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小説 霊だけのキミへ①


「君はどう思う?」
 夏希はそう言うと、僕の方を見た。
 目が合って、少しだけドキドキした。夏希には、バレたくなかったので強がってみる。
「夏希は?」
 うーん、そうだねー。と夏希は顎を触りながら悩んでいる。
 いや、悩んでいるフリをしているだけかもしれない。
 秘密の森の中。僕らが会えるのは、ここだけ。
 決まった曜日、決まった時間に僕と夏希はここで会う。
 それだけ。
 地面には見たことない動物の足跡が、奥の方へと続いていた。
 とても大きく、迫力のある足跡。
 もし、こんな怪物と出会ってしまったら。身震いする。
「とりあえず、行ってみよう!」
 夏希は、期待に満ちた顔でこちらを見つめる。
 顔にワクワクという文字が浮かんで見えた。
 好奇心は猫を殺す、という諺を思い出し、胸が少しざわめいた。
「春も来るんでしょ」
 もちろん!と名前を呼ばれた僕は、返事をする。
 断っても無理矢理連れていかれるだけだ。夏希の命令に、僕は逆らえない。
「あー、行きたくないみたいな顔してる」
 と夏希は突然大きな声を上げた。
「怖いんでしょ」と続ける彼女は、不貞腐れていて少し可愛かった。
 そりゃそうだ。
 誰だっては怖い。
「そんな事ないよ」
 とまた強がった僕は、どこまでいっても夏希に頭があがらない。
 動物の鳴き声が聞こえた。
 その方向を見ると、フクロウが心なしか心配そうな顔をしている。
「大丈夫だよ」
 と夏希が歩み寄っていく。
 何やら、フクロウと話している様だった。
 少しギョッとする。
「危険だから、行かない方が良いよだって」
 夏希は、フクロウの言葉を僕に翻訳してくれた。
 彼女は森の動物と会話が出来る。この森では常識だ。
「じゃあ、」
 僕は言いかける。危ないから、止めよう。
 言葉の続きは夏希に遮られる。
 胸がまたザワついた。

「まだ生きていなきゃいけないんだ、私。」
 そう言って夏希は、はにかんだ。
 やり残した事がある。彼女はそう言う。
 夏希は幽霊だ。
 決して、嘘でもつまらない冗談でもない。
 何かの例え話でもない。
 本当に幽霊なのだ。
「誰かのヒーローに成りたいんだ。」
「ふーん、」
 僕は、相槌をうつ。
 ひとりぼっちだった僕に出来た初めての友達。
 僕にとって彼女はヒーローそのものだったのだけれど、それを伝えてしまえば彼女が居なくなってしまうような気がした。
 初対面で幽霊だって告白された時は、さすがに信じられなかった。
 今でも何かの冗談なのではないだろうか、と勘ぐっている。壮大なドッキリではないだろうか。
「何その適当な相槌」
 夏希は、また不貞腐れている。
「もし、誰かのヒーローになれたら成仏しちゃうの?」
 心配は、声に出た。
「心配してくれるんだー。」
 今度は、ニマニマしている。目まぐるしさに、眩しくなる。
「もし願いが叶ったらその時考える。」
 夏希はそう言うが、自分で決められるものなのだろうか。
「そうか、成仏できたら良いな」
 嘘だった。強がってしまった。悔しくて唇を噛む。
 夏希は少しだけ悲しそうな顔をしたが、すぐに「そだねー」と笑っていた。
 また、胸が痛んだ。


お読み下さりありがとうございました。
続きは、また書きます。






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