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ウブメ(2005年07月14日)

2005年07月14日 記

 京極夏彦がNHKに出演していた。しかも「スタジオパークからこんにちは」というお昼の生放送である。人気作家とはいえ、ミステリー、しかも妖怪作家が真昼間からご登場とはちょっとびっくりである。案の定というか、京極氏は心なしか土気色の表情で、運動不足と病み上がりのせいか顔全体もむくんでいる。いかにも不健康そうで、見ているほうとしては気が気ではなかった。ますます「不健康」に磨きがかかってきたように思えるが、これもまた「妖怪作家」のスタイルということか。やはり京極氏には闇夜の蝋燭の灯りが良く似合う。思わず「昼間出てきちゃダメ!」とテレビに向かって叫んでしまった。うそです。

 インタビューによれば、京極氏もデビューして早10年だそうだ。そういえば手元の『姑獲鳥の夏』の奥付を見てみると、初版は1994年とある。僕が初めて読んだのもこの作品だが、手にしたのは95年のことだ。すでに『狂骨の夢』までが刊行されていたと記憶している。購入したのは夏で、なぜか池袋のリブロ(だと思う)。たまたま東京に3週間ほど滞在することになって、その間の暇つぶしにと思って買ったのだ。滞在先は池袋のビジネスホテルだったのだが、これがまた不気味なホテルでまいった。僕は霊感など微塵もないのであるが、部屋に入ったとたんに薄ら寒いような妙な気分になったのを覚えている。それでもお化けが出るとか、具体的な実害があったわけでもないので部屋を変えるわけにもいかない。当然、夜は安眠できるわけもない。

 そこで夜な夜な『姑獲鳥の夏』を読みふけったわけであるが、これがまたいけなかった。まったく予備知識もなくページを開くと、いきなり鳥山石燕の「姑獲鳥」の画がある。これが気味悪い。さらに読み続けていくと、舞台はどうやら池袋近くの雑司が谷という場所らしい。しかも冒頭から、脳味噌とか無意識とかフロイトとか、小難しい(というか不気味な)話が延々と続く。結局、部屋の雰囲気にあまりにジャストフィットしていたせいか、最後まで読み通すことができなかった。おかげで(という言い方も変であるが)、ひと夏の東京暮らしは不眠に悩まされて散々な目に遭った。今でも池袋というと、あのときのことを思い出す。だが逆に言えば、あれほど京極作品を読むのに適した場所もないかもしれない。『姑獲鳥の夏』を読むなら、夏の池袋の鄙びたビジネスホテルが超お薦めである。何が出るか分からないので、責任はもてないが。あの部屋には「何か」が棲みついていたように思う。子泣き爺、とか。

2024年03月26日 付記

 偶然というかなんというか、今日(3月26日)は、京極夏彦先生の誕生日であった。61才。還暦過ぎていたとはびっくりである。京極先生の功績として、個人的に思い浮かべるのは、PCの漢字変換。この日記を書いた当時は「姑獲鳥」と打っても一発変換できなかったのではないかしら。「こ」「かく」「ちょう」と一字一字、変換していたような記憶がある。それがいまでは「鉄鼠」「絡新婦」「塗仏」「陰摩羅鬼」などなど、妖怪の名前は、ほぼほぼ一発変換できる。次作の「幽谷響(やまびこ)」は、残念ながらまだのようであるが。

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