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デザイナー・森田恭通は、なぜ 大きなチャンスを次々と手にできるのか?(前編)

アフターコロナ時代のあり方とは

 コロナがやってきた今、求められているのは、大きなパラダイムシフトだと思っています。ビジネスも、経営も、組織運営も、働き方も、ライフスタイルも、大きく変えなければならなくなっている。もう、かつてのやり方ではうまくいかなくなってきているのです。

 では、アフターコロナ時代のあり方とは、どのようなものなのか。それをみんなでシェアしたくて、オンラインサロン「Honda.Lab.」では、さまざまなゲストを招いてディスカッションをさせてもらっています。

 その中から、とっておきのエッセンスを記事化してnoteで紹介することを考えたのが、この企画。後にマガジン化する予定の「アフターコロナをどう生き抜くか」です。

 今回は、世界的なデザイナー、森田恭通さんです。僕は個人的によく食事に行ったり、サウナに行ったり、旅も一緒に行かせてもらいながら、いろんな話を聞いたりしていますが、あまりにその話が面白いので、Honda.Lab.のメンバーにシェアしたいとずっと思っていました。

 ちょうど森田さんは著書『未来を予知する妄想の力』を11月19日に出版されることになっていて、その前に話を聞いて、それから本を読んだら、より深く森田さんを理解できるのではないか、と思ってサロンにお招きしたのでした。

そして12月1日からはSNSも殆どやらなかった、森田さんがオンラインサロン「森田商考会議所」もはじめます!!絶賛募集中!これは参加しなければ!!


空間の難点を逆手に取ってしまう

 森田さんがインテリアデザインを手がけた商業施設やお店は本当にたくさんありますが、最近の作品を少し紹介しておこうと思います。

 まずは、渋谷のフクラス内にある「東急プラザ渋谷」の再開発。これは以前からある、東急プラザという商業施設の再開発プロジェクトでした。渋谷といっても東急プラザには、若者だけではなく、老若男女が集まる場所ということで、エスカレーターが木に包まれていたりと、自然素材がたくさん使われています。

東急プラザ渋谷2Fエントランス 

©Nacasa&Partners inc

 インターネット企業のGMOが入るオフィススペースも手がけていて、1フロア500坪なのですが、柱がどこにあるのか、わからないような作りになっています。実はこの本棚の中に大きな柱があるのだそうです。森田さんはこう言います。

「デザインというのは面白くて、空間にはそれぞれ必ず難点があるんですね。柱が大きかったり、天井が低かったり。デザインするには難しい条件になるわけですが、そこを逆手に取ってしまう、というのも僕らのデザインのスタイルなんです」

 続いて、六本木の三井ガーデンプレミアの最上階にあるレストラン、ゼットンが手がけている「BALCON TOKYO」。東京タワーが美しく見えるお店ですが、注目はテラス。10数メートルの空間を切り取って、日本画のアーティストに絵を描いてもらっているのです。

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©DAISUKE SHIMA

 白い壁で天井がありませんから、汚れるのは必須。そこで、こういう絵を描いてもらって目立たないようにしたのだそうです。時間経過も一つのデザインに取り込んだプロジェクトです。

 さらに、台湾の「THE UKAI TAIPEI(うかい亭)」。台湾のオーナーがフランチャイズで日本の鉄板焼き「うかい亭」を始めたのですが、夜景がとても美しく見える場所にあります。ところが、きれいな照明にしても、すべて窓に映り込んでしまって、夜景が見えなくなる。そこで、窓と窓の間に映り込まないような照明の計画をしたのだそうです。外の景色がまるで切り取られたようなデザインです。

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©SHIMA DAISUKE

伊勢丹新宿本店 本館のほぼ一棟まるごとデザイン

 フランフランの広島パルコ店。どうすれば、お客さんが買いやすくなるか、ということで、ショップインショップのような、一つの空間の中にもう一つの空間を造ったり、アートを斜めの壁に並べて、歩いていけばいくほどアートがどんどん迫ってくる、という設計になっています。

 意外に思われる方もいるかもしれませんが、森田さんは和の空間も手がけています。旅館を改装したオーベルジュもそのひとつ。レストランが造るオーベルジュですから、食べることも重要ですが、お風呂に入りながら海が見えるところにこだわったのだとか。実はここは昔の昭和の。森田さんの手でこんなふうに変わったのです。

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©SHIMA DAISUKE

 伊勢丹新宿店は地下2階の基礎化粧品やオーガニックのフロアから、B1階から6階までほぼ一棟まるごと、森田さんのデザインです。

「面白いエピソードがあって、子ども服のフロアって、子どもがお金を握りしめて買いに行くわけではないですよね。だから、大人が買いに行きたくなるような子ども服の売り場を作ろうと考えたんです。そうしたら、やっぱり売れました」

 伊勢丹新宿本館 本店の坪効率の売り上げは、世界1位なのだそうです。

「僕らの子どもの時代は、デパートはワンダーランドだったんです。それをもう一度、復活させようと僕は強く思って、提案しながら作っていったんです」

 最後に紹介するのは、宮下パークのベトナム料理「DADAI THAI VETNAMESE DIMSUM」。「カフェリゴレット」や「レストラン ダズル」を展開するHUGEが手がけているのですが、実は社長の新川義弘さんと森田さんを会わせたくて、僕が食事の場をセッティングしたら、なんとその場でこの話がまとまってしまったのでした。

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©Nacasa&Partners inc

「ナオ(僕のことです)がいなかったら、これは実現できていないプロジェクト。こういう仕事の決まり方って、本当に素晴らしい(笑)。一部、エスカレーターの下で天井が斜めになっている場所があって、本来は良くない条件なんだけど、逆にこれを使ったら面白いことになるんじゃないかと思いました。大きなアートを使って、とても面白い空間を作ることができました。他にもいろんな空間ができていて、メニューもリーズナブルですし、とてもお勧めな店ですよ」

これだけの大御所が、実は自ら営業していた

 森田さんといえば、ロブションやバカラ、オーデマ ピケなど、世界を相手にビッグプロジェクトを手がけてきたイメージを持つ人も多いと思います。これだけの有名なデザイナーとなれば、クライアントの側から仕事が続々と来ているだろう、とも思うでしょう。

 しかし、それは違います。実は森田さんは、自ら営業をかけているのです。

「そうですね。ピンポン営業ですね(笑)。ああいう会社と一緒に仕事をやりたいな、と思うじゃないですか、みなさん。僕も思うんですけど、知り合いがいなかったり、接点があまりないと、みんな諦めちゃう。でも、僕はそこを諦めないんです

 日本のロブション氏のメインとなる仕事を手がけていたと言っても過言ではなかったのが森田さんでしたが、ロブション氏との出会いの話は衝撃でした。わずかなツテで香港で時間をもらえることになったそうですが、それまでもいろんなプレゼンをロブション氏は受けていて、2分で退席してしまうこともあるがいいか、と問われたのです。

 それでも乗り込んだ森田さんは、30分間、デザインの話をまったくしませんでした。ロブション氏がどういうものか、という自分の見解を語った。そして、ようやくデザインの話をすると、彼から「明日、1時間作るから、プレゼンしてもらえる?」と声をかけられるのです。森田さんのデザインは、レストランの導線を変えないといけないほどのものだったから。そんなデザインをロブション氏にぶつけたのです。

その他では森田さんは、「例えば、海外の有名な展示会とかに行って、仕事をしてみたかったあの会社の社長じゃないか、ということがわかると、飛び込みで声をかけてしまいますね。すいません、って(笑)」

 なんだ君たちは、アジア人が何の用か、ということに多くの場合ではなるそうです。そこで、いやあなたの会社の商品が素晴らしくて、なんて話をしても、話は終わってしまいます。

「その場で自分のプロフィールを見てもらうんです。フランスの陶器メーカー、ベルナルドと仕事をするときがまさにこのパターンでした。唯一、事前に知っていたのは社長がジョエル・ロブションと仲がいい、という噂だけ。それでロブションさんの名前を出して、細い線ができたんですね。じゃあ、今度工場でも遊びに来なよ、と軽く言われたので、3週間後にすごいプレゼンの資料を持っていきました。頼まれてもいないのに(笑)

 本当に来たのか、と言われて、プレゼンしに来た、と言うと、「面白いじゃないか、見てみよう」という話になったのだそうです。ここから、正式にコラボレーションが始まってしまったのです。

 森田さんはベルナルドからお皿を出したりしましたが、これは、展示会場での飛び込み営業から始まっていたのです。

バカラの約9メートルのシャンデリアを実現させた

 ただ、やみくもに飛び込み営業をしているわけではありません。真似をして突撃をしても、迷惑なだけ。森田さんは、とことんまで相手を知ろうとし、万全な準備をしていて、わかった上で突撃するのです。そして、型破りのアイデアを出す。みんなと同じ常識通りの提案をしても、なんの価値もありません。

 恵比寿ガーデンプレイスにクリスマスのときに飾られる、高さ約9メートルのバカラ史上世界最大級のバカラのシャンデリアがありましたが、これをバカラに提案し、設計を手がけたのは、森田さんでした。

「その前から5メートルくらいで半分くらいの大きさのシャンデリアが飾られていて、好きで毎年、見に行っていたんです。でも、シャンデリアをバックに写真を撮ろうとすると、うまく撮れなかったんですね。みんな困ってた(笑)。それで、これをもっと大きくし下まで降ろしたら、写真もうまく撮れるんじゃないかと思ったんです」

 シンプルなアイデアだったと森田さんは言いますが、これを作ろうと思ったら当然、大変なコストと製作期間、職人の手間もかかります。

「本当に作れるだろうかと思ったんですが、まずは提案をしてみようと思ったわけです」

 もちろん簡単にOKがもらえるはずがない。そこで森田さんが考えたのが、とんでもないプレゼンでした。

「原寸9メートルのシャンデリアって、みんなたぶん想像がつかないと思ったんです。それで、そのときのミーティングは4人が参加することになっていたんですが、一番大きな会議室を借りてください、と言いました。4人なのになぜ、と言われたんですが、お願いですから、そうしてほしい、と」

 森田さんが作っていたのが、9メートル近い原寸の図面。これをグルグル巻きにして持っていき、大きな会議室の中でクルクルと開いていったのです。

「みなさんにはイスの上に乗ってもらって、イスの上から見てもらったんです。これができたらすごいと思いませんか、と。みんな驚かれて、とても気に入ってもらって、ぜひやってみましょう、ということになって、チャレンジがスタートしたんです」

 こうした話も新刊『未来を予知する妄想の力』に書かれていますが、森田さんのような大御所がここまでやっているのです。

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©Nacasa&Partners inc

断られることを恐れてはいけない

 そして、とんでもない仕事をしていても、自ら飛び込み営業までしてしまう。40代、50代の大御所となれば、待ってしまうのが普通だと思うのです。こっちから行くのはカッコ悪い、断られたらみっともない、そんなふうに思ってしまう。しかし、森田さんは違うのです。

 それは、売り上げを上げること以上に、面白いことをしたいという飽くなき探求心からすべてが発想されているからだと僕は感じています。世界中の誰もやっていないことをやってみたい。面白いことをやりたい。とにかく挑みたいと感じたら、飛び込んでいく。

「よくダメ元って言いますけど、もともとダメ元ですから。ダメであって当然。だから、諦めないで行こうと思うわけですよ。蹴られてでもいいから行こうと思って行く。あんまりしつこいと、本当に嫌われると思いますが(笑)。でも、2回断られて、3回目で、だったらやってみろ、と言われたこともありますね」

 断られることを、みんなは恐れます。でも、恐れていては、本当にやりたいことはできないのです。ことビジネスに関しては、そんなことを言っている場合ではない。とりわけこれからは、サバイブできない。

 実際、これほどの大御所がフットワーク軽く挑んでいるのです。いつも、さらに上を目指している。このレベルの人がここまでやっていて、普通の人がじっと待っていればいいはずがありません。

「海外のクライアントはハードルが高いと思っている人は多い。実際そうともいえますが、クリエイティブに関しては、世界中、垣根はないと僕は信じています。だから、0か100でいいと思う。今も一緒にやりたい企業がたくさんあるんですよ。言えないですけどね(笑)」

 頼まれてもいないのに、コストをかけてとんでもないものを準備してしまう。時にはうまくいかないこともある。でも、そこにはなんのマイナスもないのです。そうやって森田さんは、力をつけてきたのかもしれません。

 驚くべきことに、インテリアデザインの学校に行ったわけでもないのが、森田さんです。次回は、いかにして「世界の森田恭通」ができたのか、を探ります。

(後編に続く)

text by 上阪徹


森田 恭通 (もりたやすみち)
デザイナー / GLAMOROUS co., ltd. 代表
2001年の香港プロジェクトを皮切りに、ニューヨーク、ロンドン、カタール、パリなど海外へも活躍の場を広げ、インテリアに限らず、グラフィックやプロダクトといった幅広い創作活動を行っている。 直近では、100年に一度と言われる再開発が渋谷で進む中、2019年12月5日オープン 「東急プラザ渋谷」 の商環境デザインを手掛けた。またアーティストとしても積極的に活動しており、2015年より写真展をパリで継続して開催している。

アワード: MUSE Design Awards、IDA Design Awards、SEGD Global Design Award、A' Design Award and Competition、Design For Asia Awards、The International Hotel and Property Awards、INTERNATIONAL PROPERTY AWARDS、THE LONDON LIFESTYLE AWARDS、The Andrew Martin Interior Designers of the Year Awardsなど、受賞歴多数。

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