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雑記(映画)

 映画館で映画を観るのがここ二年ばかりで趣味になってきた。もちろん、サブスクでも観たりはするのだけど、自室だとどうしても気が散ったり、洗濯が終わったら途中で止めて服を干したりしてしまう。それが映画館だと、大きなスクリーンで、携帯の電源をオフにして、映画の世界それだけに没入できる。途中停止なんてないし家事も後からすればよい。二時間前後をひとつのことに集中できるのは、映画館ならではの楽しさだと思う。

 それだけに、ハズレの映画を引いた日はもうそれだけでダメだ。さいわい私はまだ三回しか映画館でハズレを引いていない。ほんとうは一回も引かないのがいいのだけど、小説と同じく、じっさいに触れないとわからないものだから致し方ない。私のワーストは「アイスクリームフィーバー」という、去年「君たちはどう生きるか」と同日公開された、川上未映子の小説原作の映画だ。あの川上未映子――「ヘヴン」や芥川賞受賞作「乳と卵」、最近では「黄色い家」「夏物語」で評価はうなぎのぼりの、私も大好きな小説家――彼女の短編が原作だなんて、観ずにはいられなかった。もとになった小説は「愛の夢とか」という短編集に収められていて、これも良かった。特に「十三月怪談」という小品は読んでべそべそ泣いた。やっぱ、川上未映子って最高なんだよなあ……! そうして、「アイスクリームフィーバー」のムビチケも買って、ジブリ映画は後にして、公開初日の初回にいそいそ出向いて、ものの見事に期待外れだった。原作とか……川上未映子の小説世界の魅力とか……そういうものが一切ない。端的につまらない。私はべそべそ泣いた。「十三月怪談」とは違う涙だった。「君たちはどう生きるか」で口直しをしてどうにかなった。

 先々月公開された「箱男」も、まったく拍子抜けだった。タイトル通り安倍公房の原作だが、とにかく結末が鬱陶しい。それ、いる? まあ、「アイスクリームフィーバー」に比べたら原作リスペクトもあるし、箱男同士のバトルはちょっと面白い。美点に比べて欠点が大きいのが、残念だった。

 そして今月。いよいよ映画「ジョーカー」の続編「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」が公開されて、うっひょお! と矢も楯もたまらず観に行って、失望して帰ってきた。観終わった直後は、まあ、面白くないね……という感情だったのが、思い返すたびに憤怒は積もり、いや駄作だろうと強く思った。共感を求めてSNSを頼った。「ジョーカー2 感想」で検索。よし、どいつもこいつも批判してるな。俺の眼は間違ってなかった。画面をスクロールする。……なに? 面白かった? 馬鹿を言うな。面白くなかっただろうが。肯定的意見を読むと、なにやらあえてこういうふうに監督は作っているのだとか、トッド・フィリップスの2作に対して興味がないとダメかもね(笑)みたいな、訳知り顔の、映画通を自称しているような、逆張りという単語一つでレッテルを張って構わない連中が見受けられた。こいつらは小説の世界に来たらまず間違いなくハルキストになる。「ノルウェイの森」の良さがわからないのかい? みたいな面で、スタバで村上春樹「1Q84」を洋書版で読んでやがるに違いない。いや「ノルウェイの森」は名作ですが……。話がややこしくなるから黙ってて。はい。ともあれそれでも「ジョーカー2」は駄作ですよ。だって、ひとと一緒に観る気にならない。

 良い映画は、誰かほかのひとと一緒に観たいと思わせてくれる。私はそう偏見している。映画館に通うようになって、自分なりのものさし、判断基準が出来たのだった。サブスクでも映画館でも、とりあえず私はいつも一人で観る。感動する。ああ、この面白さを誰かと分かち合いたいと思える映画。そういう作品が、私は好きだ。

 最近観た映画の話。

〇アビゲイル

 誘拐犯集団が連れ去った少女は、ヴァンパイアだった……。という簡易な予告で、サスペンスものなのかあと暇なときに観に行ったら、良かった。私はホラーが苦手なのだけど、「アビゲイル」のおかげで、ホラーはホラーでも血がバカみたいに出るタイプのホラーは楽しめるとわかった。バカみたいな映画だった。ヴァンパイアの少女はなんとバレリーナでもあるという! だからどうした。「アビゲイル」はバレリーナヴァンパイアというジャンルのパイオニアであることは間違いなく、後続はないだろうけど汲めども尽きぬ魅力があって、パンフレットも買った。

アビゲイルちゃんかわいいね♥

 バレリーナ設定のヴァンパイアの戦闘シーンで、きちんと舞うように受け身を取っているアビゲイルちゃんがかわいくて、最後のほうは血みどろではない場所を探すのが難しいくらい真っ赤で、笑っていいやら怖がっていいやらわからない、はじめての感情に出会う映画だった。

 監督陣が同じ映画を探したら、「レディ・オア・ノット」という作品を見つけて、どうやら日本では劇場公開されていなくてサブスクでしか観られないらしい。新婚早々嫁いだ家で花嫁がその一族のデスゲームに参加させられるというお話で、「アビゲイル」よりは血みどろじゃなくてマイルドだった。最後のほうはヒロインといっしょになって笑った。バカバカしい仕来たりや家族の伝統を一蹴していて、とても気持ちがいい。爽快感という一点においては他の追随を許さない映画。最近、続編の制作が決定したらしい。「レディ・オア・ノット2」、公開されたら仕事を休んででも私は観に行きたい。

〇犯罪都市 PUNISHMENT

 

 韓国映画のシリーズもの。主演のマ・ドンソク演じるタイマン最強マ・ソクトが、腸の煮えくり返る悪役を成敗する刑事ドラマの最新作。マ・ソクトが勝つと分かっていても、悪役も中々に強くて、今作のラストバトルでは今までと異色の1対2になる。さすがのマ・ソクトも厳しいかと固唾を飲んだが、怒りの鉄拳は悪役どもに振りかざされて、カタルシスというのか、余韻が気持ちいい。もし応援上映だったら私は四六時中「殺せ!!!!」と叫んでいたと思う。シリーズならではのいつものキャラクターがいて、安定感も抜群。これだよこれ、こういうのが好きなの私は。

〇侍タイムスリッパ―

 最初は東京の単館上映だったのが、口コミが口コミを呼び、全国上映にまで相成ったらしい。私の住む北海道でも晴れて公開された。面白いらしいといううわさを聞いて、期待はいやが上にも高まったが、いざ観るとそれを超えていく面白さ。時代劇って私自身あまり観たことがないのだけど、これからもうちょっとアンテナを伸ばして、時代物を観てみたいなと思わせる、時代劇愛に満ちた物語。観客に対しても、面白く魅せたいという想いが伝わってくる。「ジョーカー2」ではありえなかった演出である。出演者のギャラにじゃぶじゃぶ金を払って作ったジョーカーの新作より、なるほど低予算で作られたのだろうと分かる、しかしそれでも観客へのエンタメ精神を忘れない「侍タイムスリッパ―」は、最良の口直しになった。

 殺陣のシーンがどれを切り抜いても良くて、刀と刀がぶつかりあい、つばぜり合い、俳優同士が互いをにらみ返す場面のハラハラ感といったらない。人情味もあって笑えて熱くなれて、観終わった後に、あーあいい映画だったと思える、口コミで話題になったのも肯ける物語。楽しい! 誰かと観に行けばよかったなあ。そう思う。相手を探す。しかし、私には、友人がいないのだった。良い映画は、誰かほかのひとと一緒に観たいと思わせてくれる。私にはその肝心要の、誰かほかのひとがいないのだった。だからこうして、インターネットは場末のnoteにて、誰かほかのひとに情熱を伝えたいのだ。「侍タイムスリッパ―」はよかったよ。「犯罪都市」も最高だ。「アビゲイル」は……、まあ、ひとを選ぶと思う。それでも誰か、誰かほかのひと、ほかのひとに、私の熱が届けば嬉しい。「侍タイムスリッパ―」だってきっと、そういう小さな声の重なりから、単館を飛び越えて北海道にも来たのだろう。私は絶叫する。「アビゲイル」を観てください! 「犯罪都市」を観てください!! 「侍タイムスリッパー」を観てください!!! だれか、私の話を聞いてください……。

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