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ツイン・ピークス The Return 第8章「火はあるか?」のおはなしと考察。リンチの映像革命。

全世界の寝室を驚愕させた第8章。ぼくらのリンチがやってくれた。やってくれたよ。

とりあえず僕は感動しました(語彙力)。こんな作品、ほかの人に作れる?というか、作ろうと思う?美しい。その志が美しい。

ちょっと取り乱しましたが、こんばんは。大好きなツイン・ピークスThe Returnの感想や考察をネタバレありで書いていきたいと思います。公開から数年経っているけど、もし今のタイミングで見ている人がいたら、見た後に読んで楽しんでもらえたらと思います。

では早速いってみましょう。

最初のシーンのあらすじ。

前回、刑務所を合法的に脱走した悪いクーパーとレイ。クーパー、謎の端末で警察の追跡をやり過ごします。そのままハイウェイを下り、闇の中をどこかへ向かって進みます。

「ファームと呼ばれる場所へ行くのが良いだろう」とクーパー。

「おれの欲しいものを持ってるな」とクーパー。

「ああ持ってるよ。数字を全部完璧に覚えてる」とレイ。

クーパーが欲してるのはおそらく”座標”のことでしょう。レイは座標の数字を覚えている様子。車は闇夜を進んで、まばらに木の生えた場所へ進みます。車を停めて用を足すレイに銃を向ける悪いクーパー。(ちなみに、前回クーパーが言っていた「グローブボックスにともだちを入れておけ」というのは、銃のことでした)

ところが、クーパーの銃には弾が入っておらず、逆に銃を隠し持っていたレイに2発弾丸を打ち込まれ、悪いクーパーは地面に倒れ伏してしまいます。

第8話、まともなのはここまで。

奇妙奇天烈シーンその1 黒いおじさんたち、林の向こうから現れる。

レイが悪いクーパーにとどめをさそうとすると、稲光が起こり、林の向こうから「見えるような、見えないような」黒い男たちが6人ぐらい小走りにやってきます。やや、これは!バックホーン警察署で、ヘイスティングスの房の隣の隣あたりにいた黒い男や、同じくバックホーン警察署の遺体安置所で、廊下の向こうから歩いてきた黒い男によく似た風体です。汚れたネルシャツ、長髪、ヒゲ、ニットキャップにダボダボのズボンといった格好をしています。

このおじさんたち、不思議なのは、「見えるような、見えないような」存在の仕方をしています。時にはレイに重なるように見えているし、時には実在しているようにも見える。「いるのか、いないのか」わからないのですが、レイは驚き腰を抜かしてしまったので、現実にはっきりと、見える存在であるようです。

おじさんたち、3人はやっせやっせと踊りを踊っているように見え、残り3人は悪いクーパーの身体をもっさもっさといじくっています。いじくっているうちに、いつのまにか血液を悪いクーパーの身体にどろどろとなすりつけています。まるで子どもが砂遊びをしているかのように。

そしていつしか、おじさんたちが悪いクーパーの顔を持ち上げると、その腹から頭ぐらいの大きさの、まるでゾフィーがウルトラマンの命を救う時に持ってきたような形の「球」が登場し、そこにどうやら、にやりと笑う「ボブ」の顔が。おお、これが「ボブの魂」みたいなものでしょうか?それを、腹から出してしまったということは・・・?

あまりのことにその場を逃げ去り、車中で「フィリップ」に連絡をとるレイ。うーん、このフィリップというのは、フィリップ・ジェフリーズのことでしょうか。ということは、悪いクーパーを狙い、レイとダーリャを影で操っているのはフィリップ・ジェフリーズということでしょうか。

いずれにせよ謎のまま、夜は更け、月は雲に隠れます。

バンバン・バーでは今日はビッグゲスト。

ナイン・インチ・ネイルズ。『Shes gone away』。ナインインチネイルズのトレント・レズナー曰く「ファッキング不快になるようなものを」とリクエストされて作ったもののようだけれど、どうしてこうもツインピークス世界にフィットするのでしょう。

そして起き上がるバッド・クーパー。目はうつろ。

JULY 16, 1945   WHITE SANDS, NEW MEXICO 5:29 AM(MWT)

ここでピンと来た人はピンと来たんだろうけど。

ゴードン・コールの壁に掛けられたキノコ雲と一瞬で結び付けられた人はいただろうか?

そしてあのカウントダウンの不吉さよ。

ここでの描写を文字で記述するのはやめておこう。見ればわかることだからね。

ただね、僕はここで爆心地にゆっくりゆっくりと近づいていくカメラのスピードが、ここでもあまりにリンチ的なリズム、リンチ的な呼吸のリズムであることに感動しましたよ。

とにかく、完璧な映像体験だったと思う。挿入曲についても言わずもがな。

奇妙奇天烈シーンその2 コンビニエンス・ストア

モノクロ映像が続き、コンビニエンスストアが映し出されるます。

裸電球がガソリンの給油機の上で光っている。ドアが何度となく開け閉めされる。中から煙が出ては消え、出ては消える。そのうち室内も光り出す。大きくなる煙。

黒いおじさんたちが動き回る。出たり入ったり。ウロウロ。8人ぐらいいる。電球が激しく明滅し、建物が白く照らされる。中でおじさんたちが何事かを行っているようにも見えます。

奇妙奇天烈シーンその3 吐き出すクリーチャー。邪悪なもの。

闇の中に突如浮かび上がるクリーチャー。おお、これは第1話でニューヨークのカップルを喰い殺した「邪悪なもの」ではないでしょうか?女性のような体つきで、顔には口だけがあり、さらに頭部に小さなツノのような突起がついています。トランプのカードについていた悪魔のような。

「邪悪なもの」がえづくと、口からエクトプラズムのようなものがドロドロと飛び出します。重力のない空間なのでしょう。液体のように見えるドロドロとしたものは、まっすぐどこかに向かって進んでいきます。見るとゼリー状の物質の中に卵のようなものが無数に浮かんでおり、その中に、なんと先ほど黒いおじさんたちが悪いクーパーの腹の中から取り出していた、「ボブの魂」が存在しています。こちらを見つめるボブ。

これはボブの誕生なのでしょうか。

再び原子爆弾の爆発が続き、炎、炎、炎。爆発、爆発。爆発。

ついに爆発の中心にたどり着くと、そこには光り輝く金色の塊が。

ここまでわずか26分。

異界。紫の海。

ここで第3話に出てきた紫の海へとシーンが移ります。この海の色、なんともいえず素晴らしいです。海を進んでいくと切り立った岸壁が見えてきます。この島が、先ほどの原爆実験(トリニティ実験)のモニュメントに似ているとかいないとか。

島の突端には不思議な形の建物が建っており(以前クーパーが飛ばされた建物と同じような質感ですが、少し違うような気もする)、カメラはゆっくりゆっくりその中に移動します。移動するとそこは

また異界。Slow 30's Room.

今度はモノクロの絵のような場面が現れます。情報量が多すぎるのですが、まず豪奢な趣味のソファに腰掛けたこれまた着飾った女性がいます。傍に蓄音機(第1話に出てきたものか?)があり、さらに第3話に出てきたブリキの鐘のようなコイルのついた謎の機械が置いてあります。

ちなみにクレジットによると、「セニョリータ・ディド」というのが女性のお名前のよう。さらにここで流れている音楽は、サウンドトラックによると『Slow 30's Room』という曲。ふむ。ということは1930年代の映画のイメージでしょうか?

こういうのもひとつひとつ、元ネタがあるのかもしれないけど、わかりません。

しばらくすると機械が音と光を発し、影から「巨人」が登場。巨人、険しい顔でしばしどこかを見つめ、おもむろに機械の目盛りをチェック。スイッチを押すと音と光が止みます。巨人とセニョリータ、アイコンタクト。

異界、劇場。

階段があり、巨人がそこを登って劇場の中に入っていきます。ステージがあり、ここにもあの奇妙な機械があります。

巨人が手をかざすと、スクリーンに映し出されたのは、先ほどのトリニティ実験から、我々が今まで見てきた通りの画面が。うーむ。メタ構造ですか。それともここは世界を見下ろす神の劇場ですか。

画面に先ほど「邪悪なもの」が吐き出した「ボブの魂」が映るとそこで画面が止まり、ここで巨人がゆっくり宙に浮き始めます。するとセニョリータ・ディドがやってきます。

宙に浮いた巨人の頭が発光すると、そこから金色の粒子がキラキラと生まれ、徐々に神経細胞のような、樹木の枝のような形を作ります。感激の眼差しで見つめるセニョリータ。やがて金色のキラキラは銀河のような形を作り、そこからなんと、金色に光る球が生まれます。この「金玉」、ボーリング球ぐらいの大きさがあるのですが、ドラゴンボールのようにも見えます。中に見えるのはローラ・パーマー。

セニョリータ、ローラの金玉に口付けすると、天井にある大きなホルンのようなものに玉は吸い込まれ、ホルンを通って地球のアメリカへ放出されます。

ちなみにここで流れていた曲は、サウンドトラックによると『The Fireman』。意味は消防士。または蒸気機関車などの「火夫」ということです。

ここまで41分。もう頭ついていけません。

1956年のニューメキシコ砂漠で

茫漠たる砂漠に産み落とされた「卵」。これはあの邪悪なものの口から生まれたゼリーの中に、無数にあったものです。

卵が割れると、とにかく気持ち悪い生き物が誕生します。カエルのような肌と足を持つ、羽根のある昆虫のようなもの。両生類と虫の合いの子のような。

まー、嫌な予感しかしませんわ。

1950年代のティーンネイジャーカップルに幸あれ。黒い男たちの誕生。幸運は訪れない。

初々しい十代のカップルが夜の荒野を歩いています。幸運のしるし、1セント硬貨を拾います。

画面が変わって、空から黒い男が荒野に降り立ちます。おお、これまで何度となく出てきたあの、黒い男たちです。ほんと、どこからともなくやってくるんだな。

夫婦が夜の道を運転していると、あの聞きなれた電気音がして、”黒い男”がヨロヨロと近づいてきます。クレジットによるとこの男、Woodsmanというそうな。意味は「木こり」。「森の住人」など。とりあえずここから「ウッズマン」と呼びましょうか。

ウッズマン、運転手に「火、あるか?」と聞き続けます。他の”黒い男”たちは「うー、うーううー」と唸り続けるし、電気の音はうるさいし、運転手は怖がって逃げてしまいます。

十代のカップル、男の子が女の子の家まで送っていってます。すごく辺鄙な場所に住んでいる女の子ですが、幸せそうです。なんという素敵な。素敵すぎてもう、このあとロクなことにならないのがわかりすぎてつらい。

ウッズマン、意外とサクサク歩いて荒野を進み、ラジオ局にたどり着きます。ラジオがかけているのはプラターズというグループの、『マイ・プレイヤー』という曲。結構有名な曲を歌っているグループでした。この曲の歌詞も、深掘りしたら意味がありそうで面白いです、ここではそこまでやりませんが。

ラジオ局にたどり着いたウッズマン、受付の女性の頭を握りつぶし、ディスクジョッキーの頭もつぶします。曲は途切れ、ウッズマンはラジオに向かって語りかけます。

これが水だ。

そしてこれが井戸。

すべて飲み干し、降りて行け。

この馬は白馬で、中は闇。

これを何度もなんども繰り返すうち、街の人たちは気を失い、そしていつしか夜の帳の中を、先ほど生まれた気味の悪いカエルのような、虫のような生き物がズルズルと這ってきます。

ああ、ここからは書きたくないのですが、つまり先ほどの純粋な女の子は、その体内にこのカエル虫を受け入れるのです。口を大きく開け、そこにカエル虫はゆっくりと入っていきます。

何かが始まった。何かが生まれ落ち、何かが闇へ消えました。

すやすやと眠り続ける1956年の少女。どこからか馬の戦慄きが聞こえ、エンドクレジット。

以上が第8話の全てになります。

これをなんと形容すればいいのでしょう?しかし、おそらくメッセージは明確なはず。描かれているものは支離滅裂のように見えますが、おそらくデヴィッドリンチ的には、わかりやすく表現しているはずです。

それにしても、それが何なのか・・・・

第8話で描かれたものとその考察。

まず、悪いクーパーは撃たれて死んだはずが、黒い男たちの働きで蘇りました。つまり黒い男たちは悪いクーパー(または、その中にいるボブ)をサポートするような存在のようです。ここでわからないのは、ボブ玉は悪いクーパーの中に残っているのか?ということです。

次に原爆実験。トリニティ実験(人類最初の原爆実験)で、人は「火」を生み出してしまった。

陳腐な見方だとは思いますが、原爆の誕生によって、これまで人類の歴史で人間たちが御してきたはずの「火」が、人類の御しきれないものに進化してしまった、とも言えるかと思います。

そして原爆実験によって、なぜかはわからないが、「コンビニエンスストア」が生まれました。そこには黒い男たちがウロウロしている。

さらに原爆実験によって、なぜかはわからないが、「邪悪なもの」がボブ玉を生み出し、さらに無数の卵を吐き出しました。卵からはカエル虫が孵化します(ただし11年後)。

巨人(火夫)とセニョリータ・ディドは紫の海の孤島にある「30年代の部屋」におり、そこから世界の様子を見渡しています。鐘のような機械がアラートの役割をしているようです。さらにこの「30年代の部屋」は、第3話でNaidoの居た部屋と似ていますが今のところその関係は不明です。

巨人(火夫)はボブ玉の誕生を見ると金の玉(ローラ・パーマー)を生み出し、ディドはそれをアメリカに向けて放出します。巨人とディドの感じからすると、これは「世界にとって良きこと」のように見えます。ストレートに受け取れば、「ボブを止めるため」または「ボブの存在を明るみに出すため」でしょうか。これまで、前作や映画でローラが果たしてきたことを考えると、ローラによってボブの存在が他者に知られることになったわけですから・・・。

とはいえ、この解釈はやや無理やりな感じがします。これだと、ローラ・パーマーはボブの犠牲になるために生まれてきたということになってしまいますので。

また、巨人がFiremanだとすると、これは消防士と解釈していいのか、それとも火夫なのか。個人的には火夫という解釈で見ていきたいと思います。火を消す者ではなくて火を扱う者です。

おそらく原爆実験によって、ニューメキシコ州に「ウッズマン=森の人」とその他の黒い男が生まれ、ウッズマンはおそらく計画的にラジオ局をジャックし、「水の詩」を繰り返すことでカエル虫を女の子の体内に誘ったと考えられます。

ウッズマン=森の人はどうして真っ黒なのか。彼の目的はなんなのか。「火あるか?」とは何なのか。邪悪な者から生まれたカエル虫を誘ったことを考えても、「そっち側」の存在なのは間違いないのですが。ボブとは共犯関係なのでしょうか。ここら辺ももう少し見ていかないとわかりませんね。

ウッズマンの言う「水」とは、おそらく清らかな水ではなくて、人間の深い深いところ「=井戸」から組み上げた得体の知れないもの。それらを全て飲み干せば、落ちていくことができる。白くて清らかな馬の中は深い闇。ローラ・パーマーのことか。それともカエル虫を飲み込んだ女の子のことでしょうか。

そして最大の謎。あのカエル虫は一体どうなるのか。カエル虫を飲み込んでしまったあの女の子は一体誰なのか。年代で言うと、セーラ・パーマーというのが一番可能性としてありそうですが・・・しかし顔の感じが全然違う。まったくわかりません。

ちなみにですが、この1956年のシーン、まったくのパラレルワールドという可能性も、なくはないと思います。

お腹いっぱいです。では次回も楽しみにみましょう。











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