【読書記録】「手づくりのアジール(青木真兵 著)」⑤
1993年に放映されたテレビドラマ「あすなろ白書」。私は、熊本県益城町広崎の実家の居間で一人観ていた。数年前までは、東京の多摩ニュータウンに住んでいて、いきなり「田舎」に住むことになった。夏休みになると、飛行機で東京に行って、その話をするとクラスで一躍ヒーローに慣れた。
「homeport(母港/港)」の原点は、間違いなく「あすなろ白書」だ。青山学院大学を舞台にした大学生5人の群像劇。大学4年間だけでなく、就職してからの日々も描かれている。
主人公の園田なるみは、サークル勧誘の波をかき分け、ピアノの音に導かれるように、古ぼけた建物(「国文学資料別館」)の中に迷い込む。そこには同じく新入生の4人がいて、決められた道を歩むことを自覚している、松岡(西島秀俊)が「主よ、人の望みの喜びよ」を弾いている。
演奏が終わると、窓際にいた掛井保が、「あすなろ会で文学やらない?」となるみを誘う。実際は、あすなろ会などなく、そのとき目についた井上靖『あすなろ物語』から即興的につくりあげてしまう。
この「あすなろ白書」は、以来、この5人にとっての「手づくりのアジール」となる。川崎の工場街で育ち、男に溺れる母と暮らす掛井保。小田急バスでアルバイトをしながら必死に学費を貯めている。外交官を目指している東山星香。男はたくさんいるが、「自分が舞台に出る勇気はない。同類だから分かるよ」と松岡に、その心を見透かされる。
そう、このドラマは「心を巡るドラマ」だ。ナレーターとしての園田なるみは、「これはあなたの恋の物語だ」と視聴者に語りかける。おそらく、この時代、1990年代のトレンディドラマの多くは、心を巡る問題がモチーフになっていたのではないだろうか。
2024年5月17-20日に開催した「第2回 homeportゼミ合宿 in 熊本」。その延長戦&打ち上げを6月15日にhomeport(北20条)で開催した。最後まで残った宮崎君と何となくあすなろ白書を見始めた。まずは第2話まで。
「まわりくどい」。それが二人の感想だった。行きつくところは分かっているのに、二人の主人公は遠回りをする。奇しくもゼミ合宿打ち上げでも「気を遣う」ことについて議論をしていた。「気を遣う」こともきっと本心で、そこにはこころがあるし、「水臭いじゃないか」という瞬間も、そこにはこころはある。水臭いじゃないかという言葉の背景には、もしかしてこころなんてものは存在しなくて、ただ同じ時間と場所を共有する生き物にこころなんてものは必要ない、ということを「まわりくどく」あらわす表現なのかもしれない。
「国文学資料別館」、「レストラン大進」、「川崎の河川敷の夕陽」。あすなろ白書にはいくつものアジールが登場し、かれらが社会の渦に翻弄されるとき、きまって「還るべき場所」として立ち現われる。
あすなろ白書は、30年の歳月を経て2023年12月に「ディレクターズ・カット完全版」が発売された。私は2003年に1年間の浪人生活を経て、早稲田大学に入学した。そのとき、入学祝いとして親に買ってもらったのが、あすなろ白書のDVD-BOXだった。是非、田中くんにも観てもらいたい。
「ルチャ・リブロを読み直す」第3回読書会
課題図書:青木真兵(2021)『手づくりのアジールー「土着の知」が生まれるところ』晶文社
第3回:「対話2 これからの「働く」を考える 百木漠×青木真兵」(P67-87)
2024年6月24日(月)20:00~22:00
会場:homeport(北20条)or オンライン
どなたでも参加可能です。参加希望の方は下記までご連絡ください。
tourismusic.station@gmail.com
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?