駄文(ななつぼし)

〇twitter経由で知り合った女とDMでやり取りしたり通話したりしていた。今のtwitterには通話機能までついていたのでびっくりした。技術の進化は日進月歩ですね。

 相手はドSの人らしい。私はドМの人らしい。へぇあたくしはマゾでございます顔面はこんな調子でございます……とメッセージを送りつけると返事があって、ぼちぼちやり取りが始まった。みじめな劣等遺伝子しこしこしなさいと文面で送られたのでみじめな劣等遺伝子しこしこしました! と快活に応じた。俺はもう娑婆に戻る気はないぞ。
 この前、通話をした際に好きな映画を聞くと「シークレットウインドウ」という返事があった。知らないので調べてみると、ジョニー・デップ主演らしい。今度観たい映画に加えた。楽しみがひとつ増えた。

〇職場の健康診断の結果が返ってきた。多血症の兆候、という文言があって、なにやら聞きなれない単語だ。字面から察するに血の気が多いってことかな? たしかに最近はむかむかしっぱなしだ。何か美味しいものでも作って食べて気を紛らわせればいいのだけど、あいにくどこにも米がない。スーパーやドラッグストア、コンビニ、各所の小売店の米売り場には、お詫びのポップが張られている。最近、新米が出てきた。しかし、これも、高い。5kgで3000円!? うせやろ!? ぼったくりやろこれ。ハァ~~~…あ ほ く さ。なにがななつぼしやお前。お前…ホンマ…使えんわー…はーつっかえ! まま、ええわ。今回は許したる。そうしてレジに持っていく。おひとり様一つ限りの米をたくさん買おうとしている客がなんだか騒いでいた。おじいさんのソロ客。車に孫がいるだとかなんだかほざいていやがる。レジ係の人もこちらお一人様おひとつなので……と抗弁するがおじいさんは聞く耳を持たない。私の後ろにもレジ待ちの客が並び始める。おじいさんは憤怒している。わめきたてている。なんや猿ゥ! 黙れや猿ゥ! てめぇみてぇな老いぼれに米なんか必要ねぇんだよ。点滴でも打っとけ。若者に譲れ。そんな風に心で叫びながら、レジ応援に来てくれた他の店員さんの会計を通って、米を買う。おじいさんのまだ憤慨しているのを尻目に米を担いで帰宅する。ええ素材やこれは。俺がじっくり料理してやるわ…みんな見とけよ。

〇何の話?

〇多血症の話。多血症って何だろうと思って調べた。

多血症は、貧血とは逆で血が濃くなってしまう病気です。 血液がドロドロになることで、血流障害が起き、頭痛やめまいといった症状が出ることがあります。 放置すると血管が詰まって脳梗塞や心筋梗塞といった、深刻な病気のリスクを高めてしまいます。

https://mymc.jp/clinicblog/254493/#:~:text=%E5%A4%9A%E8%A1%80%E7%97%87%E3%81%AF%E3%80%81%E8%B2%A7%E8%A1%80,%E3%82%92%E9%AB%98%E3%82%81%E3%81%A6%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

 ぴぇっとなった。お願いします、あの、死にたくないんです。まだ僕は生きていたいんです。あの、僕が死んだらみんな悲しむと思うんです。だからお願いします。なんでもするから。靴舐めるから。はい。死にたいとかよく言ってるけどあれ全部ウソでぇ……。他人から気にされたいだけのかまってちゃんなんです……。まだ人並みの幸せにありつけていないんです。なのに脳梗塞とか……心筋梗塞とか……怖い言葉を振りかざすののやめてくれませんか。「梗」っていう単語が良くないと思います。病名でしか見たことがありません。そこで提案なんですが「幸」に代えるのはどうでしょうか。脳幸塞、心筋幸塞、という具合に。それならまあ、いや、それでもいやです。いやです。助けてください。あの、お願いします。もう一回更生するチャンスをください。今度こそ丁寧な生活をします。酒も辞めます。タバコも辞めます。嫌いな野菜もちゃんと食べます。ブロッコリーとか。

〇オムライスを食べにいった。

 オムライスはアンチが存在しない料理(ex:麻婆豆腐)の代表で、逆張り精神のある私もオムライスにはさすがに首を垂れた。オムライスに逆張りなんてできるわけもない。オムライス嫌いな人間はこの世に一人もいないのだから。

 オムライスでは一時、思い屈した。

 私は付き合っている女に手料理をせがむ段になると、必ずオムライスを注文していた。あるとき、その当座に親しかった女から、なんか作ってあげようかと尋ねられた。私は一二もなくオムライスがいいと返事した。すると女はくすりと、男の人ってみんなオムライスが好きだよね(笑)と言い放ちやがった。
 それ以来、私の心は冷えて、オムライスのアンチになった。反転アンチだ。これはもうちょっとやそっとじゃ治らねぇぞ。たぶん私が人類史上初めてのオムライスレジスタンスだ。私は生きとし生けるすべてのオムライスを憎む月日を過ごした。そうして、幾星霜。私はお腹が空いて、でも健康には気を付けないとな多血症を予防しないとなと思ってラーメンや肉料理を避けた末に、札幌駅地下街のオムライスのチェーン店に足を踏み入れた。昼時だった。ランチメニューがお得らしい。頼んだ。


 久しぶりに食べるオムライスはそれはそれはもう美味しくて、私は今までなんて無様に意地を張っていたんだろうと、スプーンを夢中になってかっこだ。美味しい! 美味しい! 美味しい!! 舌先に香るトマトの味が、卵の柔らかさが、強がりで鎧っていた心を一口また一口ほどいていって、私は裸になった。こんな近くに真実はあったのだな。そう思った。会計を済ませて、ごちそうさまでした、と言って店を出る。道行く通行人のその誰も彼もにオムライスのおいしさを伝えられたらいいと思った。私は叫びたかった。オムライス最強! オムライス最強! 私はオムライスを自分でも作りたいと思った。米ならある。最高の新米が。ななつぼしが。

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