V.V(2005年06月25日)
2005年06月25日 記
「遊べる本屋」をコンセプトにしたヴィレッジ・ヴァンガード(V.V)は全国に150店以上もあるそうだ。僕がよく通っていた10年程前には名古屋近辺に3、4店舗しかなかったことを考えると、驚くべき急成長ぶりである。名古屋市天白区にオープンした1号店は、当時の(ある意味、現在でも)書店のスタンダードからすると“異様”としか映らなかった。大きな倉庫を改造した(というかそのまま利用した?)店舗内にはジャズが流れ、天井からは自転車が釣り下がり、ビリヤード台の上に本が並べられている。壁面に取り付けられた書棚はバカみたいに背が高く、梯子がないと手が届かない。どれをとっても従来の常識から大きく逸脱した店舗設計だった。だから業界では、V.Vの存在はほとんど黙殺されていた――あれは本屋じゃない、すぐ潰れるさ、と。
社長の菊池さんは名古屋市名東区にあった「BOOKSHOP大和田」という店で修行を積んだ。この店が今でも営業しているか知らないが、俳優の大和田伸也・獏兄弟のご家族が経営している書店だ(僕が通っていた頃は駐車場の看板に「SHINYA&BAKU」と大書されていが、現在はどうなっているのだろう?)。それはともかく「BOOKSHOP大和田」を任された菊池さんは、自分好みの本しか置かないという、業界では極めて異例な店作りをした。売れ筋であるはずの雑誌類はほとんどが即返本。車、ジャズ、アメリカ文学、渋澤龍彦…、ついには雑貨まで手を広げ、さらに広い店舗を求めて独立した。それが倉庫を改造した第1号店となった。
数年後には名古屋市郊外に同様の店をオープン。こちらは入り口が2階にあるという、これまた奇妙な店だった。入り口に立つと店内が一望できる。例によってピンボールやらビリヤード台も置かれ、天井にはモトクロスバイク。足元には赤い絨緞が敷き詰められていて、床には雑貨が所狭しと並べられていた。でも圧迫感は感じられない。むしろ本好きには心地いい。なんとも不思議な空間だった。僕も仕事をサボってよく訪れたものだ。
そんなV.Vの黎明期を取材したものが『菊池君の本屋』(1994年刊)だ。現在書評家として活躍中の永江朗さんの実質的なデビュー作だと思う(永江さんが専業ライターとなったのは93年のこと)。当時、永江さんはリクルートが書店向けに発行していた「あぐれ」という雑誌に書店探訪のような記事を連載しており、その仕事からスピン・アウトしたかたちでこの本は出来上がった。それでもまだV.Vの存在は、「地方で面白いことをしている本屋」程度の認識を出ることはなかった。
極めて個人的なこと言わせてもらえれば、僕は今のV.Vがあまり好きではない。名古屋だけに留まっていて欲しかったというのもある。自分が歳をとったということもあるのかもしれない。正直言って、あのスタイルに飽きてしまったのかもしれない。いろんな複雑な感情が入り混じっているので、一言で言い表すことは難しい。
僕が一番好きだったV.Vは名古屋市緑区にあった店だ。1号店や2号店のような規模ではなく、こじんまりとした店で、場所もすごくわかりにくい。でもちょっとした隠れ家的な雰囲気が、なんともよかった。店長らしき女性がいつも退屈そうに店番をしていた。平日の昼下がりに訪れると、妙に心が落ち着いた。V.Vのサイトを見てみると、残念ながらその店はもうないようだ。そんなところにも、現在のV.Vがいまひとつ好きになれない理由があるように思う。
2024年02月23日 追記
ちょうど今年、ヴィレッジ・ヴァンガードが赤字に転落したというニュースが流れた。19年前に書いたように、もともと出店しすぎのきらいがあったのでそんなに驚かない。むしろ今までよくもったなあという印象。昔の店舗を知る人間としては、全国展開以降は、本屋さんじゃなくなっちゃった感がある。原点回帰してほしいけど、それもできないだろうし。どうするんかね。