見出し画像

読書は困った君を助けてくれる。 齋藤孝版『君たちはどう生きるか』誕生秘話【編集者通信】

8月5日に発売になった、齋藤孝さん初の小説スタイルによる著作『未来の自分に出会える古書店』。
担当編集者の武藤旬が、本作についてお話しします。

主人公たちのような中高生だけでなく、大人まで楽しめる本書の魅力とは……?

音声メディアvoicyの「文藝春秋channel」にて配信した内容を一部、活字にしてお届け!

音声全編はコチラからどうぞ

◇ ◇ ◇

——「にほんごであそぼ」などで知られる、あの齋藤孝先生が初の小説スタイルで書かれた『未来の自分に出会える古書店』。どんな内容なのか簡単にご紹介いただけますか?

武藤 中学2年生でサッカー少年の弟と、高校2年生で絵を描くことが大好きなお兄さんの二人の兄弟が主人公です。

 この二人が、近所に出来た古本屋の主人「サイトウさん」に導かれ、進路、恋愛、いじめといった、様々な問題への対応の仕方を読書を通じて学んでいくという成長物語です。

——小説スタイルに決まった経緯を教えてください。

武藤 齋藤先生と別の取材でお目にかかった時に、実は小説を書きたいんだとお話をされていたことがきっかけです。

 物語の形を取ることで、若い読者により手に取ってもらいやすいのではないかというお話でした。

——中高生向けではありますが、大人の読者にも刺さる内容です。担当編集者として、特にぐっときたエピソードはありますか?

武藤 二人の兄弟の弟の方はメッシというあだ名なんですね。このメッシ君が、学校に急に来なくなった友達のハヤトのことを心配して、小学生の頃に一緒によく遊んだ公園に呼び出します。

 実はバスケットボールのうまいハヤトは、バスケの強い私立の高校から誘われているんですが、家庭の経済的事情からそれが許されない。

 それで学校に行く気がしなくなっていたといういきさつでした。

 それを知ったメッシは、自分には何もできないけれども、カバンの中にあったおにぎりを渡して二人で食べる。

 ハヤトはただ、「うまいな」と言うだけなんですけれど、二人の気持ちが通じ合う感動的な場面だと思いました。

——自分が中高生だった時に読みたかったなと思う内容です。

武藤 実はこの本は、『君たちはどう生きるか』という、今でも読み継がれている吉野源三郎さんの本を参考にしているところもあるんです。

 僕はこの『君たちはどう生きるか』を高校生の頃に読みましたけれども、正直かなり難しい部分もありました。それに比べると、『未来の自分に出会える古書店』はレベルは落とさずに、かなりかみ砕いた内容になっていると思います。

——本作を通じて、魅力を再発見した作品はありますか?

武藤 環境問題を扱った章の中で宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』の漫画の原作版と、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を紹介しています。

『風の谷のナウシカ』の原作本は、映画になったものよりもずっと長くて、人間と自然が共存するとはどういうことかといった哲学的な内容も含まれています。また、『沈黙の春』も、化学物質が自然に与える複合的な影響について書いています。

 どちらもコロナ禍の中で読むと、より奥深いものがあると思います。

 そういえば、映画版の『風の谷のナウシカ』では、人々は腐海の瘴気から身を守るために、人々は常にマスクをしてるんですよね。

——ニーチェやデカルトから、『スラムダンク』『ピンポン』に米津玄師まで、多様な作品を扱っている本作。作品の点数を絞るのが大変だったのではないでしょうか。

武藤 1回当たり2~3時間の打ち合わせを計4回行って、齋藤さんがかなり点数を出された中から絞っていきました。

 それだけに、決定的なセレクションになったと思います。

——装幀も非常にかわいらしい小説です。2017年に発売されてベストセラーとなった漫画版の『君たちはどう生きるか』羽賀翔一さんが、カバーイラストを描かれています。

武藤 羽賀翔一さんは、これまでも『読書する人だけがたどり着ける場所』など齋藤先生の本のカバー絵を手がけられてこられたという関係があります。

 まさにベストコンビと言えるような関係だと思います。

 今回はさらに本文中に、村上テツヤさんにイラストを書いていただきました。

 こちらも、さわやかで味わいのあるイラストになっているかと思います。

◇ ◇ ◇

音声全編はコチラから!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?