透明人間になる薬
「博士!ついに完成しました!皮膚にあたる光を屈折させ、透明人間になる薬です!」
「そいつはおめでとう。詮索するようで済まないが、その薬は人体にとって本当に無害なのかね?」
「はい!少なくとも、ウサギやサルで動物実験した際は何の問題もありませんでした!使用して10分で透明になり、だいたい一時間持続します」
「なるほど。つまり君はウサギやサルで安全なら人間でも問題ないと言い切るつもりかね?君も研究者なら動物種差という単語を知らんわけでもあるまい」
「いえ、そんなつもりはありません。人間で実用化するには、人体実験をする必要があると考えられます。今回はその許可をいただきたく参りました」
「実用化と君は言うが、その薬は果たして本当に実用化される必要があるのか?人間生活で透明になることになんらメリットがあるようには思わんがね」
「たしかに、実生活で透明になる必要性は限りなく低いと考えられます。しかし、私が想定しているのは、敵国へのスパイや犯罪捜査への利用です」
「つまり君は戦争の道具を作ったわけだ。まさに今、世界が平和へと向かっているご時世に新たな戦争の火種を作ってしまうとは...師としてこれほど嘆かわしいことはない。研究者として世界平和を思うなら、その薬を置いて、ここを去りなさい」
「博士……そんなつもりじゃ..……」
「いいから、出て行きなさい!」
「わかりました...…今日はこれで引き上げます。ですが、博士にならきっとわかっていただけると信じています。薬はここに置いて置きますので、気が変わりましたらご連絡ください。」
研究者はそう言うと、薬を何本か机の上に置き、その場を後にした。
翌日。
『ニュースです。昨日午後、○×研究所の博士が、 銭湯で突然腹痛を訴え、意識喪失。搬送先の病院で死亡しました。
同研究所の研究者の証言によると、塗り薬を飲んでしまったのが原因である可能性が高いとのこと。博士は数々の功績をもち……』
#ショートショート #小説 #科学 #SF
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