Laboの男70
Labの男70
紫がかった空と特大の火柱
SOMAビルは燃えている。
夕暮れ、薄暗くなった紫の空は
メラメラと燃え盛る炎を美しく浮き立たせる。
踊る炎からハラハラと舞い散るガラス片は
光を乱反射し、こぼれ落ちた夢の欠片たちが
小さな流星群となって燃え落ちてゆく。
ダブル腕組み明智and走馬
走馬はジェイソン楠木の影響でビルが燃えていると
言うが、そのわりには彼を恨んでいない。
なんだったらスッキリしたと言っている。
ダイハードな男と呼ばれるだけある惨状。
尾ひれ背びれがついた話じゃなく
紛れもなく本物であった
ジェイソン楠木の片鱗に触れた気がする明智。
どうも楠木さんが直接手を下しては
なさそうだが
確かにレジェンド級エージェントの名に
ふさわしい出来事が勝手に
もうすでに2回も大爆発している。
どうなってるんだという気持ちも吹っ飛んでゆく
見惚れてしまうせつない光景。
大きな火柱を焚き火を眺める眼差しで
軽く眉間に皺を寄せる表情の2人。
優しい瞳で状況を受け入れるしかない
明智には思い入れはないにもかかわらず
立ち尽くすしかないあっけないラスト。
走馬 灯次郎という生き様を語り終えてもまだ
2人は無言のまま5分
フェスティバルの終わりを告げる生け贄
燃え盛るガラスの城を眺めている。
ふと明智は
肩にかけたままの未使用ガスマスクに手をやり
「何かに巻き込まれてなきゃ〜いいんだけどな」
立ち尽くす2人をよそに
ジェイソン楠木は歩みを止めない。
アスファルトをリズムよく
右、左と踏みしめる足元は
スーツにスニーカーのフットワークの軽さ
ニューヨークstyleの万次郎。
ただ革靴を持ってないだけのstyleとも言う。
しっかりとした足取りとは反対に
ナゾは深まるばかりだ。
【何故にこうもハプニングするんだ。
彼の尾行自体はとてもイージーなはずなのに
外野が騒がしくなり過ぎじゃないか?】
楠木自身を見失うことはまずなさそうだが
走馬灯次郎に尾行がバレた事実をふまえ
慎重に距離をとる万次郎。
楠木はのんきに鼻歌まじり
小腹が減ったのかコンビニへ入ってく。
後を追う万次郎。
陳列棚のスキマを縫ってジェイソン楠木が
通り過ぎた後に
女学生が2人商品棚を物色している。
2人は顔を見合わせ商品をふところにスルリ。
制服の下に商品を隠して
何食わぬ顔で出て行こうとする。
すると去りぎわに
寸足らず気味のセーラー服の懐からポロリ
商品が転がり落ちた。
店員は紛れもない犯行を確信。
事実は目の前に転がっているモバイルバッテリー。
もう一方のセーラー服が手を引いて
逃げることを促したが
すでに店員は女学生2人の手を捕まえていた。
目を奪われるシーンに釘づけの万次郎をよそに
ジェイソンはケ・セラ・セラ、一生懸命に
陳列棚を右から左へと眺めて
どのパンを食べようかと腕を組んで悩んでる。
同時展開する様子を眺める万次郎
「どうなってるんだジェイソンは!
意も介せずパンに夢中
万引き犯は2人とも捕まってるし
彼はこの事件簿に興味がないのかね?」
なんだったら今、万引き犯に忙しい店員に
パンを持ってレジを催促しているジェイソン。
他の店員に当たってくれと言われている。
「やっぱりあのひと、おかしいよ」
別の店員にレジを済ませてもらって
店を出ていくジェイソンそれを追いかける
万次郎は女学生のゆく末が気になって仕方がない。
後ろ髪を引かれる想いってこんな感じなのかと
ジェイソンの尾行を続行。
カレーパンを頬張り可愛らしく
トボトボと歩く様からはクレイジーさの欠片も
感じないが、マイペースが過ぎる行動に
万次郎は引っかかりまくりだ。
「頭のネジがブッ飛んでるのか?」
まだ共感指数は高いものの
種類は違えど万次郎は万次郎で
頭のネジが2、3飛んでるのは分かっていない。
ガスマスクを肩に引っかけてウロウロしている
のを含めて自身の違和感には無頓着だ。
商店街とまではいかないが段々とひらけた道へ
人通りは、まばらに増えてきている。
何か引っかかった感覚、
不意に後ろを振り返った万次郎。
自転車が2人乗りで勢いよく
通り抜けようとしている。
その前を婦人が歩いている。
自転車の後ろに座る男の手つきは
ご婦人のカバンをかっさらおうとしている。
「う〜ん、なんで見つけちゃうんだろ?
やっかいだなぁ」
あまり関わりたくないが仕方がない。
ちょうど横にきたタイミングで自転車を蹴り倒す。
ガッシャーン ドサドサッ
婦人は振り返るって
大丈夫ですかと助けにくる。
万次郎「う〜ん、ひったくり犯なんだけどね。
来なくていいのに」
「何するんだよ!」吠えるひったくり未遂犯
腹いせに殴りかかってくる2人
頭を傾け軽くあしらう万次郎 ワン ツー
1人目
迫り来る右拳をなんなく交わし
カウンター気味に右ストレートを決めて
2人目
右ストレートの勢いを借り身体を回転
遅れて出て来たかかとがハネ上がり
待ってましたとばかりの相手の頭に合わせた
後ろ回しハイキック
左脚切先は弧を描き男の死角へ
殴りかかってくる男の左後頭部へと捻りこむ。
【来栖さんのねりに練られた体術と比べれば
あくびが出るね】
ぶっ飛ばした2人をそのままに振り返る万次郎。
駆け寄って来た婦人は状況もわかるはずもなく
とんでもない顔で睨むが
万次郎は人差し指をたて
「ご婦人っ 2人ひったくり犯だから
親切にしない方がいいっスよ」
指を左右にノンノンノン
ヒラリと立ち去りジェイソンを追跡。
どう考えても状況を飲み込めてるのは
万次郎ひとり。
果たして分かってもらえただろうか?
は、さておき
のんきなジェイソン楠木はゴーイングマイウェイ
カレーパンを美味しそうに
ほおばり残念そうに最後の一口を終えて歩く。
ふと路地に入ったジェイソン
追うように万次郎
するとなんでそんな路地を行くんだと
思わざるを得ない、
絵に描いたように胸ぐらを掴まれたやさ男に
強面の男達が何やら揉めている最中。
ひょいひょいと集団を交わし通ってくジェイソン。
【もぉ〜っそんな所を通るんじゃないよ!
面倒だスルーだ、万次郎っ!スルー】
と言い聞かせてハトの顔で通り過ぎようとする。
背後に掴もうとする手の気配、追跡速度を上げる。
「おぉいっ!」スルーだ万次郎
ジェイソンが曲がり角を曲がった。
「構ってる暇はないのよ」スグに追いかける。
本宮町を抜け隣町に。
ジェイソン楠木は歩みを止めない。
テッペンが尖った形状のガラス部分は
とろけてしまいSOMAビルの面影はもうない。
煙の量が増えて何度かの爆発と共にビルの高さは
もう1/4ほどとなって今もなお火柱を上げている。
明智は肘を曲げて腰に手を当て
「走馬さん、被害総額がとんでもない事に
なりそうですね。どうするつもりですか?」
オールバックを撫でて走馬
「ああ、そんなに大したことないよ。
なんとかなるよ」
「どこがですか?SOMAビルという
シンボルがなくなったんですよ」
「お金のことかい?ははははっ
大丈〜夫よ、保険かけてるからね」
「でも、それって
「おそらくは保険でビル以上の価値の金額が
おりてくるからさ、なんだったら
儲かってるくらいじゃないかね」
「それはそれは、、用意周到ですね」
「でもクローンって短命らしいからさ
もう一花くらい咲かせれるかね?」
これまた屈託のないシワクチャになった
温かい微笑みをする走馬
ポケットに手を突っ込み
しわくちゃになった名刺を明智に渡す。
「ごめんね、もうこの一枚しかないな。
何かあったらここに連絡してきなさい。
なんとかしてやるから」
なんの飾りもない白い名刺にはシンプル印刷
SOMAコンツェルンCEO
走馬 灯次郎
oxo-xoxo-xoxo
「また
こんなタイミングになに言ってるんですか?
何かあってるのは走馬さんの方ですよ!
大惨事ですからね!
それに灯次郎さんが現CEOなんですね」
「兄さんは、先月リタイアして
今はどこかで現役引退したウマを
可愛がってるらしいですよ。
自然の中で何かしたいって言ってたけど」
走馬の器のデカさ機転の切り替えの早さには
目を見張るものがあるなと明智は驚きつつも
言っていることの重さと執着のなさは
見習わなければと感心する。
思い出したようにスマート手錠の画面に触れ
万次郎の位置を確認する明智
「そろそろ相方と合流しますね。
また、何かハプニングするんでしょ?
走馬さん?」
「そうだろうね、もう万次郎くんが
対応してるかもしれんな」
「能力者であり能力者でない。
楠木さんのことちょっと分かってきたかも
しれません。それじゃ、またっ!」
軽く走馬と握手を交わし
足早に去っていく明智であった。
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