【現場の声】 貧困状態に置かれた方々を生み出してきた責任の一端は自分にもある from 相談員 永井悠大
――厳冬期、印象的だったケース
家族へ連絡がいってしまうこと(扶養紹介)がどうしても嫌で、生活保護は利用したくないと何ヶ月もおっしゃっていた方が、冬場に相談に来られたことが印象に残っています。
冬の路上生活、寒さがあまりにしんどすぎて、「いっそあの世に行くか」「Homedoorに相談に行くか」のどちらか…くらいの極限の状態にまで陥られたそうです。
結果的にその方はHomedoorに相談に来られ、宿泊施設アンドセンターに宿泊、居宅確保に至りました。今はお仕事もされているようです。
路上での生活期間が長くなれば長くなるほど、路上生活をやめることの心理的なハードルは高いものになります。
行政の職員が路上を巡回して公的制度の案内をすることもあるため、公的なシェルターなどの案内を受けている当事者は多いです。しかし、路上で生きていく上で必要な資源(自転車、ブルーシートなど)を行政の施設に持っていくことができないため、施設での生活再建がうまくいかず再び路上に戻る場合、文字通り何もない状態から路上生活を再開しなければならないことになります。
外部から見ただけでは「今の路上生活より悪い環境はないだろうになぜ公的シェルターに行くことを躊躇するのだろう」と思ってしまいがちです。
しかし、当事者にとって今の路上生活をやめることは、現状が悪化してしまうリスクを負うことになるということです。
また、路上生活では「支援」を謳って厳しい労働に従事させたり生活保護費を搾取する「貧困ビジネス」の被害に遭うことも珍しくなく、こうした被害が、当事者が他者を頼りづらくさせる一因になっていると感じます。
こうした背景を理解したうえで路上生活当事者とかかわらなければ、なかなか物事が前に進みません。支援を焦らずに、まずはこちら(Homedoor)のことを信頼してもらうこと。夜回りなどを通じた地道な関係性づくりが重要なのはもちろん、実際に相談に来られた当事者にきちんとした対応をすることで、「困ったらあそこ(Homedoor)に行くとええで」と”口コミ”をしてもらえるようになることを目指しています。
実際、路上生活をやめることに強い抵抗感があった当事者が、相談に来た理由を「畳に上がるならここ(Homedoor)に頼ると決めていた」「路上生活の仲間からすすめられたから」と話してくれることは少なくありません。
――心残りだったケース
寒い冬、Homedoorに相談に来られた若いホームレスの方の死が印象に残っています。
精神疾患のある方だったので、グループホームの入居などについてご本人とお話をしていました。しかし、面談の途中、一瞬事務所でお待ちいただいている間に立ち去られてしまい、行方がわからなくなっていました。
その後、路上で突然死してしまったという連絡がありました。
身体に不調を抱えながら長期間路上生活をしている高齢のホームレスの方だけではなく、若い方でも亡くなってしまう。やはり寒い夜を路上で過ごすことは、死と隣り合わせなのだと改めて思い知らされました。
あの面談の日、何か違う声掛けをしていたら防ぐことができたのではないか。答えのない自問をしてしまいます。
――最近Homedoorに来られる相談者の状況
Homedoorに相談に来られる方というのは、幼少期から様々な社会的不利や困難を抱えているケースが多い印象です。
昨今のコロナ禍や物価高で突然生活に困ったというよりも、もともとの脆弱な生活基盤が社会情勢をきっかけに顕在化したというほうが実態にあっているのではないかと思います。
――この冬、宿泊施設アンドセンターの満床状態が続いている理由
まず、寄せられる相談のうち、「今日行く当てがない」という緊急性の高いものが多いことが挙げられるかと思います。
Homedoorに寄せられる新規の相談者数自体は2020年度をピークに横ばいから微減傾向にあるのですが、アンドセンターの利用者数はむしろ増加しています。
また、コロナ禍で先の見通しの立たない不安感などから、すぐに寮付き就労などに移行するよりも生活保護などを利用しながらアパートを契約してじっくり生活再建に取り組みたいというニーズが高まっており、従来よりも一人あたりのアンドセンター利用期間が長期化している傾向にあるように思います。
同じ物件探しでも、最近は当事者の状況に応じて部屋探しを柔軟に対応してくださる不動産会社や支援関係者が増えたことで、本人がより安心・納得できるよう時間をかけて複数の物件を内見したり、福祉サービス付きの物件を検討するということも増えてきました。
アンドセンターに対する需要が高まるなかで、相談者への対応を手厚く、時間をかけるようになった分、―こういった表現が適切かは分かりませんが―いわばアンドセンターの「回転率」が低くなっているという現状はあります。
結果として昨年12月はアンドセンターに入れなかった相談者にホテルを手配するケースが過去最多となり、今年に入ってからもホテルをとるという状況が続いています。
――今後の展望
これまではスタッフ数の関係から、相談者一人当たりにかけられる時間は限られていました。そのため、居宅の確保や生活保護をはじめとする公的制度に繋ぐことはできても、その後の就労支援などまで継続的にサポートすることは難しいのが実情でした。
こうした課題に対応すべく、昨秋より新たに就労支援員を増員しました。
ハローワークへの同行や、アンドセンター退去後の継続的な面談など、より踏み込んだ支援ができるようになってきています。
相談員の体制が安定したことで、相談者一人ひとりにかけられる時間が増え潜在的なニーズを把握できる、ニーズに対応するなかで外部の資源を開拓・活用しやすくなる…という好循環が生まれつつあります。従来はできなかった対応も少しずつできるようになり、手応えを感じています。
しかし、これまで以上に相談者一人当たりにかける時間やコストを増やしているので、やはり今の18部屋の宿泊施設(アンドセンター)では限界があると感じています。宿泊場所の拡充が急務だなと感じています。
――支援を続ける理由
わたしが支援を続ける理由は主に2つあると思っています。
まず、わたしは幼少期から現在に至るまで「経済的に困ったな」と感じたことはありません。むしろ、大学時代には休学して海外を放浪するなど、自由奔放に生きてきましたし、あまり貧困について考えたこともありませんでした。
転機は、大学で福祉社会学を学ぶゼミに入ったことです。
国内外の貧困当事者の実情や社会構造について学ぶうちに、貧困という社会問題を生み出してきた責任の一端が自分にもあるということを突きつけられた思いがしました。
例えば、貧困でない自分たちがより多く負担し、貧困層にもっと再分配するといったことも社会的な選択肢としてはあるはずなのにそうなっていない。その結果として今の自分の生活があると考えると、貧困は自分と地続きの問題であると言わざるを得ません。
自分の生活を成り立たせるために、誰かに貧困を強いている。
そんな「うしろめたさ」、「居心地の悪さ」が、貧困問題に取り組みたいと考えた大きな動機になっていると思います。
貧困支援に関わり続ける二つ目の理由は、語弊をおそれずに言えば「楽しいから」です。
貧困・ホームレス支援をしていると言うと、「色んな人がいて大変でしょう?」と聞かれることも少なくありません。しかし、自分にとってはまさにこの「色んな人」と関われることが楽しくて仕方がない。
例えば、大学に進学するということや正社員を目指すということ等は、自分のこれまでの身近な友人や家族にとって、いわば「常識」でした。
同じような家庭環境や社会階層の人と関わっていると、なかなかそういった無意識のうちに内面化された「常識」を疑う機会はありません。
自分とは違う立場や環境に身を置いてきた方の様々な「生」に向き合い、同じ時間を共有する。その過程で双方の「常識」をぶつけあい、内面化された規範を揺さぶり合う。
当事者の「常識」が社会的な不利の表れとして生じている側面もあることを考えれば、貧困でない立場から当事者との関わりを「勉強になる」「楽しい」と言うのは無責任かもしれません。
しかし、単に貧困の被害者としてではなく、尊厳ある人として向き合い、その生き方から多くのことを学ばせてもらう。渡しながら受け取り、受け取りながら渡す。
そこに、他の言葉では形容し難い「楽しさ」があり、私が貧困支援に従事する動機になっていることは否定しようのない事実です。
今後も、「後ろめたさ」と「楽しさ」を両輪に、貧困問題と向き合っていきたいと思います。
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冬は、「死」ととなりあわせの季節です。
夜が長く寒さの厳しい冬、路上死を防ぐために夜回りの回数を増やしたりと
Homedoorでは活動を強化してまいりましたが
残念ながら命を守れないことがありました。
より丁寧な支援を多くの人に提供するために、冬のサポーターキャンペーンを行っています。
すでに282人の方が新たにサポーターとしてHomedoorの仲間に加わってくださいました! あとわずかで達成です。皆さまのご協力をどうぞよろしくお願いいたします。
お読みいただきありがとうございました。いただいたサポートは、生活にお困りの方への支援として使わせて頂きます。