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アンドベースは、ハンディのある方の新たな生活の場、つながる場、ステップの場になる――アンドベース施設長 荻野 直基

 今年で法人設立から13年目を迎えたHomedoor。
相談者数は相談支援を開始した2014年度から比べると約10倍となりました。

 また、相談者は路上生活中の高齢男性が大半であった当時と比べ、現在は10~30代が相談者の約半数となり、4人に1人が女性の相談者へと様変わりしています。加えてここ数年、家族単位での相談も以前に比べると目立つようになっています。

 今年7月、増える相談者数と変化していく相談者層を踏まえ、新しい支援の形を模索するため、24の個室を擁する新たなシェルターを開設しました。
その名もインクルーシブシェルター『アンドベース』です。

 アンドベースの対象者は大きく3つ。若者、母子を含む女性、そして高齢者・障害者です。今回、高齢者・障害者の相談者の傾向について、障害福祉に長年携わってきた荻野にインタビューを行いました。

荻野 直基
障害福祉に17年従事後、貧困問題に興味をもち、2022年10月に就労支援員としてHomedoor入社。2023年4月にアンドベース施設長に就任。

ー 障害者福祉に長年従事された後、Homedoorに入職を決めたきっかけは?

 障害のある方との関りは、高校時代のボランティアがきっかけです。元々、本田宗一郎が大好きで、工業高校に通っていたのですが、アレルギーがひどくて、この分野で働いていくのは無理だなと思いました。

 そんな時、友人が誘ってくれた障害のある方とイベントを企画するボランティア団体に参加するようになり、障害者福祉に関わるようになりました。そこには、障害のある方だけではなく、母子家庭の子や、不登校の子など、色々なしんどさを抱えている人が集まっていて、今思えばHomedoorみたいにカオスでしたね。

 30歳の時に社会福祉士を取得しました。改めて福祉について学び直し、他の福祉分野の支援者との交流をきっかけに、障害福祉だけでなく、色々な分野にも関わりたいという気持ちが芽生えたのと、ホームレス状態にある方の中には障害のある方が多く、まだまだ必要な支援に繋がっていない人たちがいることを知ったことから、ホームレス支援に関心を抱くようになりました。

アンドベースにて

― Homedoorに入職してもうすぐ1年。働いてみてどうですか?

 早いものでもう1年なんですね。相談スキルには自信がありましたが、あまりの相談件数の多さにあたふたしましたね。17年障害福祉に従事していたとはいえ、分野が違うと知らないことも多く、今困っている方に対して、できる限りの情報や支援を提供していかないといけないので日々勉強でしたが、マンネリ化していた自分にとっては新鮮でした。

 就労支援員として入りましが、思うように就労支援の流れを構築できていない日々が続いたので、ずっとモヤモヤしていましたが、転宅してからも相談してくださる方のお話を聞きながら、どんな支援や資源があればいいのかを熟考できた1年でした。

 そんな矢先にアンドベースがはじまり、いつの間にか施設管理までしていますが、知らないことを知ることに喜びを感じる自分にとって、これもよい経験です。ホームドアのカオス感は心地よく、スタッフの皆さんがレベチなので(笑)、置いて行かれないように頑張ろうと思います。

― Homedoorにはどのような障害をお持ちの相談者の方からご相談がありますか?

 ご自身で障害があると理解されて相談に来られる方は多くないですが、何かしらの精神疾患を抱えて相談に来られる方は多いです。

 精神疾患=障害者ではないですが、ベースに発達障害や、知的障害、パーソナリティー障害があり、それらの生きにくさから2次障害として、精神疾患を発症している方が多い印象です。

 じゃあ、どこで障害があるとわかるのかという話になると思うのですが、精神疾患の治療のために精神科を受診した際、ベースにある障害について医師から診断を受ける方が多いです。また、過去の受診先や、支援者から障害があると言われていたけど、手帳の取得や、福祉サービスの利用につながる前に、再度、住居喪失し医療や支援から離れてしまったという方も多くおられます。それらの傾向から考えると、安心した環境で中長期スパンで支援を受けながら、手帳の取得のサポートや必要な治療・支援に繋がっていく関わり・役割は、本当に重要だと考えています。

 ただご本人が、精神疾患などがあってしんどい思いをしているものの、それ自体を「困りごと」としてそもそも捉えているのか、医療につながることで自分の障害を認め、サポートを受けたいと思っているのかという点は大切に扱いたいところです。

― 障害をお持ちの相談者で、印象的だったケースは?

 そうですね。印象に残っているのは、 入職して3か月目ぐらいにご相談に来られたSさんですね。全国を転々としていて、医療には行く先々で繋がってはいたものの、障害福祉サービスの利用には至らず、周囲とのトラブルがあっては、その場にいるのが嫌になって飛び出してきてしまう方でした。

 ご相談に来られた時も、施設にはおられましたが、気づいたら施設を飛び出してきていて。行くところがなかったのでそのまま既存の宿泊施設・アンドセンターに緊急宿泊し、一緒に転宅後の生活について考えました。転宅後は福祉サービスの利用がしたいと希望があり、生活保護と障害福祉サービスの申請を一緒に行い、利用に向けた準備を進めましたが、数か月後には音信不通に。寂しかったですね。

 でも、「一人暮らしが難しかったらグループホームの利用も考えようと言っていたから」と、4か月後に再度ご相談に来られたんです。再会できるとは思っていなかったし、自分が伝えていた言葉で繋がっていたんだなと思うと嬉しかったですね。

 ただ、Sさんのように転宅後に「障害福祉サービスを利用したい」と申請しても、大阪市では利用するまで1~3ヶ月を要し、障害があることを証明する障害者手帳や診断書がない方は、申請から利用するまでに3か月以上となることもあります。そうなると利用開始までの間、地域でのサポートが得られず孤立し、生活が維持できなくなり、住居を失ったり、再度家を飛び出したりする方は少なくありません。それらの課題に対応するため、アンドベースが必要だったわけです。

※障害福祉サービスは、勘案すべき事項(障害の種類や程度、介護者、居住の状況、サービスの利用に関する意向等)及び サービス等利用計画案を踏まえ、個々に支給決定が行われる「障害福祉サービス」「地域相談支援」と、市町村等の創意工夫 により、利用者の方々の状況に応じて柔軟にサービスを行う「地域生活支援事業」に大別される。「障害福祉サービス」は、介護の支援を受ける場合には「介護給付」、訓練等の支援を受ける場合は「訓練等給付」に位置づけられ、それぞれ、利用のプロセスが異なる。

出典:全国社会福祉協議会、2021、「障害福祉サービスの利用について」https://www.shakyo.or.jp/download/shougai_pamph/date.pdf

― 高齢の方からはどのようなご相談がありますか?

 高齢者の相談の中で一番多いのは、住まいに関するご相談です。「まだ家はあるが家賃滞納が続き、退去しないといけない」「家族との関係が悪化して、逃げてきた」といった方、中には施設から出てきたという方もおられます。

 そのような状態になる背景には、認知機能や身体機能の低下、経済的自立の困難があり、できていたことができなくなる、つながりの喪失などが大きく影響していると思います。

―高齢の相談者で、印象的だったケースは? 

 印象に残っている方は多くいますが、中でもMさんが印象的でした。相談対応時間ギリギリにお電話されてこられ、場所がわからないとお迎えに行きました。大きな荷物を抱えられて、精神的にもいっぱいいっぱいという状態で。その日はゆっくり休むことを提案し、翌日に色々とお話を伺いました。ご家族との長年のトラブルがあり、転宅を繰り返されていました。とてもまじめな方で、一生懸命生きて来られてきたようですが、転宅を繰り返すことで、大切にされていたものを失い、友人とも疎遠になり、仕事も失い、借金だけが残り、孤独・孤立の中でのご相談でした。

 このような状態の方と出会うたびに、今までなぜ支援につながらなかったのかと思うのですが、「後期高齢者でも元気だから」「仕事している」「家族が擁護者ではないから高齢者虐待にあたらない」「施設に入らない」といった理由で、継続した支援にはつながらなかったようです。滞在中に『地域包括支援センター』にも相談しましたが、初回面談のみで、後はご本人からのSOS待ちという感じです。

 制度ありきなので致し方ないのはわかるので、だからこそ「はざま」の支援って重要だなとMさんのケースを通して思ったんです。Mさんは今でも仕事帰りに顔を出され、「ここが一番安心できる場所です」と言ってくださり、福祉の仕事をしている人間として本当に救われる思いですし、繋がることの大切さを再確認した時でもありました。

 年齢を重ねると、できていたことができなくなり、つながっていたものがなくっていくんですよね。ご高齢の相談者で、「自分みたいな経験してきたものが、今さらサロンや寄合に行ってもみじめになるだけだ」と言われている方がいました。その言葉にハッとしました。繋がればいいってもんでもない。誰とつながるか、何とつながるか。繋がることにしんどさも抱えている。そのことを理解しながら、単にサービスにつながるだけでなく、アンドベースでの中長期的な滞在を通して、転宅後も繋がり続けられる関係を築けたらと思っています。

相談員を中心に毎週ケース会議行い
一人ひとりに合ったより良い支援を提供できるように検討

―アンドベースの期待される役割とは?

 これまでは、短期的な滞在から転宅先を探し、転宅後に生活保護申請。それから福祉サービスにつながるという流れが基本で、サービスにつながるまでに長い方だと、3か月以上かかり、その間不安定な生活を強いられ、生活が維持できない方も少なくありませんでした。

 介護保険の場合は、緊急性があれば暫定的にサービスを利用することができますが、当事業所に来られる方は、身分証や電話、所持金がないなど、生活再建において、ゼロからスタートされる方がほとんどです。そのような状態でも、中長期期間滞在しながら、安心して生活に必要なものを揃え、必要とする支援につながってから転宅する場がアンドベースです。

 また、障害や老いを受け入れ、サービスを利用することに悩まれる方もいるので、そのような方がアンドベース滞在中にサービスを体験し、本当に必要かどうかを見極める場としての役割でもあります。

「転宅してからつながる」のと、「つながってから転宅する」とでは、生活の維持継続に大きな違いがあると思います。みなさん一人で頑張ってこられた方ばかりなので、苦手なことはサポートを受け、できた余力で新しいことにチャレンジして欲しいと思います。

アンドベース宿泊者の方にこまめに声掛け
アンドベースへの荷物の搬入も荻野自ら行う
ボランティアさんにも協力を得ながら、お部屋づくり
新規入居者に向けたお部屋をセッティング

―アンドベースで高齢者や障害者に滞在いただく上で今後の課題は?

 アンドベースの物理的な課題は山積しています…(笑)
 特に、高齢者向けに、介護ベッドといった設備も整ったお部屋は作る必要があると感じています。現在、扉の開き方などによって、車椅子ではトイレやお風呂に行けないというお部屋もあります。介護業者の方とも協力してお部屋を改修したいですね。


 アンドベースは制度の狭間にいる人たちのサポートを行うために、新たに立ち上げたシェルターです。公的な支援が届きにくい人たちに住まいや食事を提供し、社会福祉士やキャリアコンサルタントなど専門の資格を有するスタッフがこれまでの状況を伺いながら、生活や就労のサポートを行っています。

 相談に来られた方は生活困窮状態にあるため、シェルターの運営や生活支援にかかる費用は個人の皆様、企業の皆様からのご寄付によって支えられています。

 アンドベースは24の個室があり、継続的な運営を行うには新たに3,000人のサポーターが必要です。毎月1,000円からできる継続的なサポートをしていただける方を募集しております。ぜひアンドベースを支える1人になっていただけると嬉しいです。以下の特設ページよりご寄付いただけます。


お読みいただきありがとうございました。いただいたサポートは、生活にお困りの方への支援として使わせて頂きます。