?」と聞かれた農家の子供がためらうことなく「農民」と答え、先生も周りの子供たちも、それを当然と聞いているシーンがあった。
 ストーリーが単純といってしまえば、それまでだが、こうした映画を制作でき、また、観客が映画館で観ることができる状況を、うらやましいと思う。
 これまで、ムーンライトシアターでは、特にアジアの映画を好んで観てきたが、タイトル・クレジットを見て気付いたことがあった。それは、これらの映画がヨーロッパの配給会社経由であるということです。それは、日本人のほとんどは、これらの映画を観ていないのに、おそらくヨーロッパ人は観ているとしたら、日本人の国際化は、この方面でも遅れているに違いないということではないだろうか。
 政治家・公務員は、映画館で無理なら、ビデオを借りてでも、アジアの映画を観るようにしないと、世界を相手にできなくなるのではないだろうか。
 それにしても、今晩の観客は約30名であった。

1994年8月24日(木)
チケット・セゾンから予約マガジン「tj」が毎月発行されているのだが、9月号で中村勘太郎(当時)を紹介していた。ご存じ、勘九郎の長男で3歳から舞台出演している。
 今回のトピックスは、日舞の世界で今、最も精力的に活躍している若手のひとり、梅津貴昶師のMOA美術館舞踏公演の共演者に、中村富十郎・坂東玉三郎とともに選ばれたということである。弱冠13歳でプロとしての踊りを披露していく勘太郎に拍手を送りたい。

1994年8月26日(金)
これは絶対、全国の図書館に購入していただきたい写真集が出版されていた。ジョニー・ハイマス氏の「たんぼ」(NTT出版)である。
 74年より日本に定住、日本の自然・文化を撮り続けているイギリス人である。この写真集の素晴らしいところは、氏が自然を撮影していて、稲作に興味をもち、農業を勉強しながら、撮影していることである。「日本の人びとに、たんぼという独特な民族的文化遺産に気づいてもらい、その保存について呼び掛けることができれば、また、日本の自然の素晴らしさと古くからの稲作の伝統や哲学を日本人が維持してくれればという強い願い」‥イギリス人の一人の写真家の呼びかけに、日本人、特に都会の消費するだけの人達は何と答えられるのだろうかと、考えさせられてしまった。
 特に氏が気にいっているらしい、新潟県松之山町のたんぼを一度は見に行ってこようと思っている。
 一度、この写真集を、立ち読みでも結構ですから、見て下さい。

1994年8月30日(火)
出版社から直接取り寄せた、雑誌「東京人」9月号が届いた。今月号は、高田文夫・企画、構成による「やっぱし、落語だ」を特集していたからである。
 山藤章二氏による、現代ライバル論は「志ん朝と談志」。志ん朝の「春」に対して、談志の「冬」論。そして、二人のサービスの違いについて。談志は冬の「寄せ鍋」であり、雑学・批評・懐古・愚痴‥いろいろな具で客を満腹にさせる。志ん朝は、腕のいい船頭であり、愛想もいわないし、茶も出さない。そのかわり、乗ると滑るように走り出す。〈現代〉から〈過去〉へ客を運ぶのが志ン朝で、〈過去〉をグイと〈現代〉の岸に引き寄せるのが談志である。山藤氏も見事な文章力といえる。

1994年8月30日(火)
 「
東京かわら版」9月号からの情報。
 おそらくは、志ん生師の最後の音源だと思われる初公開の噺と芸談を収録したカセット・テープ(全10巻・別巻1)が三一書房から発行されるとのこと。各巻4000円だが、凄いことですよ。


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