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小説 霊だけのキミへ①
「君はどう思う?」
夏希はそう言うと、僕の方を見た。
目が合って、少しだけドキドキした。夏希には、バレたくなかったので強がってみる。
「夏希は?」
うーん、そうだねー。と夏希は顎を触りながら悩んでいる。
いや、悩んでいるフリをしているだけかもしれない。
秘密の森の中。僕らが会えるのは、ここだけ。
決まった曜日、決まった時間に僕と夏希はここで会う。
それだけ。
地面には見たことない動物の足跡が、奥の方へと続いていた。
とても大きく、迫力のある足跡。
もし、こんな怪物と出会ってしまったら。身震いする。
「とりあえず、行ってみよう!」
夏希は、期待に満ちた顔でこちらを見つめる。
顔にワクワクという文字が浮かんで見えた。
好奇心は猫を殺す、という諺を思い出し、胸が少しざわめいた。
「春も来るんでしょ」
もちろん!と名前を呼ばれた僕は、返事をする。
断っても無理矢理連れていかれるだけだ。夏希の命令に、僕は逆らえない。
「あー、行きたくないみたいな顔してる」
と夏希は突然大きな声を上げた。
「怖いんでしょ」と続ける彼女は、不貞腐れていて少し可愛かった。
そりゃそうだ。
誰だっては怖い。
「そんな事ないよ」
とまた強がった僕は、どこまでいっても夏希に頭があがらない。
動物の鳴き声が聞こえた。
その方向を見ると、フクロウが心なしか心配そうな顔をしている。
「大丈夫だよ」
と夏希が歩み寄っていく。
何やら、フクロウと話している様だった。
少しギョッとする。
「危険だから、行かない方が良いよだって」
夏希は、フクロウの言葉を僕に翻訳してくれた。
彼女は森の動物と会話が出来る。この森では常識だ。
「じゃあ、」
僕は言いかける。危ないから、止めよう。
言葉の続きは夏希に遮られる。
胸がまたザワついた。
☆
「まだ生きていなきゃいけないんだ、私。」
そう言って夏希は、はにかんだ。
やり残した事がある。彼女はそう言う。
夏希は幽霊だ。
決して、嘘でもつまらない冗談でもない。
何かの例え話でもない。
本当に幽霊なのだ。
「誰かのヒーローに成りたいんだ。」
「ふーん、」
僕は、相槌をうつ。
ひとりぼっちだった僕に出来た初めての友達。
僕にとって彼女はヒーローそのものだったのだけれど、それを伝えてしまえば彼女が居なくなってしまうような気がした。
初対面で幽霊だって告白された時は、さすがに信じられなかった。
今でも何かの冗談なのではないだろうか、と勘ぐっている。壮大なドッキリではないだろうか。
「何その適当な相槌」
夏希は、また不貞腐れている。
「もし、誰かのヒーローになれたら成仏しちゃうの?」
心配は、声に出た。
「心配してくれるんだー。」
今度は、ニマニマしている。目まぐるしさに、眩しくなる。
「もし願いが叶ったらその時考える。」
夏希はそう言うが、自分で決められるものなのだろうか。
「そうか、成仏できたら良いな」
嘘だった。強がってしまった。悔しくて唇を噛む。
夏希は少しだけ悲しそうな顔をしたが、すぐに「そだねー」と笑っていた。
また、胸が痛んだ。
お読み下さりありがとうございました。
続きは、また書きます。