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言語化力を奪う"クリシェ"にご注意

小中学生で書いていた日記のNGワード

小中学生の頃、宿題で書いていた日記で使ってはいけないNGワードがありました。それは「すごかった」です。「すごかった」を書きそうになったら一旦手を止めて、何がどのように"すごかった"のかを考え、別の言葉で表現するようにしていました。

なぜか?「すごかった」は何の情報も入っていないスカスカ言葉だからです。「すごく」は「すごく楽しかった」「すごく悲しかった」のように、形容詞を強調するのが本来の使われ方です。しかし、単に「すごかった」では、どのような感情だったのかが分かりません。

こういったスカスカ言葉を多用すると、言語化力が貧相になります。そうすると、伝えたいことが伝わらない、そして知覚する世界や自己認識も乏しくつまらないものになっていきます。今回はそういったスカスカ言葉を乱用する危険性と、言葉を豊かにしていくヒントを書いていきます。

クリシェとは何か?

クリシェとは「乱用の結果、意図された力、目新しさが失われた語句、表現」を指すフランス語です。日本語だと"常套句"、"ありきたりな言葉"が相当すると思います。万能な言葉として使われすぎてしまったために、意味が限りなく薄くなってしまった言葉、と解釈しています。

やばい すごい エモい 草 神 …

このような言葉ばかりで会話を完結させていないでしょうか?例えば「やばい」は元々「身に危険が迫る」という意味で使われていたそうですが、ポジティブな意味でも使われるようになり、今ではこの世に存在するすべての形容詞を「やばい」で代替できてしまいます。また、「エモい」は「心が揺さぶられて、何とも言えない気持ちになること」という一応の意味があるそうですが、無数にある感情を表す言葉がすべて「エモい」で片付けられてしまいます。


クリシェを乱用すると、次のような弊害があると考えます。

クリシェの弊害①:伝えたいことが伝わらない

「ライブ行ってきた。マジでやばい。神」

SNSを開けば、今や"神"は八百万(やおよろず)以上に量産されています。感情の昂りを表す言葉をこのような擦られまくった表現に頼っていると、その言葉が陳腐化し、言葉が持つ本来のパワーがどんどん失われていきます。せっかく感動したことを共有したくても、言葉のレパートリーを持っておらず、またうまく言葉を使いこなすことができなければ話が広がらず、深まらず、ただありきたりなことしか言えなくてもどかしくなるばかりです。

僕自身も、心が揺さぶられた体験をSNSに投稿しようとしても「感動した」しか言葉が出てこなくて、「こんな単純な言葉では言い表せないほど心が動いているのに、それを形容する言葉が出てこない…」と嘆くことがよくあります。結果、絵文字に感情表現を託すこともしばしば😢

クリシェの弊害②:知覚する世界がつまらなくなる

子どもの頃、計り知れないほどの想像力で世界がキラキラと、時にはファンタジーに見えていたと思います。しかし悲しいことに、想像力は大人になって現実を知るたびに薄れてしまいます。

そんな大人でも、自己認識や知覚する世界を解像度高くキラキラとさせるには、豊かな語彙力(知識)を持つことが重要だと思います。例えば雲の名前を知らなければ、空に浮かぶ白いものを「雲」としか捉えることができないですが、「鱗雲」「しらす雲」「うね雲」の言葉(知識)を知っていれば、空を見上げて季節の移り変わりを感じたり、雲の美しさに想いを馳せることができます。

感情表現の語彙力でも同じことが言えます。「怒り」を表す言葉として「ブチギレる」しか使っていなかったら、怒りのバロメータが高くても低くても「ブチギレた」としか知覚できません。「違和感がある」「疑問を抱く」「胸がザワザワする」「イライラする」「腹がたつ」「ブチギレる」等のレパートリーを持っていれば、怒りがどの程度なのかを自己認識することができます。

便利で万能な言葉を使いすぎると、世界がありきたりなものに見えてしまい、自分の感情も薄っぺらく、面白みのないものになってしまいます。

豊かな言葉を使えるようになるヒント

豊かな言葉を使えるようにするために僕が心がけていることをまとめました。

①知っている語彙を増やす
日常生活でわからない言葉に出会ったら調べる。読書をする
②使える語彙を増やす
知っている語彙=使える語彙ではない。会話や日記などでアウトプットすることで、知っているだけの語彙が使える語彙になる。「やばい」「エモい」を使いたくなったら一旦踏みとどまって、より深層にある感情を観察して言葉にしてみる
③具体化力を磨く
例えば楽しいという感情に対し「なぜ楽しかった?」「特にどんなところが楽しかった?」と深掘りすることで、「楽しい」の解像度を上げることができる
④伝え方を工夫する
文章の読み手、会話の聞き手が引き込まれるような工夫の仕方をする。例えば「まるで〜のようだった」という比喩を使えば、より臨場感のある感情を人に伝えることができる

言語化能力を磨いて、世界をより鮮やかに

クリシェはインスタント食品のようなものだと思います。すぐに使えて、それっぽく感情を表せて便利。ただ万能であるが故に伝えたいニュアンスが繊細に伝わらないという危うさも持ち合わせています。

言語化能力が上がれば、感じられる世界がより繊細に、美しくなっていきます。そしてそれを言葉によって大切な人と分かち合えます。言葉の絵の具を増やし、より色彩あふれる世界を描いて、人と共有する楽しさを味わっていきましょう。

参考:「うまく言葉にできない」がなくなる言語化大全(ダイヤモンド社)


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