夜が近づく夕方の、住宅街を歩く帰り道が好きだ。 昼間は静まり返っていた家々に灯りがついて、人の気配がしはじめている。 賑やかしく走り回る子供の足音や、 カチャカチャと陶器の触れ合う音。 チッチッチと鳴ったあとにボンッと点火されるボイラーの音。 それらをBGMに街並みを眺めながら、その家々の中にあるドラマを想像する。 そしてどの家々も朗らかで平穏であるといい、と願わずにはいられないのだ。 流しのしたの骨はそんな帰り道にぴったりのお話だった。全く知らない人の暮らしの中にあ
来年小学生になる長女の就学前健診に行ってきた。 小学校に足を踏み入れるのは子供の時以来。 体育館から入り、グループに分かれて校舎の中に案内される。 独特なむわっとした匂い。 昇降口の、背の低い年季の入った靴箱。 飴色によく磨かれた床。 教室の外壁に貼られる作品。 廊下の窓下にずらりとかけられた子供達の着替え袋。 ヒリヒリするほどの懐かしい感覚が迫ってきて、一気に"小学校"という世界に引き込まれてしまった。 子供達だけ教室内に案内される。 ドアからチラリと覗いたら、一
2024年8月29日 曇りのち雨 大きくノロノロとした台風が日本列島を縦断している。こちらも雨が降り始めたようだ。 シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々 著:ジェレミー・マーサー どこかの国の世界遺産や、遺跡などに行って人生観がすっかり変わったと熱く語られるのを耳にすることがある。 そのような劇的な体験はしたことがない。 それでも、今の自分の世界を全て捨て去って どこか遠くの土地に何者でもないまっさらな自分で飛び込んだらどんな心地だろうか。 そこまでしたら何か、
本がいつから好きだったのかはよく覚えていない。 絵本はさほど持っていなかったけれど 家には本が沢山あった。 数学の人だった父は宇宙や音楽を数式で表すような本を沢山持っていたし、 年の離れた兄の部屋にはアガサ・クリスティーや、コナン・ドイルのミステリーがたくさん揃っていた。 (シャーロックホームズのまだらの紐で、読書感想文を書いたことがある) 部屋の主がいない時間を見計らっては、こっそり忍び込んでは読んでいた。 父は本を滅多に貸してはくれず、 貸して欲しいと言うと、代わ