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Laboの男78

 Laboの男78

分厚いメタリックのドアが開き
エレベーターから
態度よりもきゃしゃな女性が登場
出勤そうそう
いつもよりも大きい
玄白の頭に目がいくマコ。

 「おはよっ
  そろそろ散髪にいったほうが?
  あれナニ?その頭?ん?」

玄白に近づいていくと
モソモソと髪が動いてみえる。

 「うわっ、なんなのよ?」

「目立つからねぇ〜
 朝の早くから出勤してきたよ。
 まぁ〜怖がっちゃって
 ボクの頭をわし摑んで
 降りてきてくれないんだ」

小ちゃな木人が肩車でモフモフ頭に隠れて
こっちを観察している。

 「何コレ!ちょっとぉ〜
  超絶カワイイ〜んですけど〜」

「イタイ痛いよ、髪の毛はむしらないでよ
 もぉ〜やめなさいって」

するとプチ木人は聞き分けが良く
モフモフ頭に顔を埋めて静かになった。

首を傾け笑顔で「ハ〜ィ」手を振るマコ

プチ木人は少し頭を引いてしばらくながめると
握りしめた髪をはなして
仕方なしに小さな木の手をふり返してくれた。

 「イヤ〜〜ンなにこれ!カワイイィ〜っ!
  この子しゃべれるの?」

「理解はしてるみたいだけど、まだ話せないんだ
 もっぱら頭の中でのおしゃべりの方が
 得意みたいだね」

 「ええっテレパシー!スゴイじゃん」

「今は日本語を教えようとしてるんだけど
 そうそう、ウッディーに少し教わった
 瞑想の延長線上のやり方だと
 しゃべれるよ」

そんなことはお構いなしに
玄白の頭にむけて両手をさしのべるマコ

 「ほらっおいで
  うん?こわい?大丈〜夫よぉ」

戸惑って小首をかしげていたプチ木人。
ナニを思ったのかモフモフ頭を踏み台にして
マコに飛びこむ。

 ぐりっ 頭をバウンドさせて
「ちょっとぉ〜踏まないでよ」

がっちりキャッチ
せり出した胸のクッションに驚くプチ木人は
手でなんなのかを確かめてる。

 「ナニこの感覚?もう動きからなにから
  可愛くて仕方がないんですけどぉ〜。
  やっぱ、木だから固いんだけどね」


ふとマコの頭の中に蘇る記憶
珍しくネット検索している玄白の姿に声をかけた。
「あれ、ネットで買い物とかするんだ?」

 「ああ、うちにサボテン放し飼いしててね。
  土だとか、たまに買うんだよ」

「今度はナニ見てるの?」

 「うん?ああ、病気の木を再生するのに
  接ぎ木ってのをするのが興味深くてさ
  ちょっと見てるのよ」

「木の移植手術みたいなヤツね」

 「そうそう種からじゃない方法が
  色々とあるんだなぁってさ。
  木の枝にも未分化の細胞があるから
  可能なんだけど
  霞目博士のキマイラ細胞と似てるんだよ。
  挿し木って技法があって
  枝を地面にさして苗を増やす方法なんだけど
  カットした枝からどうして根が出てくるのか?
  何にでも変化可能な
  未分化の細胞があってこそなんだ」

霞目博士の場合
大前提として
未分化の細胞は一旦変化しちゃうと
逆戻りは出来ないはずなんだけど
キマイラ細胞はサラリとやってのける。
可逆的なのに不可逆的な安定感を持ち
未分化でありつつ不安定に舞い戻ることができる。
安定しているのに不安定。
ただ暴走しているから博士の意志から離れて
細胞自体が勝手に動いちゃう。
みんな欲しがる不老不死の
可能性を秘めてる細胞なのよね。
植物の場合
条件が整うとその細胞が活性化し
根として変化する。
条件が整わなくったって
それをいとも簡単にやってのけて
元にも戻っちゃうんだから
キマイラ細胞って。


マコ はっはぁ〜ん、これに違いない。
女のカンは鋭い。

遠まきにヒョコヒョコと動き回っているのがいる。50cmくらいの大きさが歩き回っている。
 ヒョコヒョコ トットットトトトトッ
マコの存在を確認するや否や走って
玄白の足にしがみついた。
ズボンをしっかり握りしめて
足の陰からマコの様子をうかがっている。
「この子は好奇心旺盛でね」そういうと
足元のもう1体のプチ木人を抱きかかえる玄白。

 指をコチョコチョ「ハ〜ィ」笑顔でマコ

マコに抱き抱えられてるもう1体の木人を見て
「おっ」とマコに手をふり返した。

 「かぁ〜っカワイイなぁ〜おい」

抱えたプチ木人をゆすって玄白
「ちゃんとコップで水が飲めるように
 なったんだよね?」

プチ木人たちは強く頷いている。

 「いゃだぁ〜!すごいネェ」

マコの笑顔にうれしくなったのか
胸に顔を押し当てて
ギューッと抱きしめるプチ木人。

「なになに、マコちゃんにすごく懐いてるね」

抱き抱えていない手の方でたたくジェスチャー

 「なに言ってるの!懐いてるって
  はしゃいでる場合じゃないわよ」

 「また上層部から来た子?」

頭を左右にふる玄白。

 「やっぱりだ。やったわね実験!」

 「はっはぁ〜ん、もしかして
  ウッディーが引きちぎってた枝を
  挿し木して育てたの?」

うんうんと頭を縦にふる玄白。

 「でも短期間で
  この成長はおかしくない?
  もしかして
  クリスタルパウダー水に混ぜた?」

頭を縦にふる。

 「あっちゃ〜
  なんで私に相談しないのよ!
  もぉ〜分かってるの玄白?」

「クリスタルマン研究が激しく
 進展するじゃない?」

 「そういう問題じゃないのよ!
  玄白が、認知するの?この子?
  この子たち
  しっかりとした意思がある。
  分かってる?玄白
  実験材料じゃないからね!」

「しゃべる木ぐらいになってくれたらなぁって
 思ってたんだけど」

そしたらある日
家に帰ったら普通に歩き回ってたんだよ。
植木鉢からひとりでにさ。
驚きよりも感動しちゃってね。
今までには味わったことのない感覚さ。
もちろんボクが一緒に暮らすよ。
そしてすでに暮らしてきたからね。
このちっぽけな存在が間違いなく
マコちゃんの研究にも還元される
とてつもなく、かけがえのない存在になるはずさ。

 「これってウッディーの子供になるの?」

「厳密にいうと彼の子供だと
 言えるかどうかは微妙だね〜。
 クローンに近いのかな?」

 「名前は、あるの?」

「ちょっと迷っててね
 桃から生まれたからモモ太郎なんでしょ?
 だから
 樹木から生まれたキィー太郎?ジュ太郎?
 ウッディーから生まれたからウディ太郎?」

 「ダメだ!玄白センスなさ過ぎ〜!
  はははっ、でもちゃんと考えてる所が
  ポイント高いよ玄白ぅ」

「だって、呼ぶときに困るだろ?」

 「そういう事じゃないのよ。
  ちゃんと生命として扱ってるのに
  ちょっとマコ、グッと来たわ!」

 「いいわ、一緒に考えてあげる」

 「いいのがあるわ。アタシねぇ〜
  アメリカのテレビドラマシリーズで
  好きなのがあるのよ」

「なによ?」

 「私の中では伝説の男の名前よ。
   冒険野郎
    マク・ガイバーよ!どうよ?」

「知ってるよ〜、あれでしょ
 いつもピンチになって
 ありモノで脱出したりするヤツでしょ?」

 「そうそう、私、衝撃を受けてね
  ちっちゃい頃見ててビビったわ!
  だってその辺にあったオレンジと銅線で
  爆弾作って脱出しちゃうんだもの!」

 「以後私の人生で
  学者になる方向づけたのは
  マク・ガイバー先生なのよ」

「ボクも好きだったけど
 水を差すようで悪いんだけと
 マクガイバーは、学者じゃないけどね」

  「えええ〜っ!ウソだぁ〜!」

「幅広い科学的知識に長けた人なだけで
 たしか、ナントカ財閥の
 ただのエージェントだよ」

  「動ける学者だと思っていたわ」

「それと、マク・ガイバーじゃなくて
 アンガス・マクガイバーね。
 マック・ガイバーさんだと思ってたでしょ?」

  「ウソだっ、それじゃマックって
   みんな呼んでるのただのニックネーム?」

「そう。話がそれたね。
 マクガイバーでいいんじゃない。
 冒険野郎になるかは分かんないけど
 いいじゃん。宇都宮 マクガイバー
 アレよね、ボクの抱えてる
 好奇心旺盛の方だよね?」

「それじゃ〜マコちゃんの方が
 キィー太郎?ジュ太郎?」

 「木の字からツリーの頭文字とって
  T太郎 ティー太郎」

「ボクとあまり変わらないじゃないか」

 「玄白が木にこだわったから
  私の中ではありえないけど
  寄せてティー太郎よ」

 「大体、木を伸ばして発音するのなんなのよ?
  キィー太郎って
  普通だとキ太郎にならない?」

「それだっ!キタロウがいいな」

 「でも、やっぱりマクガイバーに合わせない?
  宇都宮 アンガス と マクガイバーにさ?」

「それかウッディーに名付けてもらうかい?」

 「ああ、それもそうか!
  でもアンガスandマクガイバーブラザーズ
  が、スーパーな感じで推したいわぁ。
  でも、マックandガイバーの
  スーパーアンガスブラザーズでもいいなぁ」

「それじゃ〜宇都宮が飛んじゃってるじゃん?
 それほどの冒険野郎推しだとは
 知らなかったね、ボクはどっちも好きだよ」

プチ木人を2人であやす光景は
このLaboには似つかわしくない
あたたかな木漏れ日を感じるアットホームさ。
異様なシーンとさえ見えてしまう。
いつものように日課の日光浴を終え
首なしイワノフと一緒に
ふらりともどったオリジナル木人 ウッディー。
目の前に広がる場違いの光景に
いつも冷静なウッディーが取り乱してるのが
皆に手取るように伝わる。
大きな木の手をオデコに当てて

「ほ……ほほほぉっ
 なっなんでこんなに小ちゃな
 ツリーマンがふっ2人もいるんダスかぁ〜!」

遠まきにからでも小きざみにウッディーが
振動しているのが見てとれる。
本来なら水分が流れ出ないウロから
木くぼみの奥にある瞳から涙を流している。

「生まれて初めてダスよぉ!
 ボク以外のツリーマンに出会ったのはデス!」

「ウチから溢れ出すうれしいって気持ちは
 こんなにもあたたたたかぁ〜いんダスなぁ!」

「イッタイゼンタイどこのどこドコで
 見つけてきたんだよぉほっほほほぉ〜ダス」

プチ木人を抱き抱えたまま玄白
 「ちがうよ、育てたんだよ僕がね」

「どどどっドういうこと何ダスかぁ〜!?」

 「ウッディーは接ぎ木って知ってるかい?
  別の枝を木に移植して
  健康を促進したりするの」
おぅ〜それはダスな!そうなのよ!伺うでしょう?普通!あ〜でもないこ〜でもないどうだこうだ
ワイワイがやがや

しれ〜っと出勤する万次郎
明智以外、全員集合
しかもあまりにも団らんな雰囲気。
その光景を目の当たりにした万次郎
なにも発せずに硬直している

「なんなんだコレ?ん?
 おいおい増えてんじゃんか!
 ナニがあった?」

もう、ちょっとやそっとで驚きはしないだろうと
たかを括っていたがいやはや……
明智Laboは計り知れない!
玄白に聞こうと思っていた、次元や宇宙な質問
その考えていた全てが
ぶっ飛んじまった万次郎なのだった。

 グイーーーン ガッション

巨大エレベーターが地下8階に到着
重厚な扉が開くとくわえタバコの黒髪の女
ゆっくりと煙を吸い込み
不機嫌な唇からゆっくりと煙を吐きだす。

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