見出し画像

骨折の治癒過程④骨の成長と成長因子

なかなか骨折しないこのシリーズですが,今回もまだ骨折せず,骨の成長についてちょっと難しい言葉を一つ説明しようと思います.

これまでの記事を順番に載せます.

で,今回の記事です.

今日は成長が終わった骨についてのお話です.

特に,その中でもRunx2(ランクスツー)を通して,骨芽細胞の成熟を見ていこうと思います.

最初にこの図を見てください.


間葉系幹細胞から骨細胞までの道のり

赤い矢印:促進
青い矢印:抑制

間葉系幹細胞が骨芽細胞になり,骨細胞と呼ばれる姿になっていくという画像です.

成熟した骨の組成(登場人物)については,以下の記事を読んでください.

どの組織でもそうなのですが,生物の体には幹細胞と言われる,なんにでもなれる未分化な細胞が埋まっています.

これはまさに他の記事でもお話しした,ヒトが受精卵から作られる様子を小さく再現するような仕組みが備わっているということです.

では,もう成長がある程度済んだ生物には分化した細胞ばかりだから,そういった未分化な細胞はないんだと思うかもしれませんが,さっき言ったように実はそういった細胞が組織中に埋め込まれて密かに生きているのです.

それは組織によって,時には「分化せよ」という命令に従って駆り出されたり,「まだお前は眠っていろ」と閉じ込められていたり,「エヴァに乗れ」と誰かと戦わされたりしているのです.冗談です.

それによって,細胞周期と言って,細胞一個単位では決まった寿命で縛られているのに,単位を変えて生物というくくりで見れば,細胞周期よりもずっと長く生きられるわけです.

という流れで考えてほしいのですが,こと骨においても,それが当てはまります.

骨も代謝が起きていて,あるところでは壊されて,あるところでは造られ,あるところでは設計図通りに工事が進まなかったり,大工が暴れたり,造っていたものが台風で全部壊れたりと,ハプニングが起きている.

その中の登場人物である,骨芽細胞という,昔の研究者が「なんか骨を作るときにいっぱい見える細胞いるよな」というだけで「骨芽」と名付けられた細胞について書いたものが,最初の図です.

現代では骨芽細胞のありとあらゆる働きが知られていますのでこれまた勉強しだすと「骨芽」という名前のせいでイメージしずらいのですが,まぁ骨を作ることには深く関与していますから仕方がないですね.

で,,本題に入りますが,論文なんかを読んでいるとよく出てくる「Runx2」というものをご紹介します.

骨の成長を話し出すと,私も知らないことばかりで,かつこの世にはすべてを知っている人はいないので,あえて一つに絞っています.


Runx2

(ランクスと呼びます.英語圏だとどういうのかは…知りません.)

"Runx2"は、骨芽細胞の分化や骨の形成に必須な転写因子です。その正式名称は「Runt-related transcription factor 2」で、骨格の発達において中心的な役割を担います。

"Runt-related transcription factor"を直訳すると、「Runt関連転写因子」となります。ここでいう"Runt"は、転写因子の一族を指す名称であり、その家族のタンパク質が共有するDNA結合ドメインの名称です。

"Related"は「関連する」、"transcription factor"は「転写因子」と訳されます。したがって、Runx2はRuntドメインを含む転写因子の一つであり、その名前はその機能を反映しています。

Runx2はタンパク質です。

具体的には、細胞の遺伝子発現を調節する転写因子というタイプのタンパク質です。転写因子はDNAの特定の領域に結合し、遺伝子のコピーを開始することで、遺伝子がタンパク質に転写されるプロセスを制御します。

この図は、骨芽細胞の分化過程を示しており、Runx2とOsterixがその過程でどのように作用するかを説明しています。

初期段階ではRunx2が間葉系幹細胞を骨芽細胞前駆体へと導く役割を果たし、Osterixと共に未分化骨芽細胞の成熟を促進します。

しかし、成熟骨芽細胞の段階でRunx2は骨芽細胞から骨細胞への移行を抑制します。同じ物質でも標的が違えば作用が変わるんですね.

Runx2が途中で抑制作用に切り替わる理由は、分かりません.なにかしらでバランスを取ってるんでしょうね.

成熟した骨芽細胞が骨組織内に適切に組み込まれるためには、過剰な分化を抑制するメカニズムが必要ですので,その一環でしょうか.

Runx2の発見は、骨生物学の分野における画期的な進歩でした.

この転写因子の重要性は、1990年代の研究で、Runx2遺伝子をノックアウトしたマウスを用いた実験によって初めて実証されました.その結果、Runx2が骨芽細胞の分化に必要不可欠であることが明らかになったのです.

Runx2ノックアウトマウスの骨格には顕著な異常が見られ,これはRunx2の存在が骨組織の形成に極めて重要であることを示唆しています.Runx2が欠如していると,正常な骨形成が起こらず,その結果として骨芽細胞が未分化のまま残ることが判明しました.

さらに、Runx2は脂肪細胞への分化を抑制する一方で、骨の成熟を促進するという、二重の役割を果たしていることが分かっています.

このことから、Runx2は間葉系幹細胞の運命を決定する上で中心的な因子であり,細胞が骨細胞か脂肪細胞のどちらの系列を取るかを制御していることが示されました.

Runx2の研究は、骨粗鬆症や骨形成不全症などの骨の病態の理解をするときに重要なので,皆さんも調べてみてください.


鎖骨無形成症とかはまさにこれです。

サポートいただければ、ほねゆきが妻にお花を買って渡します!