『アルキメデスの大戦』感想(ネタバレ無し)
TOHOシネマズにて、邦画『アルキメデスの大戦』を鑑賞してきました。
私は洋画の方が好みなのですが、時代劇系、あるいは戦争系の映画は別。終始真面目に映画をやってくれることが多いので好きです。
今作は菅田将暉主演のポップな配役で、「戦争を語れるのか?」と不安を感じていましたが、大変素晴らしい作品でした。
あらすじ
日本と欧米の対立が激化する昭和8年、日本帝国海軍上層部は巨大戦艦・大和の建造計画に大きな期待を寄せていたが、海軍少将・山本五十六はその計画に待ったをかけた。山本は代替案を提案するも、上層部は世界に誇示する大きさを誇る大和の建造を支持していた。山本は大和の建造にかかる莫大な費用を算出し、大和建造計画の裏に隠された不正を暴くべく、天才数学者・櫂直を海軍に招き入れる。数学的能力、そして持ち前の度胸を活かし、大和の試算を行っていく櫂の前に帝国海軍の大きな壁が立ちはだかる。映画ドットコムより
大戦における海戦を語る時に欠かせないのが、いわゆる「大艦巨砲主義」。
文字通り、デケェ船にデケェ大砲乗せたら強いんじゃ!という思想のことです。
満州占領を欧米に批判され国連も脱退して戦争が囁かれていた当時、大日本帝国は日露戦争の勝利に酔っていました。
日本海海戦で大国ロシア海軍にほぼ完全勝利した記憶を引きずったまま、次世代兵器の開発に向かう帝国海軍。
しかし、映画の冒頭の太平洋戦争で、戦艦『大和』が米軍の航空戦闘機にボッコボコにされるシーンのように大艦巨砲主義は時代遅れ。
戦闘機や爆撃機のような航空戦力こそ次世代の戦略だったのです。
大和が敗北する12年前、後の元帥海軍大将である山本五十六少将は次世代兵器には航空母艦、いわゆる『空母』を開発すべきだと考えていました。
空母ならば航空戦力を搭載可能であり、戦争に勝てる。
航空機に当たりもしない大砲など、金がかかるだけの豚に真珠です。
ちょうど現代日本も護衛艦『いずも』をヘリ搭載型空母に回収する(した?)計画が話題になることがありますね。空母は目的によって運用を変えられる便利な戦力なのです。
強い上に安く作れる空母が戦艦より有用だと山本五十六(やまもといそろく)は知っていました(あくまで物語上の話)。
しかし、海軍は大艦巨砲主義に基づき、『戦艦』を支持する声も多い。
そんな中、帝国海軍に戦艦『金剛』の後釜として新たな海上戦力を開発する機会がやってきました。
この機会になんとしても空母の増強にかかりたい山本五十六。
ここぞとばかりに会議で空母案を提案するも、何故か空母よりも安く仕上がっている巨大戦艦案に流れつつありました。
空母より安い戦艦っておかしくね?
戦闘機を飛ばすだけの空母よりも、大砲をこれでもかと積みこんだ戦艦が安いなど通常はありえない話です。何か裏があるに違いない!
そこで山本五十六は、帝国大学を退学させられた数学の天才である櫂直(かい ただし)に、戦艦案の本当の製作見積書の計算を依頼したのでした。
すべては次なる戦争に勝つために。
みどころ①冒頭の戦艦大和撃沈シーン
今作の冒頭は、戦艦大和が敵戦闘機にギッタギタのボッコボコにされる場面から始まります。
そのシーンは2005年の邦画『男たちの大和/YAMATO』を彷彿とさせるほど凄惨。
全方位から爆弾をばら撒く戦闘機に向かって、ロクに当たりもしない機銃を、それでも必死に撃ち続ける乗組員が蜂の巣にされ、遂には転覆・沈没する大和。
観客に
「戦艦を作るのは無意味」
「日本が戦争したのはバカだった」
と印象づけるには十分でしょう。
このシーンがあったからこそ、観客は『戦艦否定派の山本五十六』や『櫂直』に深く共感することができるのです。
みどころ②役者達の演技力と監督の采配
正直私は菅田将暉氏の演技力を舐めてました(下手だと思ったことは一度もありませんが)。
真剣な雰囲気の映画に合うのか?
ぐらいに考えていましたが、杞憂も杞憂。
『人並外れた天才』という役所にあれほどハマる俳優はそうはいないのではないでしょうか。
任務に打ち込む真剣さと、少しの異常性をバランスよく持ち合わせた役者が菅田将暉なんだなと思った次第です。
今作を見て、菅田将暉氏がまた好きになりました 笑
彼を起用した山崎貴監督の采配と繊細な撮影描写にも天晴れです!
みどころ③建造費の不正と世界最強の戦艦の意義
あらすじから、観客はなんとなく「不正は多分あるんだろう」ということは予想できると思います。
物語を楽しむためにもう一歩考えて貰いたいのがこれです。
「なぜ建造費を誤魔化してまで巨大戦艦を作りたがるのか?」
大艦巨砲主義こそ絶対の戦略と考える戦艦派は、本来建造費を誤魔化す必要などないのです。多少金がかかったとて戦艦を作るべきだと主張すればいいはず。
しかし戦艦派は建造費を偽装します。
一体なぜ偽装したのか?
その真実は、冒頭の大和撃沈シーンから感じた『絶望感』に帰結することになります。
日本人だからこそわかる戦艦大和への期待と絶望。
なるほど!と言わしめる結末が待っています。
(本当は少しだけ「いやこの論理で建造決定するのは少々難しいでは?」という点もありますが、脳内補完可能なので見逃せます。)
最後に
少し長くなりましたが、まだ観ていない方向けにみどころをまとめてみました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。よければ、いいねと厳しいご意見・感想をお待ちしています!
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