創傷治癒過程の細胞の動きを解説します②
※この記事は前回の続きです.
さて,前回の記事では以下のことを説明しました.
組織修復の過程において必要な分だけ修復は起こらず,過剰に組織を増やしておいてから再構築するシステムになっている
組織修復にはフェーズがあり,それぞれのフェーズには相関性がある.
これらは教科書にも書かれないほどの基礎的な知識なのですが,初学者には重要な押さえておくべきポイントです.
今日は炎症期と増殖期のそれぞれのフェーズをもう少し細かく見ていこうと思います.
炎症期
そもそも「炎症」と言う言葉は非常に古くから言われている言葉で,分子生物学ないし生理学も発程していない太鼓の昔から,「膨れ上がって赤くなり熱を持つ」という現象として知られていたわけです.
英語だと,「fire(炎)→inflame(火をつける)→inflammation(炎症)」といった語源だそうです.
単なる言葉に過ぎないんですね.
何が言いたいかというと,単に「炎症」という言葉に縛られずに学習して欲しいということです.
学校では「炎症の5徴候」などと習いますが,実際の細胞の動きは説明できないほどに複雑であり,それは概念として乖離が激しいので,よくわからないとなってしまう.
しかも,数えきれないほどのイベントが同時多発的に起こります.もはや順番などあってないようなものなのです.
ここでは,いわゆる感染の話は詳しくは行いません.一旦脳内をまっさらにして,我々が考えるべきところ,非感染性の組織損傷における炎症をおさらいしましょう.
傷害関連分子パターン(DAMPs)
英語圏内の先生に確認しましたが,日本語読みでダンプスという発音で構いません.ダにアクセントを持って発音しましょう.英語ぽくいうのでしたら,「ダ」を「デェァ」にすると良いです.
これは分子生物学の世界では比較的最近発見されたものです.最近と言っても10年以上前だと思いますが...
これは非感染性の話です.
受傷により細胞外基質が破壊されて,それを感知した細胞がなんらかの理由で死ぬと,細胞内の色々な構造物がDAMPs(細胞ゴミ)として放出されます.
よく,要らなくなった衛星はそのまま大気圏外で破壊されて宇宙ゴミになるなどと言いますが,そんなイメージで構いません.
そのゴミであるDAMPsが,PRR(パターン認識受容体)や他のDAMPsに対する受容体に結合して,サイトカインを放出を促進させます.
サイトカインについては後でまとめますので安心してください.
知らない人からするとまさかというような内容ですよね.
だって,壊れた細胞自体が炎症を惹起するのですから.
非感染性の炎症兆候のほとんど,つまり我々が相手にする膝痛や腰痛,その他がこのDAMPsが…おっと,それまで話すとこの記事が終わりませんね.
神経のはたらき
まず,求心性神経の逆行性興奮によって生じる局所性の炎症というのがあります.神経性の炎症などと言うこともあります.
簡単に言うと,神経線維という経路が使われて炎症性サイトカインが,損傷を受けた局所以外にも波及する仕組みです.
損傷部位よりも遠位で腫れが出るのはなぜかという問いに,これを引用して説明する場面が多いと思います.
軸索反射とか後根反射というワードも出てきますが,興味のある方は調べてみてください.
また,それだけでなく,と言うよりそれに付随して,神経線維は種々のサイトカインを瞬時に放出させます.
グラフの最左に神経線維を描いたのはそのためです.
次に,新生した自由神経終末(細い神経)は血管内皮細胞の新生を呼び起こすことも分かっているそうです.
損傷を受けてコンマ何秒で瞬間的に炎症を呼び起こす.つまり,炎症性のサイトカインを放出させて,そこで神経増殖因子が放たれる.
そこで神経が新生されて,それに伴走するように毛細血管が新生されて急速に網目状の毛細血管網が形成されるのです.
先ほど言ったように神経細胞自体もサイトカインを放出して次の反応を呼び起こしますし,神経線維に伴奏するように新生される毛細血管,つまり血管内皮細胞もサイトカインを放出します.
これは顕微鏡では見えない,ものすごく小さな話です.
白血球のはたらき
一概に白血球と言っても,いろいろありますね.血液の中の細胞成分のうちの一部が白血球と呼ばれます.
損傷が起こると1分以内にまず好中球が初めに遊走して,その次にマクロファージが・・・という話は皆さんすでに知っていることと思います.
これらの遊走する細胞は,サイトカインという色々な物質で指示を送り合っています.
※「サイトカイン」は総称で,インターロイキン,インターフェロン,リンフォカイン,増殖因子などを含んで全部を言うことが多いです.
サイトカインと増殖因子(GF)は別々に言われることもありますし,混同して書かれていることもあります.
難しそうなのが並んでいますが,気になれば調べるくらいで良いと思います.
このように,「炎症反応」と言っても語りきれないほどの反応が同時多発的に起こるのです.
ここでどれだけこのサイトカインの反応を局所で起こせるかで,その後の線維芽細胞をはじめとするECM産生がどれほど起きるかが決まります.
これを,以下のようなことをして阻害/助長するのはもちろんダメですね.
アイシング/温熱
鍼灸やマッサージ,不良な外固定などの局所刺激
外科的手術による洗浄,投薬
続く・・・