知らないプリキュアのグッズを買う話
こんばんわ、nanaです! 今日はプリキュアの話をします。
わたしが幼稚園児の時に、ほかの女の子たちと同じくわたしはプリキュアにハマりました。ハマった時期は平均的でも観なくなったのはだいぶ遅くて、最初に見たプリキュア5からその続編、フレッシュ、ハートキャッチ、スイートと、足掛け5年、10歳くらいまでプリキュアの映画を親と一緒に観にいったおぼえがあります。
小学校も中学年のころには、まわりはプリキュアを見ている女子も少なくなって、ふだんのおしゃべりでプリキュアの話なんかしなくなりました。それでもわたしは毎日曜日の朝8時半にはテレビの前に陣取って、わくわくしながらプリキュアを楽しんでいました。
わたしもプリキュアになりたい! みんなプリキュアに簡単に飽きてしまっているけれど、わたしはひたむきに、プリキュアになりたいなれるはずだという一心で、プリキュアを見続けていました。
スイートプリキュア♪ がわたしはいちばん好きでした。小学四年生のころです。
絵柄が、ほかのプリキュアとは違ってどことなく大人びていて、そこがとても好きでした。お話も、ほかのプリキュアだったら仲良しこよしな感じなところ、スイートプリキュアは始終ケンカしてばかりいました。なんだか等身大の感じがして近く感じられて、変身するロッドのおもちゃをお母さんにねだったものです。けれどお母さんは、もうこんなのいらないでしょと一蹴して結局おもちゃは買えずじまいでした。今でもセカンドストリートとかハードオフとかに行って、中古でそのおもちゃが売られているのを見かけるたびに、ちょっとほしくなります笑。
四年生の時の同じクラスに、夜ちゃんという女の子がいました。どこかの女子グループに入っているわけでもなくて、といって男子と仲がいいわけでもなくて、好んで一人でいるような感じの子でした。彼女の筆箱はスイートプリキュアの筆箱でした。いいなあ! わたしも欲しくてお母さんにねだったのですが、こんなのもう恥ずかしいわよと言われて、ビニールケースの筆箱を使っていました。ほかの女子もプリキュアの筆箱なんか使っている人はいなくて、お母さんの言う通りたしかにプリキュアの筆箱は周りから浮いてしまったでしょう。
そんなことを気にせずにプリキュアの筆箱を使っている夜ちゃんが、わたしにはうらやましくて格好良くて、こういうひとが本当のプリキュアになれるのだろうな、なんて思ったりしました。
理科の授業、理科室で、二人一組で行う実験がありました。理科室の席次でわたしはよるちゃんと一緒になりました。夜ちゃんは相変わらずプリキュアの筆箱を使っていました。
実験の終わった組から、ほかのグループが終わるまでめいめいおしゃべりをし始めました。わたしはそれまで夜ちゃんと話したことがなかったですが、今を逃したらさりげなく話す機会を失ってしまいそうで、とっさに
「それ、かわいいね」
わたしはできるだけ何の気なしに聞こえるよう、その筆箱を指さして言いました。
「今のプリキュア?」
すっとぼけました。スイートプリキュアであることはわかっていました。ピンクの髪がキュアメロディで横にいるのがキュアリズムでふたりは幼馴染でケンカばかりしていて……。
うん、と夜ちゃんはいいました。
あああ話が終わっちゃう。せっかくプリキュアの筆箱を愛用している夜ちゃんと話せるチャンスなのにプリキュアの話ができるかもしれないのに。
「大人っぽい絵だね」
かろうじて言葉をつなぎました。
「わかる?」
夜ちゃんが食いつきました。わかるよ!!!!!! そう叫びだしたい気持ちを抑えて、わたしは役に入り込もうとしました。わたしはプリキュアを知らない。今のプリキュアが誰かさえ知らない……。そう言い聞かせないと自分から、キュアメロディかわいいよねとか、知らないはずの名前を言って語るに落ちてしまいそうでした。私はピンク髪を指さして、
「この子好き」
夜ちゃんの返事はすぐでした。
「でしょ」
まるで自分が褒められたみたいに夜ちゃんはにっこりしました。自分の好きなものをはっきりといえる夜ちゃんが、あらためてうらやましくて格好良くて、私は自分のビニールのペンケースを見て、ああ、わたしはプリキュアになれないなと分かりました。
これまで、プリキュアを見なくなったほかの女の子を、心の中ではまじめじゃないとか思っていました。けれどいちばん不真面目なのはわたしじゃないか。好きなものをひた隠しにして、嘘ばっかりついて。プリキュアの敵だ。わたしはたぶん、敵役だ。
そう思うと、わたしはうっと黙り込んでしまって、夜ちゃんもそれ以上何か話すことはありませんでした。どの組も実験が終わってチャイムが鳴って、教室に戻って、わたしはそれから夜ちゃんと差し向かいで話すことはありませんでした。
あのときもし、わたしが今のプリキュアを知っていると、スイートプリキュアが大好きだと夜ちゃんに伝えていたら。そんな後悔を何度したかわかりません。
わたしはそのころひそかに、自分がプリキュアになったときの名前を考えていました。わたしの名前の一部、nana、七、からとってキュアセブン、これはしゃれてる、なんてひとり意気込んでいました。夜ちゃんもそうだったかもしれません。夜ちゃんはキュアナイト、みたいな夢想をしていたでしょうか、それはもうわかりませんが、そんな空想話で盛り上がっていたかもしれず、夜ちゃんはその年の冬ごろに、別の学校に転校していきました。その行った先の学校でも夜ちゃんはきっとプリキュアの筆箱を使って、プリキュアを見ている同級生の友だちができているかもしれない。そう想像しては、あのときどうしていらないごまかしをしたのかと、悔やんでも悔やみきれませんでした。
わたしはプリキュアになれない。キュアセブンになれない。そうわかって、ようやくプリキュアから離れていきました。毎週欠かさず見ていたのが、録画でもいいやとなって、その録画も溜まっていって、お母さんに消されて、わたしはいつしか別のものにハマっていました。
今日、お買い物に街に出かけて、映画館近くを通りました。何か面白そうなものはあるかな、なんて、気まぐれにふらふら立ち寄って、ふと「映画デリシャスパーティ♡プリキュア」という看板に出くわしました。そういえばプリキュアのシリーズ映画はこの時期です。まったく名前の分からない女の子たちがプリキュアになっていました。たぶんわたしより年下でしょう。
わたしがなれなかったプリキュアにきちんとなれている子たちがいて、ふいに夜ちゃんを思い出して、夜ちゃんはこの映画を見るのだろうかななんて想像しました。公開は明日からでした。わたしはわたしと同じ年になっている夜ちゃんの姿を想像できませんでした。
ふと物販コーナーに、公開前なのにさっそくプリキュアのグッズが売ってありました。タオルやパンフレットやシールなどなど。わたしはそのなかからボールペンをひとつ、レジまでもっていって買いました。770円。お母さんがプリキュアのおもちゃを買ってくれなかった理由がわかりました。