Web3 x ロイヤリティプログラムに取り組む海外スタートアップ(前編)
これまでスターバックスやNIKEなどの取り組みをご紹介してきましたが、今回はそうしたWeb3を活用したロイヤリティプログラムを提供したいと考える企業に対してソリューションを提供しているスタートアップを3回に分けてご紹介していきたいと思います。
これからの3回で取り上げるのは2021年から2022年までに創業された6社。まだどこも創業から間も無く情報も限定的ですが、元スタバCDOが創業したスタートアップや人気YoutuberのMr BeastやAllbirdsなどの人気D2Cスタートアップ創業者たちが投資する企業など要注目です。
拡大するCRMマーケット
Web3の活用とは関係なく、ロイヤリティプログラムをはじめ、CRMマーケットは世界的に拡大傾向にあります。KBV Researchの調査(2021年)によると、マーケットの年平均成長率は11%を超え、2027年には944億ドルにまで拡大すると予想されています。
米国を中心に、DXに取り組んでD2CやOMOに一定の成果を見せはじめた企業、ナイキやウォルマートなどはDXを通じて獲得した顧客接点やデータを活用してメンバーシッププログラムの強化を進めています。実際に、ナイキは2023年度の第2四半期決算において以下のように発言しています。
こうした企業によるメンバーシップの重要性の高まり、CRMマーケットの伸びと昨今のWeb3 / Cryptoの盛り上がりを受け、NFTなどを活用したロイヤリティプログラムを提供しようとするスタートアップが登場しています。
今回取り上げる6社はこちら
それでは早速、各社それぞれをザッとみていきたいと思います。
今回の前編では、最初の2社を取り上げます。
FORUM3
創業メンバー
Forum3は以下の3名が共同創業者とされています。Linkedinを見る限り、ほぼ全てのメンバーがForum3以外の会社を創業していたり関わっていたりします。
Adam Brotman氏(Co-CEO、元Starbucks CDO)
Andy Sack氏(Co-CEO、元TechstarsのMD)
Joe O'Rourke氏(戦略担当、元Boston Beer Company)
事業概要
1. 「The Collective」
A peer-to-peer learning group for marketers
具体的な情報はありませんが、以前は登録者を募って定期的なウェビナー実施をする旨の記載があったので、オープンな募集やめてクローズドな学習コミュニティにしたのでしょうか。
2. 「Technology Platform」
A solution for community-driven brand building
こちらも詳細の記載はありませんが、StarbucksにはOdysseyプログラムの構築も支援していると言われているので、ゆくゆくはSaaS的なソリューション化も見据えつつ、現状は大手企業向けには個別のシステム開発を支援している状況でしょうか。
顧客
Starbucks、The Boston Globe、Anheuser-Busch
投資家
2022年12月にシードラウンドで1000万ドルの調達が発表されています
リード投資家はDecasonicとされ、他にPolygon Venturesなど5社が投資したとされています
備考
以前は「ロイヤリティプログラム」を前面に出していた印象なので、今回のHP刷新などをみると、ロイヤリティプログラムに絞らず「コミュニティ」や「ブランド構築」の領域に重心をシフトしている気配を感じます
次は、ParadigmやTIGER GLOBALなどから1,600万ドル(FORUM3を上回る規模)を調達し、注目を集める企業「Hang」です。
Hang
創業メンバー
Matt Smolin氏(CEO、金融大手UBSでトレーダーを務めるなど金融出身)
Brian Bendett氏(Hang内の役職は不明。現在もGoogle VenturesのPartnerを務めている)
Sam Smolin氏(Hang内の役職は不明。エンジニア)
事業概要
ノーコードで、ブランド企業が独自のメンバーシッププログラム(サブスク型や無料参加型など)や特典、ルールベースでの段階的なポイントシステムの構築が可能となるプラットフォームを提供
同プラットフォームは、SalesforceやShopify、Toastなど既存のCRM、EC、POS、SNSなどとの連携にも対応可能とされています
現時点でどのようにWeb3やCryptoが活用されるのかは不明ですが、採用情報を見ると「我々(Hang)は、ブランドロイヤリティプログラムの未来はFree to Playゲームと似たようになるものと信じている。楽しく、エキサイティングで、プレイヤーがより大きなコミュニティやマルチプレイヤー(顧客)体験の一部であると感じられるような方法でエンゲージメントを高める」といった記載があり、こうした行動のインセンティブとしてのトークン活用を検討している可能性が高そうです。
上記のインセンティブやゲーム設計を担うポジションとして、Game Economy Designerという職種も募集しています
これまでHPを確認している限りでは、Hangは昨年時点から一貫して「Turn your customers into community」というコンセプトをHPのトップに掲げており、FORUM3よりも前から「コミュニティ」というキーワードを前面に押し出していると思います
顧客
Asics、Cinemark、Budweiser(FORUM3の顧客にも名を連ねるAnheuser-Buschの手掛けるブランド)、Pinkberry(フローズンヨーグルトなどを販売する飲食チェーン)など
投資家
2022年7月にシリーズAで1,600万ドルを調達
シリーズAのリード投資家はParadigmとされ、他にはTIGER Globalやスターバックスの創業者Howard Schultz氏、LVMH帝国を築いたベルナールアルノー氏の息子であるAlexandre Arnault氏、世界で最も稼ぐと言われるYoutuberの一人 MrBeast、人気D2CブランドのWarby ParkerやAllbirdsの創業者などが名を連ねると言われています
おわりに&次回予告
いかがでしたでしょうか。今回取り上げる6社の中で最も資金を集めている2社をご紹介しました。
FORUM3は特定のプロダクトを作っていくというよりは、しばらくはThe Collectiveという名のマーケター向けの学習コミュニティでマーケターのニーズや次なる顧客を探しながら、Starbucksのような戦略から個社カスタマイズでの開発といったスタイルで進めていくのでしょうか。
一方で、Hangは既に汎用的なプロダクトづくりを志向しているように見受けられます。デジタル活用が進んでいる企業は既に一定程度のメンバーシップ、ロイヤリティプログラムが構築されていると思われるので、その中でHangの提供するソリューションをどう導入していくのかは気になるところです。既存のプログラムを更新する形なのか、はたまたStarbucksのOdysseyのように従来のプログラムと切り離してスタートさせられるのか(これはきっとトップダウンでの意思決定が必要)。
HangはSalesforceとの連携も可能と打ち出していますが、そのSalesforce自身が今年の3月に”Salesforce Web3”を発表し、そのパイロットプログラムとして、クラウンロイヤル、マテル、スコッチ&ソーダの3社との取り組み開始もアナウンスしているので、そうした既存のCRMツールの拡張との競争もありそうです。
いずれにせよ、ここから各社がどのような展開を見せるのか、また、具体的なユースケースの一つとして確立されていくのか、引き続き注目していきたいと思います。
次回はConsensysのディレクターが立ち上げた3mintと米国の有力VCの一つであるHigh Alphaのマーケティングディレクターが立ち上げたHOLDERの2社をご紹介します。お楽しみに!