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時給900円のアルバイトで100万円貯めて、20歳の誕生日の次の日に車を買った話【私と車・前編】

みなさんの人生で、一番高かった買い物は何ですか?
私は20歳の誕生日の次の日に、人生で初めて現金100万円を握りしめ、そのまま車屋さんに向かいました。札束の100万円は思ったよりも軽かったけれど、それでも1年分の忍耐を湛えた両手は、震えていたと思います。
これから全3回にわたり、「私と車」の物語をお届けします。車に憧れ、車とともに過ごした5年の歳月を、ぜひ最後まで見届けてください。


私の愛車は「70ヴォクシー」です!

大学2年生の12月、20歳の誕生日を迎えた私は、100万円を握りしめてディーラー(車屋さん)にいました。憧れの車を手に入れるために。

それから、社会人2年目で渡英するまでの4年間、私は「ヴォクシー」という車と共に過ごしてきました。ヴォクシーは、トヨタが提供するファミリー向けの大型車で、最大8人まで乗り込める広い空間が特徴です。

ヴォクシーと私

この車は何度かモデルチェンジを重ねていて、私は2007年に発売された2代目、70ヴィクシー(ななまるヴォクシー)のブラックカラーを選びました。グレードはZS煌IIで、当時の走行距離は約10万キロです。

さすがに新車には手が届きませんでしたが、20歳になりたての私にとって、ヴォクシーはまさに「自分だけの城」でした。自分の車がかわいくて仕方がないので、学生時代は毎週1時間かけて洗車をして、煌めくヴォクシーを維持していたほどです。

なんで私が車を購入!?ヴォクシーに惚れたワケ

東京郊外で育ち、高校時代は地下鉄通学だった私にとって、「大学生で車を買う」という展開は全く想像していませんでした。というかむしろ、「車はお金がかかるんだろうなぁ」とマイナスイメージでした。

しかし、大学に進学して、アルバイトを始めたいなと思ったとき目に止まったのは、ガソリンスタンドのスタッフ募集。『頭文字D』に登場するスーパーカーや、車好きで知られる鷺沢萠さんの小説が好きだったこともあって、応募してみました。「かっこいい車を見れたらいいなぁ」ぐらいの軽い動機です。

ガソリンスタンド時代の自己紹介シート。
好きな食べ物と飲み物は、好きそうなものを勝手に書かれる文化でした。

ガソリンスタンドでの日々は、「ぃらっしゃーせ」「ぉーらい」と叫びながら敷地内を走り回ります。毎日が体育祭みたいで楽しかったので、フルタイムのスタッフと同じくらいシフトを入れてもらううちに、どんどん車にのめり込んでいきました。

また、仕事に慣れてくると、お客さまの車を運転する洗車や車検の業務にも関われるようになりました。お客さまの車を綺麗にしたり、安全に乗れるように検査に持っていったりしているうちに、お客さまが自分の車を大切に思う気持ちが伝播して、そして、自分も愛車が欲しいと思うようになってしまったのですね。

特に、仕事でよく洗車をしていた黒色のヴォクシーが、カッコよく見えました。目線が高くて初心者でも運転しやすく、スノーボードや旅行も余裕で行ける大きさ。しかも、社内オーディオの音質は最高。70ヴォクシーの丸目なヘッドライトが、きょとんとした表情のようでお気に入りでした。

アルバイトを始めて半年経った大学1年生の終わりには、ヴィクシーを買うことを決意していました。

「特技:タイヤの組み替え」までの道のり

時給900円のアルバイトで100万円を貯めてヴォクシーを買う━━私は大学2年生の1110時間を、ガソリンスタンドでのアルバイトに費やしました。セルフのガソリンスタンドだったので、昼間はタイヤの販売営業や車検業務、夜は「危険物乙4」の資格を取得して監視員をしていました。

その中でも特に楽しかったのが、タイヤの整備です。頑張ってタイヤを売ると、自分が販売した分の整備作業を手伝わせてもらえることがありました。

自動車のタイヤ組み替えは、チェンジャーという機械を使ってホイールから古いゴムタイヤを外し、新しいタイヤを付け替えます。タイヤがホイールの溝にスイーっとハマる感覚が心地よくて、見るのもやるのも大好きでした。整備のために自動車に触れると、車という複雑で大きな機械が、一つ一つの部品から成り立っていることを実感できます。小さな部品や単純な作業を積み重ねて、大きな仕事を成し遂げる。そんな考え方には、ハードでもソフトのモノづくりでも、分野に関係なく強く共感しています。

最終的にタイヤの組み替え整備を自分でも習得し、ヴォクシーサイズ(205/55R16)までのタイヤは、一人で作業できるようになりました。これができると、整備士さんの手が埋まっていても、自分でお客さまのためにタイヤを替えられます。パンクなどの緊急事態にも対応でき、自分の手でお客さまの安全に貢献できているという感覚が、力仕事が苦手で怒鳴られてばかりだった自分のやりがいになりました。

いざ、100万円を握りしめて車屋さんへ

大学1年生の12月から貯金を始めて、目標の100万円が貯まるまでにちょうど1年かかりました。

自動車には一台一台に車検証という書類が発行され、その中に「所有者」という項目があります。当時はまだ成人年齢が20歳で、車の所有者として認められるには20歳になっている必要がありました。せっかく車を買うからには、車検証に自分の名前を載せたい。また、このタイミングで人生初の実印も作成・登録して、車を迎える準備を進めました。

そしていよいよ、20歳の誕生日を迎えた12月、達成したばかりの100万円を銀行で下ろして、ネットで見ていた憧れのヴォクシーを売っているディーラーのお店へ。当日の状態確認や試乗には、ガソリンスタンドのアルバイトで鍛えた慧眼が大活躍でした。すごく綺麗でエンジン系統の調子もいい子に出会え、即決しました!!

元ガソリンスタンド店員による、中古車選びの3か条
・車両の状態、走行距離、メンテナンス歴で前オーナーの乗り方を見極める
・年末年始は、強気の価格交渉をできる可能性がある(やりすぎると販売店のサービスに響くので注意)
・交換できる部品(エンジンオイル、オイルフィルター、エアクリーナー、エアコンフィルター、各種ライトなど)は一緒に状態を確認して、必要なものは交換してもらおう

その場で「これ買います」と宣言して、握りしめていた現金でお支払いしようとしたら、担当者の方に銀行から振り込むよう諭されたのはいい思い出です。「大きな買い物をするときは、キャッシュで持ち歩いてはいけない」 大変勉強になりました。

ヴォクシーのおかげで実現できたこと

ヴォクシーを買ったから、旅行もスノーボードも、車中泊も体験できました。ヴィクシーを買ったから、車好きの新しい友達ができました。ヴォクシーを買ったから、車を大切の思うガソリンスタンドのお客さまの気持ちがより一層分かりました。

長野の上田で車中泊をした時のヴォクシー

ヴォクシーと一緒に旅に出ると、自分と行きたい場所が、道でつながっていることを実感できます。どんなに遠く離れた目標でも、走り続ければ必ず辿り着ける。オーナーの長距離走行に付き合わされる車は、しばしば車好きの間で「シバかれる」と表現されます。私のヴィクシーも、シバかれつつある車だったかもしれません。どんな道でも、どこまでも付き合ってくれたヴォクシーが、私は大好きです。

今でも、貯金のために頑張っていたガソリンスタンドのアルバイトや、ヴォクシーを買うまでの道のりは、色々な人に興味を持ってもらえます。実は就職活動の最終面接にも、「これが私の勝負服」とガソリンスタンドのジャンパーを着ていきました(私服でも大丈夫ですかと、事前に何度も確認しました)。こんな感じなので、面接の最後に聞かれた質問は、「本当に時給900円のアルバイトで100万円貯めて、20歳の誕生日の次の日に車を買ったんですか?」です。「はい」としか答えられない問いに面くらいましたが、無事内定をいただけ、ヴォクシーがつないでくれたご縁に感謝したことを覚えています。

20歳の私は、ヴォクシーという目標のために強くなりました。そして重要な場面では、ヴォクシーを買うために経験したことが、自分の未来を支えてくれたように思います。

最後に

体育の成績は万年「3」だった20歳の大学生が、ガソリンスタンドのアルバイトで100万円を貯めて、車を買う。

ヴォクシーという目標を見つけることで、私はこの目標を達成することができました。

確かな目標を見つけたら、あとは追いかけるだけです。私は今、ロンドンから新しい夢を追い始めています。夢を叶えるまでの道は、あの頃ヴォクシーと一緒に走った道のように果てしなく感じますが、それでも辿り着けると信じます。
ヴォクシーが教えてくれた、道の走り方を、私は決して忘れません

次回のテーマは、「ヴォクシー最後の日」です。


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