003_表紙

細胞がエネルギーをつくる仕組みが、一見とても回りくどい理由

ミトコンドリアでATPを作る仕組みは、一見とても回りくどい。でも実は、とても合理的な仕組みなんだ。

前回は、ミトコンドリアでATPが作られる仕組みを思いっきりシンプルに書いてみた。

要するに、ミトコンドリアでは・・・
 まず、電子伝達系がプロトンを汲み上げる。
 すると、膜をはさんで片側のプロトンが濃くなる。
 プロトンは反対側の薄い方へ戻ろうとする。
 プロトンが戻る時のエネルギーを使って、ATP合成酵素がATPを作る。
というわけだった。

これは例えるなら・・・
 エンジンでポンプを回して水を汲み上げ、
 高い所から落ちてくる水の勢いで発電機を回す、
というような仕組みと、本質的には同じだ。

とても回りくどい。非効率じゃないか。
エンジンで直接、発電機を回せばいいのに!

つまり、電子伝達系が直接ATPを作るようにした方がいいじゃん?!
その方が効率的なように思える。

なぜ生物は、こんな回りくどい仕組みを採用したんだろう・・・?

というわけで、まず前回の図をもう一度。

002_前回の図

こんなふうに、ミトコンドリアの内膜に、電子伝達系とATP合成酵素がある。

そして、電子伝達系が、内膜の内側から外側にプロトンを汲み上げて、

003_プロトン汲み上げ


そして、プロトンが外側から内側へ流れ込む時のエネルギーを利用して、ATP合成酵素がATPを作る。

004_ATP合成


ところで、実は、
 プロトンが3つ流れ込むと、ATP合成酵素はATPを1個作れるんだけど、
 電子伝達系では、1回の化学反応でプロトンを4個汲み上げたりする。

001_プロトンの数の比較

だから、もし仮に、電子伝達系が直接ATPを合成できるとすると・・・?
上の例だと、
 プロトンを4個汲み上げられるだけのエネルギーを使って、
 プロトン3個分あれば足りるはずの、ATPを1個作るという仕事をする。
っていうことになっちゃう。

つまり、プロトン1個分、エネルギーが無駄になる。

ところが、実際に電子伝達系がやっていることは、どうだろう?
ひたすら、膜の外側へプロトンを汲み出しているだけだ。
そして、プロトンが12個汲み出されれば、ATP合成酵素はそれを使ってATPをちょうど4個作れる!
無駄なく、最後の1滴までエネルギーを使い切れるんだ。

おかげで電子伝達系は、ATPをちょうど1個作れるエネルギーを生むような化学反応をわざわざ探して来なくてもよくなる。ただ、手近にある利用可能な化学反応を使って、ひたすらプロトンを汲み出していればいいってわけ。

これが、
 「プロトンを汲み出すシステム」と、
 「ATPを作るシステム」を、
別々にするメリットだ。

一見、回りくどい仕組みなんだけど、実はものすごく効率のいい仕組みになってる。

なんて頭がいいんだろう・・・

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