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北新地のはなし 終

お金持ちのオジサンたちに営業メールをコツコツ送り、同伴の約束をせっせと取り、髪を綺麗にセットしてお店に向かう。すっかり紫のルーティンになった。

はじめのうちは物珍しさや、常連さんの誼で同伴も相当な数をこなし、あれよあれよと人気ナンバーワンになれた。すぐに元々ナンバーワンだった先輩に抜かされたけど、一瞬でも栄華を味わえたのはいい思い出だ。

月曜から金曜までは北新地のホステスとして働き、日曜は地元のバーでホールスタッフとして働いた。
ちょっとでも金銭感覚がバグるのを防ぐためだった。

高額なシャンパンやウイスキーのボトルが次々と空き、お金持ちのオジサンたちの宴に華を添える。酔って帰った翌日、かばんやポケットの中から大量のチップ(諭吉)が出てきてどん引いたこともあった。
金銭感覚なんて一瞬でバグった。

何年か働いたあと、北新地と地元のバーを両方とも辞めて紳士服の販売員としてまた老舗百貨店で勤めた。 
しかしー

全くもって毎日がつまらなかった…

ボロボロの従業員通用口を抜けて暗いバックヤードをぽつぽつ歩く。ネズミでも歩くのを嫌がりそうな古い施設だ。そんな場所での1日が楽しいはずがない。北新地だと1時間ちょっとで稼げた1万円が9時間も拘束されなきゃ貰えない。陰険な百貨店のオバサン社員にネチネチ嫌味を言われまくる日々が続いた。お金持ちのオジサンたちが夜な夜な繰り広げる使い古された下ネタよりよっぽどこっちのほうがメンタルを抉られた。

だめだ、このままだと心が死ぬ

ある日全てが嫌になって泣きながらチーママにメールを送った。もしかしたらお店に戻れるかもしれないと淡い期待を込めて。チーママはけっこうすぐに返信をくれたけど意外な言葉が綴られていた。

『紫ちゃん、お金の稼ぎ方はそれが普通なんよ。こっちの世界がおかしいんよ。私たちの感覚がおかしいの。がんばりなさい。きっといいことあるから』

少しがっかりはしたけどこのメールを読んだとき、直感的にチーママはすごくいい人だと思った。紫に才覚がなかっただけかもしれないし、単純に使えないと思われたのかもしれないけど、当時の紫はこの言葉のおかげで水商売への未練を断ち切り、なんとか前を向くことができた。そして紆余曲折、雨あられな日々を経て先輩(夫)と出会い、結婚した。

本当にがんばってたらいいことがあった。
数年がかりで憧れのチーママを嘘つきにしないことに成功した!

綺麗なドレスを纏った華やかなホステスさんって女性なら一度は憧れたことがあるんじゃないかな。水商売の経験は一長一短で楽しいこともあれば、とんでもなく最悪で人によっては一生のトラウマを抱えることもある。まさに百鬼夜行。心のコントロールがよほど上手い人にしか向かないんじゃないかなと紫的には思ってる。思い出すのもきつい出来事も正直たくさんあった。本当に異質で月並みながら貴重な体験をした時間だった。 けどー

もしも紫に娘ができたら絶対にさせたくはない!!!

だいぶ綺麗な部分しか書かなかったけど…北新地のおはなしはこのへんで一旦お仕舞いにします。

ここまで紫のむかし話に付き合ってくださってありがとうございました✩.*˚



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