救急車の有料化について私見
今回は最近度々話題に上がる救急車の有料化について。
救急車の不適切利用は昔から指摘があり、私が医師になったころには世間で議論されておりました。
また、コロナ禍において軽症者の利用により緊急性の必要な方が利用できないなどで、再度注目されている話題です。
今回三重県松阪市で実施されている救急車一部有料化の記事があったので取り上げたいと思います。
救急車の有料化を実践している地域(三重県松阪市)
下の記事は、救急車の一部有料化をおこなっている三重県松阪地区の記事です。
記事によると松阪地区では2024年6月から救急車の一部有料化を開始。
一部有料化の仕組みは、救急車を呼んで入院しなかった場合、軽症と判断され利用料7,700円を請求されるというものです。
基準が明確でわかりやすく良いと思いました。ただ、この仕組みには注釈があり、入院をしなかった場合でも医師が救急要請が必要だったと判断すれば、支払いを免れることができるようになっております。
色々考慮した結果だとは思いますが、支払いを免れる抜け道がありました。
嫌な予感はします。
では、有料化を実施した結果を見てみましょう。
最初の集計結果が発表
今回は同地区で一部有料化が本年6月から開始され、6〜8月の最初の集計結果が記事になっていました。
結果としては利用者のうち、54.8%が軽症で入院しなかったようです。抜け道が無ければこの54.8%の患者さんは軽症と判断され7,700円の請求が来るはずでした。
しかし、タイトルにあるように「救急車一部有料化、非入院患者の13.5%から徴収」となっております。
本来非入院患者は100%徴収できるはずが、13.5%にとどまるということです。
13.5%・・・
信じられないくらい低いです。
徴収できない事情とは??
記事には徴収しなかった内訳もあります。
医師の判断(57.0%)、再診(22.9%)、交通事故など(10.0%)とあります。
この中で、交通事故はわかります。
交通事故にあって歩いて行くことの方が珍しいと思います。交通事故のレベルにもよりますが、思わぬ怪我をしていたり精神的に動揺していて受診が難しい可能性も考慮されます。
再診、、、これはよく分かりません。紹介状なしの初診には選定療養費を徴収しているので、元々かかっている再診は救急車でも仕方ないということでしょうか?それでも、救急車を呼んだ場合は別物として良い気もしますが、、、
「医師の判断」
そして、徴収をしなかった最多の理由が「医師の判断」です。
私も医師なので、こうなることは何となく予見できました。
同業者なので状況と事情もわかります。
徴収するに当たって医師が直接伝えるか、事務が伝えるのか?その辺りの徴収システムの細かい部分が不明なのでなんとも言えないのですが・・・
いずれにしても、現場の医師がその場で決めて、その場で徴収というのはやはり難しいと思います。
医師は本来お金と離れた部分で医療をおこなっております。特にこういった救急の場面の医師は特にそうです。
もちろん、最近のドクターは医療経済のことを考えながら医療は行なっておりますが、救急の場面や病院ではそうも言ってられない状況もあります。
あと、現場の医師は医療の金銭的な細かい部分は正直よく分からないというのもあります。
そういう意味で、診療を行う医師が金額の部分にタッチするのはなかなか難しいのです。
しかも、それが医師の判断で無料にできるというのを患者さんが知っていれば、やりづらいのは自明だと思います。
そのため、私は以下のように提案します。
提案:全例徴収し医師の判断や交通事故の場合は後日返還
これがベストだと思います。
なぜかと言うとその場で医師が判断を告げなくて良いからです。患者さんはルールで決まっていればひとまず払うしかありません。
ルール通りひとまず全例徴収して、医師の判断や事故の影響で救急要請が必要だったと、本当に判断した場合には後日返還する旨のハガキか何かを送れば良いと思います。
事務的な人件費や手数料はかかりますが、確実に徴収できる件数が増えそれを補填できると思います。
また、救急車の不適切利用も更に減ると思います。
救急車一部有料化の良い面
一方で一部有料化の良い面ももちろんありました。記事に以下のように記載があります。
「一方で、松阪地区広域消防組合の救急出動件数は、6月からの3カ月間で前年同期比21・9%減の3604件。1日に50件以上出動があった日は78・7%減の10日だった。救急相談ダイヤルなどの利用は大幅に増えていて、市は「徴収は、持続可能な救急医療体制に一定の効果があった」と評価している。
とのことです。救急車の出動が21.9%減っているのはとても良い効果だと思います。やはり、この松阪市の例のように一部有料化するのは救急車不適切利用の抑制に一定の効果があると言えます。
他にも茨城県でも本年12月から救急車有料化を開始予定とのことです。
こちらも集計の結果が公表されれば、こちらでも取り上げたいと思います。
諸問題はあるにしてもこの松阪市の取り組みはもっと評価され、メディアなど広く伝えてほしいと感じます。
今もERや夜間診療の現場に出ているものとして、この取り組みがもっと全国的に広がれば、と願うばかりです。
今回は以上になります。