100日後に30歳になる日記(25)

◆5月28日

俺も不真面目を演じているだけの、頑張り屋で、誠実な男の子なんだ
プロデューサー、俺はここにいる
助けてくれ

 学園アイドルマスターというソシャゲばかりしている。

 紫雲清夏、という女の子が、いちばん気に入った。ゲーム内で描かれる物語も、プロデューサーとの掛け合い含め、とても良質で、夢中になった。

 彼女のキャラ説明には「授業やレッスンをサボる不真面目なギャル」とある。アニメや漫画、ゲームに登場する”ギャル”なんていう要素は、現実のギャルとは全く違う、内面にギャップがあるという符牒に過ぎない。メガネっ娘が眼鏡をはずすと意外と美人という風な外見上のギャップの道具立て(ex:長門有希)なのと同じだ。いや、長門有希の眼鏡を勝手に外さないでください。話がややこしくなるからちょっと黙れ。

 紫雲はギャルという要素通りに、彼女なりの挫折を抱えていて(挫折を抱えていない人間なんているか?(黙れっつってんだろ(はい)))その屈託に真摯に寄り添うプロデューサーが、紫雲の物語に彩りを添えている。ほかの学マスキャラの物語だとどこか軽薄だったり鈍感だったりするプロデューサー(≒プレイヤー)が、紫雲に対してはきちんと二人三脚をしていて、好感を持てた。紫雲自身の境遇が、私の好きな神アニメ「ポールプリンセス‼」を彷彿させられて、悶えた。幼馴染を応援するギャルって……いい。ひたむきで、力強くて、爽やかで、何より元気で。私は惚れた。紫雲の覚悟が、肝の据わっている感じが、また良い。不真面目を演じながらもまっすぐさを失わずにいられるその輝き、それは私がとうの昔に失ってしまった光に他ならず、その後光に灼かれた。

 紫雲、私が貴女をかならず完璧で究極のアイドルにするから。

◆5月29日

 学マスに課金。紫雲のSSR狙い。一万円ぶん。しかしサポートカードのSSRしか来なかった。ふざけてんのか。汗水垂らして稼いだ俺の金をなんだと思ってやがる。

 なんつーか 一度課金したら、
「課金する」っていう選択肢が
俺の生活に入り込むと思うんだ
プロフィールをぜんぶ紫雲にした
どの紫雲もかわいいね
みんなもいっしょに学マスやろうね

◆5月30日

数週間ぶりの上級エリートタグ!
🥰

 アークナイツくんが学マスに浮気している私を見かねて、高レアを無料でくれた。やっぱアークナイツよ。学マスも見習ってくれ。



 三十路を間近に控えたいい男(顔のこと?(いいえ(じゃあなにがいいの?(とぼけないでください(何を?(わかっているでしょう(わからないよ(残念です))))))))が熱中するものがソシャゲだけって、あまりに哀しい。
 人に大っぴらに言えない趣味ばかり増やしている。例えばひとから、休みの日に何やってるの? と訊かれたときに、まさか学園アイドルマスターですとは言えない。察せられてしまう。いやぁ、本を読んでますね笑 とか答える。でももうちゃんとした読書なんてしばらくしていない。読書くらいしか人前に晒せる趣味がないのに、それさえ失ったら、私は、日がな一日ベッドの上でスマホをぽちぽちやって時々アニメを観る、陰気な、臭い、不潔な、ひとりぼっちの、怪物に成り果ててしまう気がする。いや、もう半分なっている。果たしてまっとうに生きようとする気力さえ忘れて幾星霜、そういえば私は何のために生きているのだろうな、と不意に疑問が浮かぶ夜があり、しらふではいられなくて酒に手を出す。たまらずソシャゲにログインする。彼女たちは笑顔で私を迎えてくれる。おはよう、プロデューサー。あら、どうしたのドクター。おはよう、紫雲。なんでもないよ、ヴィヴィアナ。そうだ。私は彼女たちに求められている。それでいいよな。これでいいんだ。間違ってないだろ。間違ってないよな。間違ってないよな。

 私だって信念があった
 今じゃ塵みたいな想いだ

◆5月31日

 最近、修学旅行生らしき中高生の一群をよく目にする。

 私も中学生のとき、この札幌を修学旅行で訪れた。彼ら彼女らを見るとなんだか懐かしくなる。まさか自分が、修学旅行で観光として行った場所に十年余も住むことになるとは想像していなかったけれど。

 修学旅行では班決めがあって、各クラス男女別でそれぞれ4つか5つのグループに分かれて行動することになった。どの班もたいてい仲良しグループでまとまる。その班決めのときの朝、クラスの女子たちが一人を除いていやに早く登校してきて、そのハブになったひとりをどこの班にいれるか会議をほかの男子がいる前で大っぴらに催しているのを目にしたときには、驚いた。結局イジメられていた女の子は、冴えないと目されている女子グループの一員になっていた。
 私は小中高と、友だちがいないので、修学旅行では私と同類の、友達いないグループで班になった。班とはいっても親しくない者同士、昼飯こそ札幌まで来たのにマクドナルドで済ませて(班で一緒のところじゃないとダメだった)、それからはめいめい自由散策。時計台に向かう人もいればそのままマックに居座ってホテルの集合時間までのあいだゲームをしているという人もいて、私は地元になかったアニメイトに足を向けた。ひとりでいるのは心細くて、こんなオタク専門店みたいな場所にひとりのそのそ入っていく様を違う班の人たちにまかり間違って見られたらと思っていたが、ハナから教室ではラノベばかり読んでいるキモい人と認識されていたので失うものは何もなかった。アニメイトに入って、これがアニメイトかぁと感慨にふけって、冷やかして出た。とらのあなも見た。メロンブックスも行った。まんだらけも足を踏み入れた。どの場所でも何も買わずにしまった。そそくさマックに取って返して、さっきみんなで昼飯を食べていた座席を見やると、班員の一人は言った通りゲームをしている。私はアイスコーヒーを注文して、彼に向かい合うように座った。ゲーム機から視線を私のほうに向けてくる。私が持っていないPSP。どうした? 彼が訊いた。俺も集合時間までここで待つわ。そう答えた。彼はそれからモンハンの続きをはじめた。私はアイスコーヒーを一口飲んで、むせた。シロップをふんだんに入れた。

 修学旅行生の集団を見ると、大半がわいわいしている中で、スンとしていたり、輪の中から外れている男子が少なからずいて、私は彼らに感情移入する。札幌まで来てマクドナルドで済ましそうな彼ら。vtuberとか見てそうな風貌。ソシャゲをしていそうな雰囲気。色白く、面長で、眼鏡で、眼鏡をはずしてもギャップなんてないだろう面構え。私は彼らに声をかけたくなる。ここの飯屋がおいしいよ、なんてアドバイスしたくなる。地下鉄で簡単に行けるよ。私にはまだ分別が残っているので、話しかけずに彼らとすれ違うだけで終わる。まあ、あぶれもののグループでも、それはそれで楽しい旅になるはずなので。

 やってみる? と彼はPSPを私に手渡してきた。受け取って、やってみた。すぐに死んだ。

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