北新地のはなし①
打ち水をしたあとの細い石畳みの道。11センチのヒールで足早に駆け抜けると古いビルが立ち並ぶ本通りにでる。顔色一つ変えない絶世の美女と、ほろ酔いでご機嫌な中年男性が次々行き交い忽ち古いビルの中に消えていく。
ある人にとってはステータスを誇る場所であり天国、またある人にとっては地獄でもある場所。
西日本一の歓楽街『北新地』
ほんの数年間、紫はこの特殊な場所でホステスとして働いていた。きっかけは親友の結婚式に出席するためのご祝儀3万円を稼ぐためだった。もう20年近く昔の話である。
百貨店の仕事を辞めてから野良猫のようにフワフワ彷徨っていた紫に最初に声をかけてきたのは東梅田の老舗レストランバーのマスターとママだった。水商売なんてやったことない芋娘だった紫が、熱心なマスターとママに絆されお店を手伝うようになった。自分でも不思議なぐらいあっという間に馴染んでお店の人気者になった。
『この世界で働くために生まれてきたような人ですね』
いつものように明るく接客する紫にとある顧客様がぽつりと呟いた。この一言で紫のやる気に一気に火がついた(当時のワイちょろ過ぎる…)
試してみようかな…でも私で通用するんかな?
沸々とこんなことをぐるぐる考えるようになった矢先、紫より少し早いタイミングで北新地ホステスを始めた友人から連絡が入った。
『女の子が足りなくてママが困ってるねん!紫ちゃん暇やったら手伝ってほしい!お願い!!』
余程困っている様子で当時ニートでおそらく日本一暇だった紫に白羽の矢がたったのだ。しかしレストランバーとは環境も全然違うであろう北新地。けっこう悩んだ。どんだけ悩んでも答えなんてないし、やってみなきゃわからない。
『せや!こうなったらヤケクソや!いっぺん面接ウケたろ♪』
完全なんj民的なノリで紫は面接へと赴いた。
つづく!!!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?