ゼロ
わたしはわたしになりたかったんだけれど
たぶん物心ついた頃から
それはゆるされていなかったのだと思う
わたしがわたしのようになれる瞬間が
恋とか愛とかじゃない衝撃で訪れたの、あの日
それからというものの
わたしがわたしのようでいられる日向を撫でていたら
時間が止まってしまった
静止した空気の中でわたしは幸せだった
生き方を知らないままだった
破壊しろ、というあのこえが聴こえた
それは成長なのか努力なのか変化のための装置なのか
プログラミングされていた
きっとあまりに恐怖を覚悟して息をする必要があったせい
物心、ついた頃から
愛されるためには第三の誰かにならないといけない
そう体に染み付いたわたしはちゃんと愛されたことがない
気づいたのはずっとあと
わたしがわたしのようであれる瞬間は
あなたのようにあることへの憧れにすり替わって
わたしがわたしのようになれる瞬間は
わたしのままでいいわたしを見つめていたあなただと
そんなこともわすれて
わたしは世界を走り出させようとした
ああいう方法でしか走らせることができなかった
手をとりあいたいと思っていた、春
夏の匂いが漂うころ、あなたは抱きしめてくれた
わたしは爆破した
憧れは虚構だった
あなたが探し出してくれたわたしの後ろに
わたしの知っているほんとうのわたしはちょろっと隠れて
その5センチずれた部分
わたしとしてわたしに到来する
漂えない
愛が迎えに来た人は皆漂っている
この5センチにあずけてみる
時間は流れている
わたしは落ちていない
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