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8ori5
ショートショート 姉へ。
飼っていたハムスターが死んだ。
その日、姉が号泣していたのを思い出す。
僕は泣かなかった。
泣けなかった、という方が正確かもしれない。
心ない自分を恥じた。
トンボの羽を毟り取り、クモの餌にして観察していた僕を強く叱ってくれたのも姉だった。
心ない僕は、少し姉に反発した。
姉は悲しそうな顔をしていた。
そんな事する子に育って欲しくない、と言っていた。
大好きな姉にそんな顔をさせてしまった自分を恥じた。
だから、姉がイジメに加担していると聞いた時は心から驚いた。
少し遅れて悲しみが襲ってきた。
噂は怖いもので、僕の元にも届いた。
部活動の後輩をいじめているらしい。
嫌われている事に気が付かず、威張り散らかしているらしい。
僕は恥ずかしくなった。
姉は、家では優しい姉だった。
信じたくなかった。
まだ未成年の姉から、煙草の匂いがした事があった。
僕を叱ってくれた姉はどこに行ったんだろう。
また僕は悲しくなった。
いつしか僕の知る姉は、姉では無くなっていた。
姉は上京し、いつの間にか会う機会は減っていった。
僕は、東京に行くのを辞めた。
もう噂は聞こえて来ない。
姉が優しさを取り戻せますように。
オレンジ色した秋の空に願いを込めて。
心ない僕から送る言葉は、ひどく陳腐なものだった。