Homedoor物語①
14歳でホームレス問題に出会った代表川口が、最初にこの問題にであった時から、Homedoorを立ち上げ今に至るまでのできごとをお読みいただけます。
14歳の少女が抱いた疑問
「ホームレスに近づいちゃダメ。」
「自業自得だから放っておきなさい。」
皆さんはそんな言葉を聞いたことはないだろうか。
『会ったこともないホームレスの人に対し、なんとなく怖いと思い込み、路上でホームレスの人が寝ていても気にも留めていなかった。しかし、ふとホームレスの人を見たとき、私は思った。どうして豊かな日本でホームレスになるのか。がんばらなかったらホームレスになるのか。自ら望んでなっているのか。』
知識を持っていなかった14歳、中学2年生の川口(現・Homedoor代表)にその答えは分からなかった。百聞は一見にしかずだと、大阪市西成区にあるあいりん地区 (通称・釜ヶ崎) での炊き出しに参加することにした。
釜ヶ崎は日本で一番多く、日雇い労働者や野宿者、そして生活保護受給者が集まる地域だ。そんな釜ヶ崎に足を踏み入れた川口は、困惑した。なぜなら、道行く人たちはほとんどが男性で、昭和時代を彷彿とさせる建物群や、道ばたで寝ている人がずらっと並ぶ光景を初めて目の当たりにしたからだ。
初めて訪れる場所に驚きながら、炊き出し用のおにぎりを作っていった。炊きたてのお米を使った何百個ものおにぎりが出来上がる。いざ渡そうとした時、隣でおにぎりを握っていた人がこう言った。「3時間も寒い中、おっちゃんたちは命の綱であるおにぎりたったひとつを待っているのよ。それを、孫みたいな年齢のあなたから、おにぎりを受け取るおっちゃんたちの気持ちを考えて渡してくださいね。」と。幼い川口の頭では理解しきれない大きく深い意味を持つ言葉に悩んでいる暇はなかった。おっちゃんたちは列をなし、すぐそこで待っていた。
「おつかれさまです!」と言いながら、ひとつひとつのおにぎりを丁寧に渡す。おっちゃんたちが「こちらこそありがとうなぁ。」と、寒さや栄養失調で震える手を差し伸ばしながら、おにぎりを受け取っていった。丁寧で謙虚な様子のホームレスの人々は、想像していたホームレス像とは全然違った。「本当におっちゃんたちは自業自得なんだろうか?」、14歳の少女は純粋な疑問を抱いた。
もうひとつの疑問と罪滅ぼし
「もっと勉強したら…もっとがんばったら…ホームレスにならなかったのでは?」
そんな疑問を持ったことはないだろうか。
14歳の川口は、まさにそんな思考と炊き出しで出合った当事者らとのギャップに驚き、戸惑いの中にいた。そこで、当事者や支援者らと実際に話をし、その疑問を解消していった。
家庭環境が良くなかった人、障害や病気を抱える人、派遣切りにあった人、怪我をして日雇い労働を続けられなくなった人。当たり前のことだけど、ホームレス状態になるにはなるだけの理由があると気づいた。
ホームレスの人々と一度も話したことも無いのに、周囲の人から聞いたことを鵜呑みにして「ホームレスは自業自得だ」と勝手に決めつけていたことを恥ずかしく思った。ホームレス生活をしている人が肩身の狭い思いをしているのは、私のような目に見えるものだけを判断材料として勝手に決めつけ偏見を持っている人がたくさんいるからなんだと気づかされた。
『なんとか罪滅ぼしがしたい』
その思いがホームレス問題を勉強する引き金となった。来る日も来る日もひたすらに図書館にこもって「ホームレス」「野宿」と名前のつくものを読みあさった。そしてとある新聞記事を見て衝撃を受けた。
「ホームレス焼死 少年逮捕1ヶ月」
文字を見ただけでは、言葉の意味を理解できなかった。「ホームレスは社会のゴミだ。俺たちはゴミ掃除、良い事をしているんだ」と同世代の子たちが野宿者を襲撃、殺害していたのだ。彼らは日ごろの憂さ晴らしとしてガソリンをかけたり、爆竹や卵を投げ入れたり、暴行を加えたりしていた。そんな出来事を同世代の子たちが引き起こしていることにショックを隠しきれなかった。
それと同時に『もしおっちゃんたちと直接会って、会話して、誤解が解けていなければ、私も同じようなことをしていたんじゃないか。もしかしたら加害者になっていたんじゃないか…』とも考え始めた。
「ホームレス問題を知ったからには、知ったなりの責任がある」
そういつからか思い始めた。おっちゃんと少年たちの最悪の出会いを食い止めたい、そのために、ホームレス問題の真実を伝えようと活動を開始した。
「同世代の同世代による同世代のための講演活動は、普通に先生たちがホームレス問題について話すよりも、なにか響くものが中高生にあるのではないか!」
そこに、自分だからこそできる何かがある。そう考えた川口は、講演活動をはじめることにした。