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ショートショート 52kgとレモンサワー。
「芸能人のプライベートなんてどうでも良くない?」
由香はそう言うと、机に顔を伏せ項垂れる。推しの不倫報道からの活動休止にダメージを受けている様だった。
残念そうな由香を見て私も悔しくなる。
芸能人だってセックスはするし、うんこもする。
世の中が、間違えた方向にコンプラ意識を向けている様に思える。
「捌け口にしたいだけなんだよ」
私はそう返す。由香は机に突っ伏したままだ。
近くにある飲み物が倒されないか不安になる。
「不倫がショックなの?」
敢えて聞いてみる。そうでは無いことは知っていた。案の定、違うと返事があった。
「不倫ごときで何で消されなきゃいけないわけ?」
不倫ごときって。と思うが概ね同意する。
世の中が過ちに厳しすぎる。叩いている奴の大半は憂さ晴らし、だ。残りは、しょうもない正義感だ。
「叩いている奴らは、何も悪いことした事ないのかな?不倫とか未成年飲酒とか、あと、何だ?」
あー、ムカつく。
由香が吐き出したため息には、全体重が乗っている様な気がした。
それにしては52kgは軽すぎる。
今だけ由香に私の体重を分けて上げたくなる。
由香は店員さんを呼び、レモンサワーを2杯頼んだ。
店員さんは、半分以上残っていた私のグラスをチラッと見たが何も言わなかった。
勝手に飲み物を頼まれ、種類まで決められた私に怒られる筋合いはなかった。
「何も知らない人達が、憂さ晴らしの為に傷つけるだけ傷つけといて。活動休止させる事を当たり前のように思いやがって。」
また由香は話を戻した。彼女の気持ちは晴れないようだった。長くなりそうだ、と密かに思う。
店員さんが、レモンサワーを2杯持ってきた。私は、目の前にあったグラスを慌てて飲み干す。
少しだけ視界が歪むが、大した事はなかった。
店員さんは、ありがとうございます。と言って立ち去っていく。
見送りながら、ふと由香を見ると既にレモンサワーのグラスが空いていた。
めんどくさい事になりそうだ、と内心ため息をつく。
由香がまたレモンサワーを2杯頼んだ。
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読み切り、お酒と閏年シリーズの4作目です。
マガジンあるので是非。