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「ある真夜中に」

こんにちは。セロトニンです。
更新頻度が高いのは現実(修論)逃避です。

毎年年末年始になると高まる合唱欲。
学部4年間、割と真面目に部活やってたので
定期演奏会フィーバー期(12月)になると
合唱とか管弦楽とかめっちゃ聞きたくなるのだ!


「ある真夜中に」

この時期合唱と言えば手当り次第漁るんですが
今特に「ある真夜中に」という曲集が
激アツなんです。(演奏経験有ゆえ楽譜持ってる)

2006年の全校高校合唱コンクールのために
今は亡き瀬戸内寂聴さんが書き下ろした詩に
和洋問わず古典的な音色が特徴の千原英喜先生が
曲をつけた「ある真夜中に」を終曲とし、そこに
「愛から悩みが生まれ」「この星に生まれて」
「寂庵の祈り」の3曲を加えた組曲です。

私はあんまり楽典とか和音とか詳しくないので
日本語表現しか語れないけど、でも語りたい!

生涯にわたって「愛」について考え、説法し、
表現してきた寂聴さんの魅力が詰まった詩...
拙い文ですが、頑張ってプレゼンします!
よろしくお願いします!


1.愛から悩みが生まれ

愛から悩みが生まれ
愛から恐れが生まれる

それだから
愛する人を
つくるのはおやめなさい
愛する人を失うのは
とても不幸な事だから

愛することを
離れたならば
憂いも悩みも
消え果てる
恐れなんて
どこにもなくなる

愛する人も憎む人も
いない人には
悩みの絆が生まれない

混声合唱とピアノのための組曲「ある真夜中に」
原作: 集英社文庫『寂聴 生きる知恵 法句経を読む』

曲自体はハミングから始まるのですが、
この初音、やたらめったら取りにくかった思い出

この曲は合唱曲としては少々特殊な作りです。
合唱曲は、元の詩をあまり変えず
メロディーを載せていくのが一般的です。
(作曲の関係上ワードや連が入らないことがある)

しかしこの『愛から悩みが生まれ』は、
お釈迦様の言葉が纏められた『法句経』を
引用した寂聴さんの説法が元になっており、
それを千原先生が編集して曲にしました。
(私は勝手にYOASOBI式と読んでいます。
千原先生オリジナルワードは欠片も無いけど)


『はじめに』において、千原先生はこの詩を
愛の階梯第一・迷いと苦悩と表現されています。

また、曲解説にはこんな風にも。

愛は突然に、我が身に雷のように落ちてくる。愛の高圧電流に打たれ、痺れ、身も心もどうすることも出来ない。愛欲の無限地獄のたうち回る苦しさ、恐ろしさ-。

混声合唱とピアノのための『ある真夜中に』曲解説

これを読んだ当時、『恋と何が違うねん』と
思ったのですが(19歳にしておこちゃますぎる)
学生のうちに人並みにお付き合いとかしたりして
(今フリーですが)何となくわかった気がします。

私は『愛』とは外向きのエネルギーとか
【他人から影響され他人に影響するもの】
という認識で前はいました。ですが

愛をどのように表現するかという葛藤
受け取ってもらえているのかという不安
この時間が終わることへの恐怖といった
他人に向けるはずのプラスの愛情が、
己にはマイナスになって存在する。

そして与えられることへの『欲』が肥大化し、
その存在を認識して自分が嫌になることも。

そんな人間らしい感情の真髄をようやく理解し
同時にモテすぎて困ってる弟子にこれを説く
お釈迦様ってまじ凄いなって今は思うわけです。


そしてその言葉を敢えてストレートに
表現することでエロッって思わせる寂聴さん。

『愛欲』というものの恐ろしさを説いているのに
俗世で生きていく上で欠かせないものとしての
側面も垣間見える。

出家前に不倫し、子供を置いて出ていった
経験のある寂聴さんだからこそ
『愛する人をつくるのはおやめなさい』
という言葉に謎の説得力が出てる...。

とても魅力的で、そして逆説的に『愛欲』を
人として当たり前の感情だと肯定してくれる
素敵な詩だと思います。


曲は「これぞ千原節ィ!」ってメンバーの誰かが
言ってたんですが、もう、和音が千原先生。笑

人の感情の生々しさを表現するかの如く
ハミングから始まり、
詩の部分もアカペラから始まります。
(しかもこのアカペラのパターンが3回も!)

そして『ベートーヴェンの運命のモチーフが
雷のように閃いた』という曲解説の言葉の通り、
内に秘めたる激しさを表現するピアノの伴奏。

詩の長さの割にテンポよく進むので、
(激しさの表現?)割とサクッと聞けます。

お手隙の際に1度聞いてみてください。
中毒性が凄いです。


2.この星に生まれて

あなたに出逢えたから
この星に生まれてよかった
あなたに出逢えたから
愛する喜び知らされた

あなたを愛したから
この星に生きてよかった
あなたを愛したから
淋しさや悲しみにも出逢った

それでも
この星に生まれてよかった
あなたに出逢えたから
愛する幸せ溺れるほど恵まれた
生きる喜びあふれるほど贈られた

混声合唱とピアノのための組曲「ある真夜中に」
出典:中央公論新社『美しいお経』

これ最初に読んだ時、
「愛から悩みが生まれどこ行った!?」
って思いました。単純で若いね私...。笑

この詩に出会うまではあまり恋愛に興味がなく
家族愛や親愛だけで生きていけるもんだと
思っていたのですが、詩を突き詰めるにつれ、
誰か一人と心から思い合うことにようやく
憧れを抱くようになりました。

それ遅すぎる!と思うかもしれないのですが、
「結婚とか恋愛とか人生の三の次以下」と
考えてた私の若さを、そんなことないわよ、
たった一人の人と愛し愛されるって素晴らしい
ことなのよ、って諭してくれた寂聴さんが凄い。

さすが千原先生曰くの愛の階梯第二・幸せと感謝

とはいえ私には心から愛する人がいないので、
この詩に没頭するための措置として私の中では
身近な人への感謝を載せ本番を迎えたし、
未だにその思いから抜け出せていないのですが、
いづれ大切な誰かに贈るための詩になれば
いいなと思っています。


曲は女性の気持ちを歌って居るので、
女声が結構メインなんですが、
すごく落ち着いて愛を語っている為
低音域も多く、男性が効果的に効いてます。

全体的に明るく、幸せオーラがバッチバチで
和音から多幸感がハンパない。

詩では連が違うのですが、曲では6セクションが
『淋しさや悲しみにも出逢った
  それでもこの星に生まれてよかった』

という構成になっているのが
凄く感情移入できて好きです。

千原先生センスありすぎです。

結婚式で演奏してくれたら多分泣くなぁ...
私は神式希望ですが。(寂聴さんは尼なので仏教)


3.寂庵の祈り

幸せな時にはありがとう
苦しい時には力をください
淋しい時には聞いてください
いつも
(地球の)すべての人が
幸福で平和で
ありますように

混声合唱とピアノのための組曲「ある真夜中に」
出典:中央公論新社『美しいお経』

4曲の中で私が1番感情移入して好きな詩です。

【寂庵】とは京都の嵐山の近くの曼荼羅山にある
寂聴さんのおうち兼お寺のこと。
寂聴さんは生前、この寂庵に訪れた方と
この詩を唱和されたそうです。

私は四国あるある、小学校の修学旅行先は広島
なタイプの人間なので、リニューアル前でしたが
原爆資料館で感じた戦争の恐怖、そして
奪われてしまった未来を想像した時の哀しみは
未だに鮮明に思い出すことが出来ます。

寂聴さんは戦時中も生きていた方ですから
【平和】がどれだけ尊いものなのか、私には
想像もつかないくらい熟知してらっしゃったと
勝手に思っています。

だからこそ日々を大切に、という気持ちが
最初の三行に表されているのでは無いでしょうか

人への感謝や愛は伝えておかないと後悔する。
だからこそ祈りの言葉の中にこの3行がある。

日常の些細なことに感謝する余裕こそが
幸福であり、平和なのだと。

この何でもない日々を世界のすべての人が
当たり前のものとして送れますように。

それが、千原先生の言う愛の階梯第三・祈り
の意味だと解釈しています。


曲はお寺で読む雰囲気を醸すためと、
1人の祈りから多くの人へ広がる表現にも
感じられる、千原先生名物アカペラスタート。

『幸福』という単語は、キリスト教会で鳴る
天使のトランペットのイメージで、ソプラノが
優しく奏でてくれます。
(下三声はそれをパイプオルガンの如く支えます)

仏教・キリスト教・イスラム教、世界には様々な
宗教がありますが、その垣根を越えた祈りを
繊細かつダイナミックに表現されています。
うん、やっぱ千原先生は天才だったわ(今更)


ちなみにですが、解説ページにはこんな言葉が。

曲はピアノ・パートを省略してア・カペラでの演奏が可能である。お寺や協会、野山や海辺で歌えます。

混声合唱とピアノのための組曲『ある真夜中に』より

日々の幸せを祈ってこの詩を唱い続けた
寂聴さんが無くなって僅か3ヶ月後、
ロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。

今を生きる私たちはこの詩を唱い繋いで、
なんの意味も無いかもしれないけど祈ることが
寂聴さんに課せられた使命なのではないかと
この文を見て私は思ったわけです。

そんな長くないので聞くだけ聞いてみて欲しい...


4.ある真夜中に

ある真夜中
どこかの星の熱いため息が
花びらになって降ってきた
花びらは舞いながらささやいた
  わたしはここにいます
  そして あなたがそこにいてくださる
  ああ 何というしあわせ
  たとい永遠にあなたの額に
  たどりつけなくても

ある真夜中
どこかの星の熱いため息が
雪になって降りしきった
雪は身を揉みながら歌った
  わたしはここにいる
  そして あなたがそこにいてくれる
  ああ 何というよころび
  たとい永遠にあなたの唇に
  たどりつけなくても

混声合唱とピアノのための組曲「ある真夜中に」
NHK全国学校音楽コンクール課題曲に書き下ろし

4曲の中でずば抜けて情熱的なこの詩ですが、
千原先生独特の和音と融合すると更に色っぽくて
ホンマにこれ高校生への課題曲か?って
未だに思ってます。2006年...恐ろしい時代だ...

少女小説で有名になり、晩年になっても
ケータイ小説サイト『野いちご』に
名前を変えて投稿してたという寂聴さんらしく
(時代への適応力が凄すぎるぜ...)

言葉選びがエロいので分かりにくいですが、
千原先生曰く、ここで表現されているのは
【無償の愛】なんだそう。

"あなた"は向こうの世界、時空の彼方から"私"に逢いにここに来て下さる。とすると、まさに究極のプラトニック・ラヴ、究極のエクスタシーだ。

混声合唱とピアノのための組曲『ある真夜中に』

急にSF世界観でおいてけぼりを食らった感じが
するんですが(大人の恋愛ってムズカシーね!)、
「どこにいてもあなたを愛してます」
ってことなんだと思います!(語彙力の低下)


この詩で言う「花」とは女で、「雪」とは男。
というのが一般的にこの詩でされる解釈です。

が、加えて私、思ってることがありまして。

この「花」って桜のことだと思うんですよね。
人間の背丈の上から花びらが降ってくるのって
一般的にイメージするのは桜だと思うし
他って言われると...秋桜とか?(植物疎い)

桜って春にならないと咲かないじゃないですか。
で、雪...はまあ春に降ること無くはないけど
桜咲いてる時にまで降る雪はもはや異常気象認定

つまり、詩の中にある『永遠に辿り着けない』
そして千原先生の言う『時空の違い』というのが
「花」と「雪」が同時に存在する季節が
限りなくゼロという一般的事実を元に
表現されているのかも...と。

絶対に会えない(会えたとしても異常判定)のに
相手のことを情熱的に思い続けている。

うん、確かにSF世界線のプラトニックラブ。


合唱でも「花」のパートは女声が、
「雪」のパートは男声が歌っています。

この曲もしっかり伴奏なしから始まるんですけど
アルトが歌ってるところにテノールが
面白い和音で絡み入ってくるんですよ。

...言い方わざわざ私が意味深にしたのは、
ほんとにそんな感じの音だからです!!!

いやさっきプラトニックラブ言うたやん!
って思うかもしれないんですけど最初と最後の
無伴奏ゾーンはマジで情事の雰囲気。

追い打ちをかけるように最後の楽譜の指示は
【for far away】なんで...いや純愛だけど...


まあこれは勝手な想像というか当時の指揮者が
言ったことがそれなすぎる〜ってなって
勝手に思い込んでるだけなんで、千原先生は
全然別の思惑かもしれないですしね!
いや情事の表現でも好物ですけど。


SF世界線のプラトニックラブに話を戻すと、
「わたしはここにいます」を男声女声交互に
繰り返す所が交わらない世界戦の極地すぎて
個人的にめちゃくちゃ好きです。
あと音程が歌っててとても楽しい。

千原先生はこの詩を
愛の階梯第四・時空を超えた愛と言っていて
その【時空】というSF感を醸し出しているのが
私はピアノのように思っています。

ピアノは一貫して宇宙空間のような、暗い中に
星々が輝いているようなイメージがあるんです。

人の声だけではどうしても生々しくなってしまう
ところに、ピアノの宇宙感が見事に相まって
SFプラトニックラブ合唱曲の完成です。

うんやっぱ千原先生は天才だったわ
(大事なことなので2回言いました)


まとめ

1.瀬戸内寂聴さんの言葉はいいぞ
今回曲集を通じてご紹介させて頂きましたが、
寂聴さんのエッセイを読んだことがありまして
言葉の選び方から生き様、考え方に
凄く勇気を貰えたのを覚えています。
(言葉自体は忘れましたが(´・ω・`))
ぜひ見かけたらお手に取ってみてください。

2.千原英喜先生は天才です!!!
(大事なことなので何度も言います)
(それ以上は野暮なのでなにもいいません)


あとがき

本当に、本当にいい曲なので、いい詩なので、
勢い余って書ききってしまったのですが
いかがだったでしょうか?

少しでも寂聴さんと千原先生の魅力に
興味を持っていただいて、1曲でも多く
YouTubeで再生が回ることを願っています。

初演の映像は無いと思うんで...この曲集だと
信州大学混声さんとか耕友会さんとかが
有名な合唱団さんでオススメです。

また機会があれば合唱曲の記事を
書きたいと思っておりますので
(あくまで身バレしない程度にですが...)
ぜひお付き合いいただければ幸いです。

Xもどうぞよろしくお願い致します。
最近は専ら君ここ、光る君へ、ルプなな、
フリーレン、薬屋です。

Xの埋込み永遠に出来ないのなんでだ...

それではまた次回!

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